岩田
そうやって世界が決まり、試作品もでき、
このゲームの面白さの核もできて
本格的な開発に入っていきますよね。
今回は物量との戦いはどうでしたか?
いままでに経験したことのない物量だったんでしょう?
本間
そうなんです。
いままでのソフト開発では物量的な限界があって、
僕らは、泣く泣く諦めたところもありましたので、
今回は限界までやろうという意気込みでつくっていました。
たとえば、僕が担当したパートで言いますと、
シナリオは全部、自分で書いたのですが、
戦士や逃げ惑う住人などのセリフが
いろんなシチュエーションで変わるように
極限まで増やすようなことをしました。
岩田
状況に応じてセリフが変わるんですね。
本間
ええ。ですから、このゲームに使った台本だけで
最終的に積み上げると10センチを超えるものになりました。
しかも、アフレコにかけた期間は3ヵ月を超えたんです。
岩田
3ヵ月も、ですか?
本間
ええ。だから僕は3ヵ月間、
ひたすらスタジオに通っていました。
今回はフルボイスでつくっていて、
その多くが、戦士や逃げ惑う住人たちのセリフなんです。
彼らはAI(※9)ですので
そのときどきの状況に応じてしゃべるようになっているんですね。
ただ、声優さんたちには申し訳なかったんですけど、
「神々のためにー!」とか「オーディンのためにー!」とか
「攻撃だー!」とか「剣を構えろー!」とか
叫び系ばっかりだったので、毎日叫び続けた声優さんののどは
最後にはガラガラになってしまったんです。
野口
だから、声優さんの間に
「この仕事はヤバイ」というのが
広まってしまったみたいで・・・。
一同
(笑)
※9
AI=人工知能(Artificial Intelligence)。コンピュータが人間の脳の働きを模倣し、知的な作業を行うこと。
岩田
長いこと拘束されるし、やたら叫ばされるし、
次々にリテイクを求められるし、ということが
噂になってしまった感じだったんですね。
本間
巨神に襲われた村人の
「キャー!!」とか「ワー!!」とかの悲鳴にしても、
パターンがいろいろあったりしますし。
岩田
悲鳴にもいろいろパターンがあるんですか?
本間
はい。そこはやっぱりリアルを追求したかったんです。
たとえば、巨神の姿が自分の肉眼ではまだ見えていないけど、
どうやら数百メートル先に来ていて、
周りの人が「巨神が来たー!逃げろー!」と騒いでいて、
そのときの「キャー!!」という悲鳴と、
すでに目の前に現れた巨神が、いまにも棍棒を振り上げようとしていて、
「殺されるー!」というときの悲鳴の度合いは違うはずなんです。
ですので、同じ「キャー!!」でも数パターン収録して、
巨神との距離をはかりながら、
悲鳴を3〜4パターン使い分けるようになっているんです。
それに、人数もたくさんいて、
同じ人が毎回叫んでいるわけにもいきませんし。
岩田
なるほど、常に同じ人が叫んでいれば、
リアリティが欠けることになりますからね。
本間
ですから、悲鳴のパターンがいっぱいありまして、
さらに、通常のセリフももちろんあって、
雑談をしているセリフもものすごい量あるんです。
岩田
それで、台本が10センチの高さになったんですね(笑)。
本間
はい(笑)。だから、こういう仕事は
もう二度とできないんじゃないかと、自分で思いました。
岩田
でも、その割には楽しそうに語っておられますね(笑)。
野口
のど元をすぎたからです(笑)。
本間
でも今回は僕だけじゃなくて、僕はたまたまそのパートで
そんなきつい思いをしましたけど、
各自それぞれに同じような思いを今回はしたと思います。
岩田
では、五十嵐さんは
どんな物量との戦いがあったのですか?
五十嵐
今回はキャラクターが多いんですね。
岩田
確かにすごく多そうですね。
五十嵐
デザインはHACCANさんにお願いしたんですけど、
一般的にイラストレーターさんというのは
スケジュール通りにあげてくださるのは希でして、
基本遅れぎみになっていくんです。
岩田
どんどん予定がおしてくるんですね。
五十嵐
そうなんです。
「頼んでからずいぶん時間がたったのに、
まだキャラクターが3人しかできてないぞ」みたいな(笑)。
でも、開発は先に進めなければいけませんし、
今回はイベントシーンもありったけつくろうという話だったんです。
本間
ムービーだけで1時間を超えましたしね。
五十嵐
だから、1時間のものをつくるとなると
これくらいの制作期間が必要だということで、
スケジュールをたてるんですけど、
相変わらずキャラクターのデザインがあがってこないんです。
本間
モーションキャプチャーをする時点でも
キャラクターデザインができていなくて、
CGモデルすらつくることができなかったんです。
岩田
それじゃ何もできないじゃないですか(笑)。
本間
それで、役者さんから
「僕は右手に何を持っているんでしょうか?」
みたいなことを聞かれたんですけど、
五十嵐さんもそこは必死になって(笑)。
五十嵐
その場の勢いで「こんな感じに」と
指示を出したりしました(笑)。
岩田
辻褄はあとで合わせることにしたんですね。
五十嵐
はい。それに身長の対照表とかも当然必要なんですけど、
デザインがあがっていないので、
きっとこのキャラクターはこうだと大まかに決めて、
あとから当てはめるということをせざるを得なかったんです。
岩田
それはずいぶんサーカスのようなことをしましたね。
本間
そもそもデザインが遅れた理由は、
先ほどもお話ししましたけど、
北欧神話のビジュアルイメージがありませんでしたので、
HACCANさんもとても苦労されたと思うんです。
五十嵐
実際、何枚もあげてくれるんですけど、
描いた本人が「イマイチです」みたいな感じで持ってくるんです。
ですから、遅れているけれども、
「とにかく何でもいいからデザインをあげて」とは言えず、
「がんばってください」としか言いようがなかったんです。
その一方で、武器が日々増えていくようなことがありまして。
岩田
キャラクターがあがってこないのに
武器が日々増えていったんですか。
それはいったいどういうことですか?(笑)
五十嵐
武器をつくっていると、
新しい武器をポンと思いつくみたいなんです。
岩田
それは野口さんが、ですか?
五十嵐
はい。すると、ある日突然、
見たこともないような機能を持った武器が増えているんです。
そんな感じで、どんどん武器が増えていきまして、
最終的に300種類を超えました。
吉川
僕は最初、100種類くらいになると聞いていたんです。
山上
そうそう、企画段階ではそれくらいしかなかったですよ。
岩田
100種類でも多いと思いますよね。
野口
でも、なぜか300種類以上になりました(笑)。
岩田
野口さんは何を考えて、武器を増やしたんですか?
増やせば増やすほど、明らかにプログラマーは大変になりますよね。
野口
そうですね・・・、
まず、ひとつの武器を制御するプログラムをつくって
パラメータを組み替えることで、
いろんな武器をつくれるようにしているんですけど、
今回はWiiリモコンを使っての新しい操作でしたので、
おのずと武器がどんどん増殖していったんです。
岩田
ああ、なるほど。
野口
Wiiリモコンの扱い方で増殖していって、
そこから生まれた武器のパラメータを変えると
また新しいことができるという感じで、
どんどん派生していったんです。
岩田
構想の段階では100種類だったのに
実際にWiiでつくりはじめると、次々と新しい発見があって、
そこで思いついたことは試してみずにはいられない。
その結果、武器の数がどんどん増えて、
最後には300種類を超えてしまったんですね。
野口
そうなんです。
その結果、わたしの人生のなかで
いちばん武器を大量につくったゲームになりました(笑)。
岩田
でも、野口さんが武器をひとつ思いつくと、
そのためにグラフィックも用意しないといけないんですよね。
五十嵐
はい。
ある日プレイしていると、
「何だこれは?」という、知らない武器が増えているんです。
そういうのを見つけるたびに、慌ててデザイナーのところに行って、
「こういう機能の武器が増えちゃったんだけど、ひとつよろしく」
みたいに頼んでました(笑)。
本間
モデルを準備するだけでなく
説明文を書くようなことを
マスターアップ直前までやっていましたので
すごく大変でした。
でも、僕らとしては、野口さんが思いついたアイデアを
決して無駄にはしたくなかったんです。
それもまた、僕らの仕事のひとつだと思っていましたし。
五十嵐
本当にそうでしたね。
岩田
サンドロットさんの物量との戦いは、
以心伝心でお互いの仕事を補いながら
進めておられたんですね。
本間・五十嵐・野口
はい。