岩田
DSを使ってのおでかけって、どうやるんですか?
DS版のソフトを持っていないお客さんもいらっしゃいますよね。
野上
DSソフトは必要ありません。
DS本体が1台あればいいんです。
DSダウンロードプレイの機能を使って
プレイヤーのデータをダウンロードし、
スリープモードにして友だちの家に持って行けば
友だちの村で遊ぶことができるようになります。
岩田
つまりDSがデータを運ぶための装置になるんですね。
野上
DSの「おでかけツール」と呼んでいます。
家にインターネットがつながってなくて
最初は1人で遊んでいるような人でも、
部屋をきれいにレイアウトしたり
村をキレイに飾ったりして
いずれは、人に見せたくなっちゃうことがあると思うんです。
そんなときは、「おでかけツール」を使って
友だちに遊びにきてもらうようなことをしてほしいんですよね。
岩田
逆に、友だちの村に遊びに行けば
自分の村では入手しにくい、
アイテムなんかを手に入れることもできますしね。
野上
いまはつながっていなくても
いずれはつながる日がきっと来る、
そんな気持ちで楽しんでいただければと思います。
岩田
あと、DS版を持っている人は、
Wii版に一部の情報を引き継げるようになっているそうですね。
野上
やっぱり、DS版を長く遊んでいただいて
自分が育てた村に愛着を感じているお客さんが
たくさんいらっしゃると思うんですね。
DS版の村で何がいちばん大事だったかというと
いっしょに遊んできたプレイヤーだと思うんです。
そこで、プレイヤーの顔と名前、
それにカタログをDS版からWii版に引き継いで、
お引越しできるようにしました。
※「DSからWiiへお引越しするには?」紹介映像はこちら
岩田
カタログがあれば、DS版で集めた家具などを
たぬきちのお店で注文できるんですね。
でも、お金や持ち物などが
引き継げないようにしたのはなぜなんですか?
野上
Wii版に引き継いでも、
プレイヤーはDS版に残ってるんですね。
DS版をいまも遊んでいるお客さんもいらっしゃると思いますし、
それで、お金とか家具を全部持ち出せちゃうと・・・。
岩田
ゴーストタウンみたいになっちゃう(笑)。
それはツライですよね。
野上
虫や魚なども引き継げないようになっています。
そこはやっぱり新たな気持ちで挑戦していただきたいので。
虫や魚は、ひととおりボリュームアップしていますし
なかには変わったヤツもいるので
挑戦のしがいがあると思います。
岩田
じゃあ、最後の4つめの軸について訊くことにしましょうか。
野上
4つめの軸は、あとからアイテムをいろいろ追加したいなあと。
ゲームキューブの『どうぶつの森e+』のときに
キャラクターの追加ができるようにしたことがあって・・・。
岩田
カードeリーダー(※6)を使って、
追加のキャラクターを読み込めるようにしていましたね。
※6
カードeリーダー=ゲームボーイアドバンスの周辺機器。カードeに印刷された二次元バーコードを読みこむことによって、ミニゲームが楽しめたり、新しいデータを追加することができた。
野上
ゲーム専門誌でキャラクターを募集するなどして
あとからそのどうぶつを自分の村に
住まわせたりすることができたんですけど、
カードeの容量に限りがありましたので・・・。
岩田
でも、Wiiになった今回は違うと。
野上
そうですね。今回はいろんなことができそうです。
たとえば、飲料メーカーさんとタイアップして
本物そっくりの自動販売機の家具をもらえるようにしたりだとか。
現実にあるものが家具になるとやっぱりうれしいですよね。
岩田
それにしても、このソフトにはたくさんのどうぶつが登場して
しかもインターネットを通じてウワサが伝播し
さらに、365日、四季の変化があって
村ではさまざまなイベントが起こると。
あとからアイテムが追加されるだけでなく、
プレイヤーの歩いた跡がわかったりすると。
デバッグの作業はものすごく大変だったんじゃないですか?
毛呂
そうですね。とくに開発の後半戦はすごく大変でした。
岩田
「後半戦」という言葉に、戦場の匂いが漂ってますね(笑)。
毛呂
まさに戦場でしたね。
一般的なゲームだと
順を追ってデバッグすればいいんですけど。
岩田
『どうぶつの森』には順番なんてないですからね。
毛呂
しかも、いろんなことが網の目のように絡み合っていて
どこから手をつけたらいいのか
どこをもって終わりとしたらいいのか
わからないゲームなのでとても大変でした。
岩田
本当にお疲れ様でした。
それでは最後に、お客さんへのメッセージをお願いします。
最初はサブディレクターの毛呂さんから。
毛呂
わたしは、どうぶつが引っ越ししそうなときはご注意を、
とお伝えしたいです。
岩田
DS版のときは、どうぶつが家具を段ボール箱に詰め込んだときに
引越を引き留めることができましたよね。
毛呂
でも、明らかに明日引っ越す予定で荷物までまとめてるのに
「引っ越さないで」って引き留めたら
「じゃあやめる」ってあんまり現実的じゃないですよね。
そこで、Wii版では段ボールの状態になる前に
引っ越そうかなと思ってる状態があって、
そのときに相談を受けることがあれば、引き留められるようにしました。
あと、お伝えしたいのは毎日15分ずつでもいいので遊んでほしいです。
遊べば遊ぶほど魅力がどんどん増していくようになっていますので。
岩田
じゃあ、デザイン担当の小林さん。
小林
これまでのファンの方にも、初めての方にも
楽しく遊べるようにつくりましたので
毎日コツコツと遊んでほしいと思っています。
で、遊ぶときは空の変化も気にしていただきたいなあと。
岩田
DS版は2画面だったので
いつでも空を見られましたよね。
小林
空に関しては、すごく試行錯誤しました。
2画面でなくなって初めて、
空が見えなくなることのモノ足りなさを強く感じたんです。
DS版と同様に地形をドラム状にして
画面の上のほうに空が見えるようにし、
なんとか空の変化がわかるように工夫したつもりです。
で、「お天気チャンネル」と連動するようなことも考えたんですけど
残念ながら見送ることにしました。
各国の気象データを調べてみたんですけど、
ほとんど雨の降らないような地域がある一方で
1年の半分以上が雨の地域もあったりするんです。
岩田
家の外で雨が降り続いていて
ゲームの中まで雨が降ってると
やっぱりツライですよね(笑)。
それでは、京極さん。
京極
Wii版では再びテレビで遊ぶことになって、
DS版で初めて『どうぶつの森』を触った方には
まったく違う感覚の遊び方になるのかなあと思っています。
一方で、もともとN64やゲームキューブからはじめられた方は
懐かしい感じもあるのかなあと思います。
『どうぶつの森』というシリーズは
同じ(たぬきちの店での)アルバイトからはじめて、安心感もあるんですけど、
いろんなところで変わっていて
今回も新鮮に楽しめる部分がたくさん入っています。
なかでも、どうぶつとの会話はぜひ楽しんでほしいです。
ふつうの会話はもちろん、
絶対にこんなことはやらないだろうなというところまで
いろんなリアクションが楽しめるように
細かいところまで気を配っていますので。
岩田
どうぶつにしつこく話しかけたりすると、
しまいには怒り出してしまうこともありましたよね。
京極
そうです、そういうことをたくさん考えました。
お客さんにとっても、こういうところまでセリフがあるのかと
うれしく感じてもらえるかなあって。
プレイヤーとして自分でやってもうれしいですしね。
岩田
ちょっと参考までに訊きますけど、
テキスト量は全部でどのくらいに?
京極
160万文字くらいです。日本語だけで。
岩田
さらっと言いましたね、160万文字って(笑)。
すぐには想像のつかない量ですね。
たとえば原稿用紙は1枚400文字だから、
ぎっしり書いた原稿用紙
4000枚ということですか!
京極
細かいリアクションだけでなく、前作までは
「きょうはいい天気だよね。ところで何の用?」みたいに
いきなり会話を切り替えるようなパターンが多かったんですけど、
今回は、そこをできるだけ自然な会話の流れになるようにと、
あらゆる組み合わせに対応していくうちに、
しらずしらず文字数が(笑)。
ただ、「ところで何の用?」って言って
他の話がはじまるというのが
これまでの『どうぶつの森』シリーズでは定番でしたので
自然な会話に変えたときに、違和感を感じる方も
いらっしゃるんじゃないかって不安もありましたが、
モニターの評価を聞いたところ上々だったので、
会話の流れが不自然なところは
最後の最後までどんどん直していきました。
岩田
なるほど。そうやって、
どんどん文字数が増えていったんですね。
そして、気がついたら原稿用紙4000枚分書いていたと(笑)。
じゃあ、最後に野上さん。
野上
操作方法についてもちょっと。
今回はWiiならではの使い方がいろいろできるようになっています。
両手を使ってヌンチャクスタイルで遊ぶこともできますし、
片手でWiiリモコンだけで遊ぶこともできます。
DS版とは異なる操作が楽しめますので
自分にあった操作方法を試していただきたいですね。
それから十字ボタンで道具の入れ替えが出来たりもします。
また、写真も撮れるようになりました。
たとえば、みんなが集まったときに記念写真を撮って
それをメールで送ってあげたりして、
ゲームの外でのコミュニケーションに
ぜひ役立ててほしいなあと思います。
あとは、最初のほうでも言いましたけど、
いまはインターネットにつながっていないお客さんでも
いつかは自慢の部屋を人に見せるときがくるかもしれないという
モチベーションを持ち続けていただいて
『どうぶつの森』の世界を楽しんでほしいですね。
岩田
最後はわたしから・・・。
ゲームの進化とともに、
ゲームの上手な人とゲームが下手な人の技量の差が
ものすごく開いていくなかで
初代の『どうぶつの森』が登場しました。
技量を求めないソフトとして
N64やゲームキューブで出たときは、
圧倒的に大ヒットしたというわけではなかったのですが
それでも一定以上の支持をいただけたことが
今日の任天堂の方向を決定づけるような
とても重要なマイルストーンになったような気がしています。
DS版のときには関係者の誰もが驚くような現象が起こりました。
それは人と人がつながるということだけでなく、
掘れば掘るだけいくらでも深いところがあって
お客さんそれぞれの楽しみ方が出来るということで
本当に多くの支持をいただくことができました。
そして、Wiiが出て丸2年たった2008年の年末に、
『どうぶつの森』の新しい世界が提案されようとしています。
WiiConnect24やWi-Fiコネクションといった仕組みによって
人と人がいろんな形でつながり、
ゲームの外でも、ゲームの中で起こることが話題になり
やがて世の中の人々にとって
豊かなコミュニケーションにつながっていくことを
わたしは楽しみにしたいと思います。
みなさん、本当にお疲れ様でした。
野上
ちょっとよろしいですか?
いまの話を聞いて、思い出したことがあって・・・。
岩田
はい、どうぞ。
野上
N64版を開発していた頃に、
海外の任天堂の人たちにプレゼンをしたことがあったんですけど、
「これは海外では売れそうもありませんね」とか言われているなか、
同席されていた岩田さんから、
「おもしろいことやってますね」と
言っていただいたことがあって・・・。
岩田
はいはい、よく覚えてますよ。
たぶんわたしが経営企画室長として
任天堂に移ってきた直後のことですよね。
野上
他に『ピクミン』と『ルイージマンション』の前身になる
ソフトも一緒にプレゼンしていたので、
3つのソフトに対しておっしゃられたことかもしれませんが。
岩田
いえ。技量を求めないソフトとして
あきらかにユニークでしたからね。
もちろん、後に500万本級のヒット商品に育つことは
予想もできませんでしたが、
はっきり違うモノに見えたんですよ。
野上
あの頃の岩田さんは社長ではありませんでしたが、
「おもしろいと思ってもらえた」ということが、
その後の開発の励みになりました。
自分達では「おもしろい」と思っていましたが、
こんなゲームとも言えないようなゲームが、
本当におもしろいと思ってもらえるのか、
まだ確信がなかった頃でしたので・・・。
岩田
7〜8年前のわたしのひと言が、
今日の『どうぶつの森』につながってると。
「おもしろい」って言ってよかったです(笑)。