岩田
このインタビューを読んでいただいている方のなかには
ゲームオーバーにならないアクションゲームなんて、
ヌルくてちっとも面白くないんじゃないか、
という心配が生まれているようにも思うんです。
そのことを生粋のゲーマーの松宮さんはどう考えていますか?
松宮
もちろん、わたし自身ゲーマーとして、
そういう心配をされるのは理解できました。
そこで今作では、プレイする目的のひとつとして、
ゴールを目指すのと同時にビーズ集めというものを設けたんです。
ビーズを集めるといろんなアイテムと交換できたり、
隠しステージが遊べるようになったり、いろいろと良いことがあるんです。
ところが、敵に当たるとせっかく集めたビーズを
バラバラと落としてしまうんですね。
もちろん、その落としたビーズは後から回収することもできるんですが、
わたしとしてはそもそも落としたくないんです。
岩田
ゲーマーとしては敵に当たるのは屈辱だということですね。
松宮
そうです。やっぱり敵に当たらないで
ノーミスでクリアしたいと思ってプレイしますので、
敵に当たったときの残念感やノーミスでクリアしたときの達成感は
いろいろな部分で感じていただけるようになっていると思います。
岩田
自分で遊んでいて、緊張感のないヌルいゲームだとはぜんぜん
思っていないんですね。
松宮
そうです。序盤はやさしめにはしているんですけど、
後半になれば、十分手ごたえのある難易度になって、楽しめると思います。
一方で、ライトな渡辺さんでも、
ビーズがバーッと出たときの演出が派手なので・・・。
渡辺
すごくドキドキするんです(笑)。
岩田
ああ、なるほど(笑)。
ゲームボーイの初代『星のカービィ』(※6)に
空気を吸いこむと空をふわふわ飛べる仕組みがありましたが、
それによって、飛んでさえいれば
誰でもとりあえずゴールまでは行けるようになったわけですが、
この誰でもゴールできるということが、
当時いろいろ議論になりました。
松宮
僕も当時、驚きました。
※6
初代『星のカービィ』=ゲームボーイ用ソフトとして発売されたアクションゲーム『星のカービィ』。1992年4月発売。
岩田
ふわふわ飛んでゆっくりゴールを目指してもいいわけですし、
次々に敵を倒しながら進んでもいいわけで、
自分の腕に合わせてプレイヤーが選べるようにしていたんです。
そのときの考え方と今回の話は、どう遊ぶかをお客さんの側に
ゆだねているところがわりと似ていますね。
松宮
そうですね。
岩田
瀬井さん、ディレクターとして
このゲームの手ごたえを感じるようになったのは
いつ頃からなんですか?
瀬井
2010年に入ってからなんですけど、
松宮さんと渡辺さんに、週に1度、
グッド・フィールに来ていただいて、
その時点でできたものをプレイしてもらうようにしたんです。
それがすごく大きかったですね。
2人の掛け合いがけっこう面白くて(笑)。
岩田
まあ、対称的な2人ですからね。
瀬井
そうなんです、そうなんです。
すごい超絶プレイをする松宮さんと、
あっと言う間に「きゃあ」となってしまう渡辺さんですので。
岩田
とくに渡辺さんはリアクションが大きそうですしね(笑)。
渡辺
あははは(笑)。
瀬井
僕たちはそのリアクションを見ながら
「ああ、こういうのが楽しいんだ」と肌で感じることができたんです。
渡辺
わたしはすごく楽しかったんです。
毎週のように新しいステージができあがってきますし、
プレゼントの箱を開けるような気持ちで
いつもグッド・フィールさんにおじゃましていました。
で、どんなところで苦しんでいるのかを
わたしたちの後ろからずっと観察されていて、
次の週に行くと、苦しんだ場所がすごくよくなっていて。
毎週おじゃまするたびに、
どんどん楽しいゲームになっていったんです。
瀬井
そもそもそれまでは、
“面白さ”を出すことばかりを考えていて、
そうするとシステム面での面白さとか、
そういうことばかりをいろいろ考えてしまったんですね。
ところが渡辺さんは
「“楽しい”ゲームをつくりましょう」と言われたんです。
岩田
それで毎週のように渡辺さんがやってきて
“楽しい”かどうかをわかりやすく見せてくれたんですね。
瀬井
そうなんです。
なので、渡辺さんが「楽しい!」と言うと、
僕は後ろで「よっしゃ!」と(笑)。
一同
(笑)
瀬井
それに松宮さんの言葉でも印象に残っていることがありまして、
「いいところをどんどん伸ばしていきましょう」と言われたんです。
岩田
松宮さん、それが必要だと思ったのはどうしてなんですか?
松宮
やっぱり渡辺さんの存在が大きかったと言いますか、
渡辺さんがすごく楽しんでいるシーンがあって、
それは基本的にお客さんも同じように楽しめるシーンだと思うんです。
でも、そのように楽しいシーンが
そこ1回しか出てこなかったりしたんです。
岩田
せっかく楽しいんだから、
もっと使いましょうということですか。
松宮
はい。いくら楽しくても10回、20回と続けば
当然飽きてしまうんですけど、
2、3回であれば問題ないですし、
しかも楽しいもの同士をいろいろ組み合わせていくと、
さらに楽しくなったりしますから。
瀬井
なので、お2人が来られるようになってから
見違えるほど楽しいゲームになったと思います。
岩田
そういう意味で、任天堂の2人は
開発チームの人たちがつくり手の視点になってしまって、
近くから見ていると見落としてしまうようなことを
補う役割だったということですね、よくわかりました。
それではこの辺でみなさんから
お客さんへのメッセージをお願いできますか?
先に任天堂チームから訊くことにしましょうか。
渡辺
あ、わたしからですね。
えーっと・・・今作は新しい『カービィ』として、
見た目はもちろん、いろんな変身もできますし、
これまで『カービィ』のゲームを遊んでくださった方たちにも
新鮮な気持ちで十分楽しんでいただけるものになったと思います。
また、アクションゲームが苦手なわたしのような人や
『カービィ』を遊んだことがない人でも、
楽しいと感じていただけるような部分をたくさん、たくさん用意しましたので、
お客さんひとりひとりに「ここが楽しい!」という部分を見つけていただいて、
最後までクリアしてもらいたいと思います。
松宮
僕は2Dアクションが好きな方に向けての
メッセージになるんですけど、ゲーマーの自分でも
楽しめるようなバランス調整をしていますので、
「ヌルそうだな」というような心配は不要に思います。
アクションゲームファンの方にもぜひ遊んでほしいと思います。
岩田
松宮さんは、わたしが知っている企画開発部員のなかでも、
アクションゲーム系をもっとも得意とするスタッフのひとりで、
その松宮さんが太鼓判を押しているわけですからね。
松宮
はい。楽しさは保証します。
岩田
それではグッド・フィールの河野さん、お願いします。
河野
最初の企画書のときから考えていたことなんですが、
お客さんの身になったときに、
見た目と中身が食い違わないようにしたいと思っていたんです。
今回、見た目に「ああ、楽しそう」と感じていただいて、
実際に手に取ったときに、
その気持ちを裏切ることのないようにつくることができたと、
そう思っています。
開発の途中では、いろんな紆余曲折がありましたが、
最終的には小さなお子さんから、
松宮さんのようなゲームがうまい方まで
幅広く楽しめるようなゲームが実現できたんじゃないかと思います。
岩田
いちばん最初の企画書にあった良さが、
そのまま活かされた状態で仕上がったのがよかったですね。
河野
そうですね、それがうれしいです。
瀬井
僕は『毛糸のカービィ』を通じて、
「ゲームって楽しいなあ」と純粋に感じてほしいんです。
シリーズものを受け継いでいますので、
初代『カービィ』を遊んだお父さんやお母さんにも遊んでいただきたいです。
そして、お子さんにも安心して与えられるようなソフトになっていますので、
老若男女、いろんな人に遊んでいただきたいと思っています。
蛭子
今作はアクションゲームなんですけど、
僕としては、バラエティアクションゲームだと思っているんです。
自分が飽き性なので、
ゲームを制作する際は、いかに飽きさせないかを考えるのですが、
今回はミッション形式の、アクションゲームの楽しい部分を抜き出した
ミニゲームを入れています。
これが面白くて、アクションを基軸にしながら、
いろんな遊びが楽しめる内容になったと思います。
アクションゲームが得意ではない人も、未経験な人も飽き性な人も、
楽しく長く遊んでほしいと思います。
岩田
なるほど。ありがとうございます。今回、
「ハル研でつくらなかった『カービィ』ってどうなの?」とか、
「吸いこまないカービィって大丈夫?」というように、
少し不安に感じる方もいらっしゃると思います。
でも、その不安を吹き飛ばす仕上がりになった印象が
わたしのなかにはあります。
誰にでも遊べるようにはつくってありますけど、決して幼稚な内容ではなく、
ゲームが苦手な人でも楽しめるようにつくってあるけれど、決してヌルくはなく、
そういういろんな遊び方ができるものとして仕上がったと思いますので、
いろんな人に届くといいなと思っています。
今日はどうもありがとうございました。
一同
ありがとうございました。
岩田
ということで、ハル研の人たちと交代していただきましょう。
グッド・フィールのみなさんも、ぜひ聞いていってください。
一同
はい。