2. 「カービィにしてみませんか」と言われて

岩田

「試作までは順調だった」ということは
その先に、順調じゃないことが起こってしまったわけですが、
それはどうしてだったんでしょうか、蛭子さん。

蛭子

今回の企画は、独特の表現を使って、
その表現から導き出される仕掛けを楽しむことが
基本になっているんです。

岩田

毛糸と布をモチーフにすることで
新しい仕掛けをいろいろ生み出すことができたんですよね。

蛭子

そうです。
そこで、最初は毛糸のキャラクターが歩くだけでも面白くて、
いろんな仕掛けやギミックを解くだけでも楽しくなるような、
そんなゲームにしよう、ということでつくっていたんです。
でも、それをアクションゲームとして遊ぼうとすると、
敵が絡まなかったり、難度が極端に低くなったりして、
なんだか物足りないものになってしまったんです。
ですから、その当時はたぶん松宮さんも
「面白くないな」と感じられていたと思うんです。

岩田

松宮さん、面白くなかったですか?

松宮

そうですね・・・正直モチベーションを保つのが
けっこうつらかったです。
その当時は、アクションゲーム本来の、
敵がいて、仕掛けがあって、それをどうやって乗り越えていくか、
というドキドキ感が一切ないゲームでした。
“毛糸の世界”という雰囲気はとてもいいんですけど、
実際に遊んでみると「別になあ・・・」みたいな感じだったんです。
しかも、かんたんに遊べるからといって、
アクションゲームがあまり得意でない渡辺さんが
楽しんでいるかというと、そうでもなかったんです。

岩田

渡辺さん、楽しめなかったんですか?

渡辺

えー・・・最初の2ステージくらいまでは
雰囲気だけで楽しかったんですけど・・・。

松宮

雰囲気は楽しいんですけど、
やっているうちに、だんだんつらくなってくるんです。
ですから、ゲームが好きな人も、ライトな人も、どっちも・・・。

岩田

どっちも幸せになれないんですね。

松宮

そうなんです。
なので「これでは厳しいなあ」と思いました。

岩田

やっぱり、いくら雰囲気が新しくて魅力的でも
難易度を単純に下げて雰囲気だけで遊びをつくろうとすると、
それだけでは遊びとしてもたないんですね。

渡辺

そう、そうなんです。
あの当時はとても迷走していて、
難易度がすごくかんたんになったりすることもあれば、
逆に難しくなったりしたこともあったんです。
難しいときはステージがトゲだらけになっていたり・・・。

岩田

毛糸の世界がトゲだらけなんですか?(笑)

渡辺

そう、トゲだらけだったんです(笑)。
上に行っても、下に行ってもトゲだらけになっていて。
「ふかふかだー」と思って飛び降りた先に
トゲを持った敵が待ち構えていたりとか。
わたしは毛糸の世界観がすごく好きだったので、
「なんでこんな楽しそうな世界で
こんなにつらい思いをしてるんだろう・・・」と思って、
「わたしがこんなにかわいい毛糸の世界でやりたいのは、
こんなことじゃないですよー!」とか言ったりしてました。
瀬井さん、たぶんあれは、スリルを味わわせるために
あえて難易度を高くしていた時期ですよね。

瀬井

そうです。

蛭子

当時はゲームの全体像がまったく見えていなかったんです。
でも、いろんな仕掛けをつくりながら、
そのうちアイデアが出るかな、出るかな、と思っているうちに
時間だけがどんどん経ってしまったんです。
・・・そんな迷走状態に入っているところに、任天堂さんから
「カービィにしてみませんか?」という提案をいただいたんです。

岩田

あれはいつ頃のことでしたかね・・・。

蛭子

2009年の夏頃です。

岩田

「カービィに」と言われて蛭子さんはどう思われましたか?

蛭子

最初にオリジナルのキャラをつくったときに、
うっすらと「誰かに似てるよな」とは
思ってはいたんです(笑)。

岩田

うっすら似てると思った・・・はい(笑)。

蛭子

でも似ているとは言っても、
オリジナルで考えたキャラクターでしたし、
それを出せるという、制作者としての喜びがあったんです。
なので、カービィのご提案をいただいたときは
正直に言いますと、複雑な気持ちになったのは事実でした。
ところが、試しにカービィを毛糸で表現してみると、
その説得力にとても驚いたんです。

岩田

それはカービィが
すでに認知されているキャラクターだから、ということですか?

蛭子

そうですね。すでに認知されているキャラクターを
毛糸で表現したときの納得感といいますか、存在感がすごくて、
「ああ、これはすごいね」と、瀬井とも話したのを覚えています。

瀬井

あのときは「カービィがこんなふうになった」と
本当にビックリしました。
カービィという既存のキャラクターを毛糸で表現することで、
新しい魅力が生まれたように感じたんです。
しかも、この企画にとてもマッチしていて、
率直に「かわいい」と思いました。

岩田

河野さんは最初のキャラクターをつくった人ですから
「ひどいことをされた」という気持ちもあったと思うのですが。

河野

うーん、そうですね・・・。
最初にオリジナルのキャラクターをつくるときに
1本の毛糸をかたちどれば、
そのキャラクターになるようにしようと考えました。
さらに毛糸の質感を活かしながら、
やわらかくて、あったかくて、
かわいらしいキャラクターにしたいと思ったんです。
となると、やっぱりシンプルなデザインにしないといけませんので、
まず丸くして、足も必要だということで、足も付けて、
かわいい目も付けましょうと。

岩田

うっすら誰かに似てきましたね(笑)。

河野

はい(笑)。
そもそもカービィは完成されたものとしてあったんです。
そこで、僕としては、それとどのような違いをつけようか、
ということで、オリジナルのキャラをデザインしたのですが、
カービィのお話をいただいてから
「まずは実機で出してみよう」ということで、
実際につくってみたんです。
すると・・・「ああ、これは完璧だ」と(笑)。

岩田

(笑)

河野

カービィのシンプルさには勝てないと思いました。

岩田

提案した側から当時考えていたことをお話しすると、
カービィという確立された世界を借りることで
すごくつくりやすくなる部分があるはずですし、
毛糸の世界観との相性もとてもいいと思ったんです。
でも、一方で、「最初にオリジナルをつくろうとした人たちの気持ちを
踏みにじっていないだろうか」という、葛藤もあったんです。
でも、いまの話を訊いていると、わたしが想像したよりも、
受け入れていただいたようですね。

瀬井

わりとそうですね。
スタッフも新しいことに取り組むのを嫌がるような迷走時期だったんですけど、
「カービィをつくって」と言ったら、喜んでつくっていましたから。

岩田

でも・・・いま、言葉をキレイに着飾ったりされていませんか?
後ろでハル研の人たちが聞いているからといって
遠慮する必要はないですよ!(笑)

一同

(笑)

瀬井

ええと、実は正直な話をしますと・・・
当時は迷走状態が続いていまして、
「いつこの企画がつぶれるか」という
崖っぷちに立たされたような状態だったんです。
ですから、松宮さんから電話があるたびに、
(胃のあたりを押さえながら)「うううっ・・・」という感じで。

松宮

え、そうだったんですか?(笑)

瀬井

ところがカービィの提案をいただいたので、
「これで生き延びることができる!」と思いました。

蛭子

カービィの世界観を合わせることで
迷走状態から抜け出せると思ったんです。

岩田

その後の開発は順調に進んだんですか?

蛭子

いえ、その後にも大きな転機がありました。
プレイヤーがミスをしたときにどうするかというところで・・・。

松宮

その提案をしたのは実は僕なんですけど、
せっかく毛糸というやさしい世界観で遊ぶのに、
たとえば敵にやられたり、穴に落ちたりすると
振り出しに戻されてしまうのはどうかなと思ったんです。
ただ、グッド・フィールさんは、
アクションゲームにはリスクがあるのは当然で、
それがなくなると緊張感がなくなってしまうということで、
その部分でせめぎ合いになってしまったんです。

蛭子

そもそもアクションゲームなのに、
敵にやられてもゲームオーバーにならないというのは、
チームとしてもすごく抵抗がありました。
なので、かなり長い間、議論になりました。

松宮

そうですね。

蛭子

でもよくよく考えてみると、
もともとグッド・フィールのチームは
シビアなアクションゲームをつくるというよりは、
バラエティ的なアクションゲームをつくってきた
メンバーが多いんです。
そこで、自分たちの得意な方向で楽しいゲームを
つくればいいんじゃないかと。
1つ1つの仕掛けやギミックをつくり込んで、
それを乗り越えていくのが楽しさだというような考えに
行き着くようになりました。