岩田
今日はGoogle(※1)の韓さんをお迎えしています。
よろしくお願いいたします。
韓
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
※1
Google=グローバルにインターネット検索サービスを展開。1998年、アメリカ・カリフォルニア州で設立。
岩田
わたしはGoogleさんの検索エンジンを日常的に使っていて、
とてもお世話になっているのですが、
今回、そんなGoogleさんのご協力をいただいて
ちょっと不思議な商品ができましたので、
「Googleさんと直接向き合ってお話できたら
面白いかも知れませんね」とスタッフの前でつぶやいたら、
本当にこういうことが起こってしまいました。
韓
(笑)。
ご連絡をいただいたとき、
わたしはシンガポールに出張していたのですが、
この話をお聞きした瞬間、とても面白いと思いました。
そもそも今回の『安藤ケンサク』というソフトは
岩田さんがおっしゃったように、
われわれGoogleにとっても“不思議”な領域の商品なんです。
ですから、こういう場で
いろいろなお話ができたらとても面白いと思い、
今日はやって参りました。
岩田
わざわざご足労いただき、本当にありがとうございます。
今日はよろしくお願いいたします。
韓
こちらこそ。
岩田
そもそも、今回の『安藤ケンサク』のように
「検索」のことを“遊び”にしてしまうというアプローチは、
Googleさんの歴史のなかで前例があったんでしょうか。
韓
いえ、わたしが把握している限りはありません。
岩田
任天堂のなかで
「検索をテーマにして“遊び”をつくる」という
このソフトの企画があがってきたとき、
「だったら、Googleさんに相談するべきでしょう」と
提案したのは、実はわたしなんですが、
自分でそうは言ったものの
Googleさんから「どうぞ」とおっしゃっていただけるのか、
それとも「それはちょっと・・・」となるのか、
まったく予想できなかったんです。
そもそもこの企画の情報が韓さんのところへ入ったとき、
どんな感想を持たれましたか?
韓
3年前のことだったんですけど、
正直に言うと戸惑いました。
岩田
前例のない話ですから戸惑うのは当然だと思います。
韓
やはり、わたしが日頃から手がけている、
パートナーシップの業務とはまったく違う切り口でしたので。
岩田
しかも、そのリクエストの内容も、
いままで受けたことのないようなものだったと想像しているのですが。
韓
その通りです。
なので、個人的には、とても面白いと思ったのですが、
社内をどうやって説得しようかと・・・。
それに、ご提供させていただくデータそのものの
質へのチャレンジもありましたので。
岩田
質へのチャレンジというのは?
韓
検索エンジンの質に関しては、
弊社は世界でいちばんいいものを提供しようと
常に心がけていますので、
それに関してはまったく問題はありません。
ところが、今回のソフトでいちばん求められたのが
検索したときに表示される「ヒット件数」でした。
たとえば「任天堂」を検索すると
「約12,000,000件」(※2)とか表示されますけど、
これに関してはトップ・プライオリティ(最優先事項)ではないんです。
※2
Google Inc.サイトは常に更新されているため、実際のヒット件数とは異なります。
岩田
Googleさんが最もエネルギーを注いでいるのは、
検索したときに、いかに意味のあるものを
最初のページの、さらに上のほうに表示させるか、なんですよね。
韓
そうなんです。
いま岩田さんがおっしゃったことは
われわれは「ファースト検索結果ページ」と呼んでいまして、
検索したときに、検索結果が通常10件表示されますけど、
そこにどれだけ有益な検索結果を出すかということに
われわれのリソースの8割くらいを割いているんです。
で、ヒット件数に関しては、参考情報という位置づけで
Googleにとって、あまりプライオリティは高くないのです。
岩田
検索する人にとって大事なのは、
ヒット件数のような“量”ではなく、
求める情報の“質”ということですね。
韓
その通りです。
ただし今回のソフトでは、ヒット件数が肝心なポイントなので、
そこはお互いに初期の段階で苦労しました。
岩田
ですから、Googleさんがお持ちのデータを、
ちょちょっと構成して、使わせてくださいよ、というのではなく、
そうは簡単に出ないようなデータを
任天堂は要求したということなんですよね。
韓
そうです。
岩田
わたしは検索エンジンのことは詳しくは知りませんが、
もともとわたしはプログラマー出身ですから
ある程度の想像はつくんですけど、
今回のソフトに使われたデータは
通常用意されているものでないということがわかりますし、
どう考えても、Googleさんが専門的に何かを用意して、
それ専用にプログラムを書かないと
出てこなかったデータだったと思います。
韓
はい。ただ、弊社としても今回の仕事を進める以上は
システムの変更を覚悟していましたし、
そこはうまく問題解決することができたと思います。
最終的にワークアラウンド(システム上の問題を回避すること)を
任天堂さんと共同で見つけることができましたし。
岩田
韓さんはいま、問題解決ができたとサラッとおっしゃいましたけど、
Googleさんにとって前例のないことを社内に持ち込んで、
関係者のみなさんから同意を得るというのは簡単なことじゃないですよね。
未知のことに対しては、抵抗にあうのがふつうですから。
韓
正直に言いますと、やっぱりいくつかの壁はありました。
何よりも、今回の話は本業とはまったく関係ありませんので、
どちらかというと関心を持たない人も社内にはいました。
ところが幸いにして、弊社のエンジニアのなかに
Wiiのファンが多かったんです。
岩田
そうなんですか(笑)。ありがとうございます。
韓
ご存じかと思いますけど、
Wiiのブラウザーを使ってYouTube(※3)を見ようとすると・・・。
岩田
Wiiのブラウザーであることを認知して、
特別なUI(ユーザーインターフェイス)になって、
テレビでも見やすい構成にしていただいているんですよね。
※3
YouTube=2005年にアメリカで設立された、Google が提供する動画共有サイト。
韓
実はあれ、あるエンジニアが趣味でつくったんです。
そういうことをGoogleとしてやるのは珍しいことなのですが・・・。
岩田
例の20パーセントルールでつくられたんですね。
韓
そうです。
岩田
わたしが説明するのもなんですが(笑)、
Googleさんには20パーセントルールというのがあって、
社内の開発者たちは、勤務時間の20パーセントを
本来のプロジェクトじゃないことに自由に使える、
言わば“内緒プロジェクト積極推奨システム”があるんですよね。
韓
はい。ですから、会社の誰かから指示されて
あれをつくったわけではないんですね。
そのように、任天堂の製品が好きなメンバーが何人かいて、
彼らが任天堂さんのリクエストに対して対応してくれたんです。
岩田
Googleさんの社内のなかに
面白がってWiiで何かをやってやろうという、
味方をしてくれる人が現れたので、
今回のようにエネルギーが求められる前例のない仕事が
前に進められたということなんですね。
韓
その通りです。