岩田
宮本さん、『Wii Fit』をつくりはじめたとき、
これだけ世界中でたくさんの人たちに受け入れていただけると
予想していましたか?
宮本
・・・読めないですよね。
ただ、広がったとき、上限はわからないとは思っていました。
当初、いちばん強気だったのは岩田さんで(笑)。
岩田
たしかにバランスWiiボードで使う、
納期が長い特注の部品は何個買えばいいか、と
そんな話になって、わたしが数字を出したら
「そんなに買っても大丈夫ですか?」と
心配する声が多かったくらいでしたからね(笑)。
宮本
「まあ、部品だけだったら他の商品にも使えるし」
と、僕は言ってました(笑)。
岩田
『Wii Fit Plus』の開発は
どうやってはじまったんですか?
宮本
最初は『1』が売れたんなら『2』もあるかな、
というゲーム屋的な発想で、
『Wii Fit Plus』の開発をはじめたんです。
それで、岩田さんからマルチに運動をすると
脳のトレーニングにもなるという話があって・・・。
岩田
ストループ効果(※1)ですね。
※1
ストループ効果=1935年に、心理学者のジョン・ストループによって報告された現象で、文字意味と文字色のように同時に呈示された二つの情報が干渉しあうこと。
宮本
『Wii Fit』をもうちょっと展開すると、
脳もいっしょに鍛えられるんじゃないかと。
岩田
ちなみにストループ効果というのは、
たとえば『脳トレ』(※2)のなかに、
書いてある文字とその色が矛盾していて、
文字じゃなくて色を読みなさいという問題がありましたよね。
あのように、矛盾する認識と戦って
どちらかを選ばなきゃいけないときに働く効果のことを
ストループ効果と言うんですね。
※2
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
宮本
ただカラダを使って、そういうことをやろうとすると
いちばんわかりやすいのはドラムなんです。
手足、全部違う動きをしますので。
岩田
でも『Wiiミュージック』(※3)で使っちゃいましたね(笑)。
宮本
使っちゃったと(笑)。
そこで、目から入る情報と、手に持ってるコントローラと
カラダのバランスみたいなことを合わせて使えば
いろいろ面白いゲームがつくれそうだと。
それはそれで、バラバラとつくっていったんです。
岩田
はい。
※3
『Wiiミュージック』=2008年10月発売の、Wii用音楽ソフト。
宮本
で、開発を進めていくうちに
まわりを見ていると、前作の『Wii Fit』を
実際に使わなくなってきている人もいて。
本当は使ったほうがいいというのはわかってるんですよ。
けど、やっぱり使わなくなる理由があって・・・。
岩田
それはどんな理由なんですか?
宮本
やっぱり便利さという点で、
足りないところがあったからだと思うんです。
だから、使い勝手をもっと快適にすれば、
もっともっと継続的に使ってもらえるものになるんじゃないかと。
「最初からソフトをそのようにつくっておけばいいのに」
と言われそうですけど(笑)。
岩田
「このようにつくっておけばよかった」と
宮本さんが言いましたけど、
それには2つのケースがありますよね。
ひとつは、つくっているときに
「本当はこうしたかったんだけど」と。
宮本
それはたくさんあります。
岩田
それから、世の中に出てから初めて
「こうしておいたほうがよかったな」と思う部分があって。
宮本
まあ、どちらかと言うと、
「こうしたかったんだけど」というのがたくさんあって。
岩田
ゲーム屋としては、もともと
こうしたかったんだけど、できなかったと。
宮本
そうなんです。
たとえばフィットネスクラブに行っても、
実際に40分とか30分のコースとかに入るわけですね。
すると、先生がついてくれて、どんどん教えてくれるので
ついついやってしまって、最初の10分くらいは
時間がたつのが気になっていたけど、
気がついたら40分運動してるという。
岩田
はい、気がついたらいつの間にか
時間がたつのも忘れて運動しちゃうんですよね。
宮本
そういった要素が
『Wii Fit』にも必要だと思っていて、
なんとか入れたかったんですけど、どうつくるのかと。
それがうまくつくりきれなかったので、
『Wii Fit Plus』では、
自分だけのトレーニングメニューを
好きなように組み立てられるようにしようと。
とにかくそこに注力しました。
岩田
「マイメニュー」ですね。
宮本
あれ、4回くらいつくりなおしてるんです。
岩田
え、4回もですか?
宮本
自分のメニューがカンタンに組み立てられるように、
そんなことが面倒くさいと感じる人でも
ただボタンを押して選ぶだけでいいというふうにして、
入口をいかにカンタンにするかということに
ゲームデザイナーとしていちばん時間をかけたんです。
岩田
それで4回もつくりなおしたと。
宮本
仕様書の段階を含めると、
もっとあるかもしれません。
かたちになるたびにプレゼンをしてもらってたんですけど、
そのたびに僕が「違う」「違う」と言い続けて、
たぶんディレクターはヒヤヒヤだったと思いますね。
ソフトがほぼ完成してからも、
もう1回直したくらいですから。
岩田
それが4回目(笑)。
宮本
はい。だから便利なインターフェイスの
お手本にはなってるんじゃないかと思います。
あと、開発の最後のほうで
宮地先生のご協力をいただけることになったんですよね。
仕様もほぼ固まって開発はどんどん進んでいたんですけど。
岩田
ある程度、トレーニングができあがっていないと
メタボリック・チャンバーで測定することができませんからね。
宮本
だから、すごくラッキーなタイミングだったと思いました。
もともとMETsに関しては、
最初の『1』をつくるときにだいぶ研究はしたんです。
岩田
はい。
宮本
日本人にも覚えやすくてキャッチーな言葉だし
「METsで行こうよ」みたいなことも言ってたんですけど、
それを製品として使うには科学的な根拠がなくって。
任天堂という娯楽のメーカーが
生理学の数字を保証もなく使うというのは
あまり好ましくないというか・・・。
岩田
測定の根拠がないのに使えませんからね。
宮本
そう。
だから、前作のときは、運動貯金というかたちにして
自分がどれくらい運動したかというアバウトな自己申告制で、
あくまでも目安でもいいから記録したいということに留めたんですけれど、
METsを測ってもらえるというところで、
科学的な裏がとれるということがわかって、
後半にその機能を強化したんです。
岩田
あと、たとえば肩こりや腰痛を予防するには
どんなトレーニングがいいかという「おすすめメニュー」も
宮地先生のご協力でできたんですよね。
宮本
実はそういったことも
『1』のときにやりたかったことなんです。
ところが、やっぱり根拠がなかったんですね。
で、一応、「二の腕スッキリ」みたいなことは、
トレーナーの松井さん(※4)たちといろいろ相談をして
ある程度の枠はつくっていたんですけど、
宮地先生とはいいタイミングで知り合うことができて
すごくよかったと思います。
※4
トレーナーの松井さん=プロスポーツトレーナーの松井薫氏。パーソナルトレーナー専門の国際資格付与協会「NESTA」日本支部理事などをつとめ、『Wii Fit』と『Wii Fit Plus』ではトレーニング監修を担当。
岩田
宮地先生の研究の方向と
わたしたちのやってることがうまくかみ合ったので
このソフトの付加価値をすごく高めていただけたように思いますね。
宮本
だから『Plus』なんです。
岩田
(笑)
宮本
これだけの軸ができたんやから、
僕としては、これを早く発売したいと思ってるんです。
いま、『Wii Fit』を使ってる人に対して
「これでバージョンアップしてください」という気持ちです。
岩田
だから『2』じゃないんですね。
宮本
そう。『2』じゃないんです!!
一般的なゲームで言うところの「続編」じゃなくって、
バージョンアップのソフトなんです。