岩田
流田さん、大変長らくお待たせしました。
澤野さんたちが、試作品を持ってきたとき、
どんな印象を持ちましたか?
流田
すごいものが届いたなと(笑)。
見た目は、四角くて、分厚い木の板に、
足が4つついてるだけのものでした。
無線通信のためにWiiリモコンを2本使用していました。
その試作品を参考にしながら、
わたしたちがつくってみることになり、できたのがこれです。
流田
このボードの横幅は32センチです。
この上に乗って、いろんな動きをするにはちょっと狭いんです。
しかも、ヌンチャクのようにWiiリモコンを1つつなぐ仕様でしたので、
リモコンを収納する場所があったらいいんじゃないかということで、
さらに2つの試作品をつくってみることにしました。
流田
こういったWiiリモコンにつなぐ方法だと、
コストをだいぶ安くすることができるというメリットがあります。
ボードを独立させると、電源スイッチやLEDだけでなく、
無線の機能も追加で必要になりますから。
しかも、Wiiリモコンにはスピーカーが内蔵されてますので、
足下でしゃべってくれるというのも魅力的でしたね。
そういう理由もあって、しばらくはこの形で開発が進みました。
ただ、Wiiリモコンをどこに置けばいいのかという問題がありました。
間違って踏んでしまったら危ないですし、
Wiiリモコンを持ったまま操作ができるほど、
コードを長くすることもできないんです。
岩田
ボードの裏に、Wiiリモコンをはめ込むという方法は
考えなかったのですか?
流田
もちろん考えたのですが、裏にWiiリモコンをはめ込むと、
ボードの厚みが増してしまいますし、何より直接操作ができませんよね。
それに、強度を持たせるために
できるだけシンプルな構造にしたいと思っていました。
Wiiリモコンをはめ込むようにすると、
梁(はり)のどこかが偏ってしまい、
強度的に不利な構造になってしまいます。
そこで試行錯誤をしながら、いろんな試作品をつくっていたのですが、
あるとき、宮本さんが「上で運動をするために、横幅を肩幅のサイズに
変更してほしい」と言われて、42センチまで広げたのがこちらです。
岩田
次から次に、要求が変わってくるわけでしょう。
流田
はい。これがウワサに聞く『ちゃぶ台返し』かなって(笑)。
一同
(笑)
流田
でも、ハード開発でのちゃぶ台返しはきついなあと
思いながらやってましたけどね(笑)。
岩田
ハードでちゃぶ台を返されると、ダメージが大きいんですよね。
しかも、宮本さんはID(※11)出身だということもあって、
デザイン面に対する要求も高く、
対応するのはホントに大変だったんでしょうね。
※11
ID=インダストリアルデザイナーの略。工業製品のデザインを手がけるデザイナーのこと。
流田
実は、もっと幅のあるボードもつくってみたこともあります。
でも、リビングに置くには大きすぎるという話になりました。
このとき宮本さんから、「真四角よりも、幅が広いほうが
デザインの印象がいい」と指摘されたことがきっかけとなって、
まず肩幅に必要な横幅を決めて、
次に足の寸法にあたる縦幅をちょっと小さくすることで
現在の形状になりました。
情報開発本部のもともとの要求は、2点だったんです。
ひとつは日々の体重変化を計れること。
たとえばジュースを1本飲んで、200グラム増えたら、
その違いがわかるような精度がほしいと言われていました。
それともうひとつは、バランスの入力ができること。
先ほどの澤野さんの話にもありましたが、
1秒間に60回信号を送ることで、
キビキビとしたバランス入力ができることを求められました。
岩田
しかも、任天堂のハードテストの中には、
ちょっとくらい踏んづけても壊れないようにするというのがあって、
携帯ゲームをつくる人も、据え置き型ハードをつくる人も、
そういうテストは繰り返しやってきたわけですけど、
始終踏まれっぱなしのハードをつくるのは初めてですよね(笑)。
一同
(笑)
流田
そうですね。そのほかにも、
ボードから落っこちたときに、危険でないようにするとか、
端っこに乗ったときに、パタンとひっくり返らないように、
いろいろ注意して設計しないといけないところがありました。
ひとつひとつ言うと、ボードから落っこちることについては、
できるだけボードを低くするしかありませんので、
強度を持たせるフレームの構造を1ミリでも低くなるように工夫しました。
さらに、足が角からせり出した構造になっていますので
意図的に端っこに乗っても、ひっくり返りにくいようになっています。
あと、3.5kgと重量がけっこうあるものですから、
持ち運び中に落っことした場合を想定して、
4角に衝撃を緩衝するためにゴムのような素材を使っています。
流田
表面上に凸凹をつけて、足の位置がどのへんにあるのかを
感じてもらえて、なおかつ滑り止めの効果も出しています。
さらに、フローリングのような床の上で
使われることを想定していますので、
ボード自体が滑らないように、足の裏にゴムをつけました。
ただ、床暖房などの熱で溶けては困りますし、ギュッと動いたときに、
床に痕が残ってもいけないので、慎重に素材を選びました。
岩田
そんな細かなことまでチェックしながら、幅を広くしろとか、
次から次に要求がきて、しかも、最後の最後で、
もう1度、大きなちゃぶ台返しがあったわけでしょう(笑)。
流田
岩田さんから、「無線機能を内蔵して欲しい」と言われた話ですね。
あれは本当に大変でした(笑)。
もともと、Wiiリモコンの無線機能というのは、
独立したモジュール(※12)になっているわけではなく、
基板の上に組み込まれています。
だから、ボード用に無線機能に集約したモジュールを
つくりなおす作業が新たに発生しました。
岩田
最後の最後で、ごめんなさいね。
一同
(笑)
※12
モジュール=交換や取り外しなどが簡単にできる部品のこと。
岩田
けっこうしんどかったはずなんですよ。
そんな仕様変更をしたら、年内には発売できませんとか、
いろんな話がありましたよね。
流田
やっぱり日程的なことがいちばんきつかったですね。
Wiiリモコンとは別のハードということになりますから、
電波法に基づいて、
公的機関から認証してもらわないといけませんでしたし、
金属フレームで強度を持たせてるものですから、
無線モジュールを内蔵する場所によっては、
電波が飛ばなくなる心配もありました。
そういったテストを行ったり、Wiiリモコン以外のものが、
本体と通信するということは、今回が初めてのことでしたので、
どういうふうに識別させるかというところを
クリアするのがちょっと大変でしたね。
岩田
きっと「人でなし!」って
叫びたくなったこともあったんでしょうね。
流田
それは、まあ・・・、そうですね(苦笑)。
でも、岩田さんが目の前にいるから言うわけじゃないんですけど、
今回モジュール化して、本当によかったと思っています。
と言うのも、バランスWiiボードのほかに、
別の周辺機器の企画が出てくることもありますよね。
Wiiリモコンに接続しない、新しいものが出てきても、
今回のモジュールをそのまま使うことができますので、
次回からはすごく楽になると思います。