岩田
バランスWiiボードは、
最初は左右のバランスをとるようになっていたのが
4点のセンサーで、前後左右のバランスをとれるようになったりと
仕様が大きく変化しただけでなく、デザインに関しても、
かなりの試行錯誤があったようですね。
宮本
もともとこの企画は、体重計からスタートしていますので、
初期のバランスWiiボードの形状は、
体重計のように真四角に近かったんです。
その上に乗って、いろんなトレーニングを試してみたんですけど、
どうしても腑に落ちなかったんですね。
そこで、トレーニングに腕立て伏せを取り入れるんだったら、
やっぱり左右の幅を肩幅くらいのサイズにしてほしいと言ったら、
サイズを大きくすると、コストがかかるとか、
みんな、後ろ向きのことばかり言うんです。
岩田
ソフトに同梱するものですし、
1円でも安くつくるというコスト意識が強かったんですね。
宮本
1円でも安くつくれということは、
僕が繰り返しスタッフに言っていたことなんで仕方ないんですけど、
やっぱり真四角のボードには違和感を感じていて、
設計はかなり進んでいたんですけど、
急きょ・・・(苦笑)。
岩田
出ました。伝家の宝刀、ちゃぶ台返し(笑)
宮本
(笑)。「肩幅を基本にしてサイズを決めない?」って言ったら、
「そうしたら強度も変わってしまうし、大変なことになる」って。
岩田
わたしは、バランスWiiボードの大きさが変わったときの、
ハード設計者の呆然とした顔が忘れられません(笑)。
宮本
最後には笑顔になればいいかなと思って・・・。
でも、ホントに申し訳ないことをしましたね。
岩田
でも、実際に体験してみると、
バランスWiiボードがこのサイズになった理由はよくわかります。
宮本
「バランスゲーム」の中には
「バランススノボー」(※9)というゲームも入っていて、
横長のサイズになったおかげでスノボーらしくなりました。
真四角のボードに乗ってても、気分は乗りませんよね。
だから、体重計よりスノーボードの形に近くてもいいのかな
みたいなことも、一時期は考えたりしたんですけど、
さすがにそこまで大きくするとリビングには
置いておけなくなってしまいますよね。
そこで肩幅のサイズを基準に考えるようにして、
大きな外国の方にはちょっと幅が狭いかもしれませんけど、
日本人の肩幅のサイズをいろいろ測ってみて、
大きいのからちっちゃいのまで試作品をつくってもらって、
今のサイズに決めました。
※9
バランススノボー=バランスWiiボードに乗ってプレイするバランスゲーム。実際のスノーボードをするような感覚が味わえる。
岩田
アメリカ人の足のサイズは何センチが平均で、
ボードの大きさを何センチにすると、
何パーセントまでの人がカバーできるようになる
ということまで調べてましたよね。
宮本
そうでしたね。海外の幹部が集まる会議には、
NOAのレジーさん(※10)が必ず来日しますから、
彼にバランスWiiボードに乗ってもらって、肩幅まで測って(笑)。
岩田
レジーさんより足が大きい人もいましたよね。
※10
NOAのレジー=Reggie Fils-Aime。Nintendo of America.Inc社長。アメリカでの発表会ではステージに立ち、プレゼンテーターもつとめる。
宮本
本社の中でも足の大きい社員はかなり見つけましたよ。
ところで今回は、岩田さんもちゃぶ台返しをしましたよね。
岩田
あの話ですね(笑)。
もともとバランスWiiボードからはコードが出ていて、
そこにWiiリモコンをプチッとつなぐことで、
本体に無線の信号を飛ばすことになっていたんですよね。
そうすることでコストは安くなりますから。
宮本
僕、貧乏性なんで(笑)。
それに、Wiiリモコンと新しい周辺機器をつなぐというのは、
Wiiのコンセプトのひとつでもあるので、
なんとかしたいと思っていたんですけど、
岩田さんに「不細工ですね」って言われてしまって・・・。
岩田
わたしは体重を量るために、わざわざしゃがんで
Wiiリモコンをつなぐ自分がどうしても想像できなかったんです。
それに、そういうことをお客さんに強いるのも
よくないと思ったんですね。
だから、そのことについては、強く主張しましたよね。
『Wii Fit』の仕様にわたしが影響を与えたことは
そこだけと言ってもいいくらい(笑)。
宮本
おかげで豪華仕様になりましたしね(笑)。
Wiiリモコンにつなげるようにすると、
「誤って踏んでしまったらどうするの?」といった、
安全上の問題とかがあったわけですけど、
そういったこともクリアされましたし、
見た目にも、とてもスッキリしたものになりましたね。
岩田
事実、毎日体重を量ってみると、とても手軽にできますしね。
もし、毎回Wiiリモコンをつないだり外したりする必要があったとしたら、
こんなに手軽にはならなかったと思います。
宮本
そうですね。おじいちゃんが乗るかもしれませんし、
ちょっとだけやってみようかなと思った時に、
気軽に乗りたくなるような形でないといけませんし。
体重を量るわけですから、体重計よりもうれしくて、
体重計よりも手軽な感じがしないといけないじゃないですか。
そうするためには、どういうインターフェイスで、
どういう流れで遊べるようにするかということについても、
かなりこだわってつくりました。
こんな体重計なんか見たことがないというものを
世に出そうとしているわけですし、
そもそもテレビにつながった体重計なんて
これまでになかったわけですから、やりがいも感じましたね。
岩田
表示部のついていない体重計はありませんし、
体重計が無線で信号を飛ばして、
テレビに情報を提示するものも世の中にはありませんからね。
宮本
本当に前例なしづくしのハードになりましたね。
そもそも体重はお風呂場で量るものだから、
無線で信号を飛ばしたほうがいいだろうと。
けど、お風呂場で量るようにしたら、
テレビが見られないのでどうしようとか、
いろんなことを言ってるうちに、
テレビの前で量ると割り切ったほうが
おもしろいということで、いまの形になったんですね。
それに、このバランスWiiボードは『Wii Fit』だけでなく
いろんな対応ソフトが出てきてもいいと思いますね。
「バランススノボー」とか「バランススキー」とか入ってるので、
それで十分なような気もしますけど、
いろんなコースを滑りたい人向けに、
別のソフトの形で出てきてもいいですよね。
岩田
わたしは「Wiiウェア」(※11)でバランスWiiボードを使った、
コンパクトな新作ソフトが出てもいいと思ってるんです。
いきなり、6,800円とかで新作ソフトがバランスWiiボード専用になると、
ちょっと敷居が高くなりますよね。
だから、パッケージ商品ではなく、Wiiで安価なソフトを
ダウンロードできるようになればいいなと思ってるんです。
宮本
いいですね。それ、僕らがつくりましょうか?
もうちょっとコースの凝った「バランススノボー」とか、
『なんちゃって1080°』(※12)とか。
岩田
(笑)。
※11
Wiiウェア=Wii専用の新作ソフトをダウンロード購入できるようにするシステム。2008年3月からサービス開始予定。
※12
『なんちゃって1080°』=『1080°(テン・エイティ)』はN64およびゲームキューブ用に発売された、スノボーソフト。