岩田
最初にまず、ストーリーを楽しめる
1人用の『FFCC』をつくろうとし、
さらに、Wiiリモコンの特性を活かした
リアルタイムな操作感を楽しめるものにしようと。
そのほかに、どんなことを考えながら
今回の『FFCC クリスタルベアラー』をつくったんですか?
河津
まず考えたのは
Wiiが置かれてる場所についてです。
岩田
Wiiはリビングに置かれていることが多いですよね。
河津
ええ。たとえば、高校生の男の子が
このソフトを買ってきたとします。
彼はリビングの大画面のテレビでプレイしますから、
当然のように家族の人もそれを見るわけですね。
岩田
それは、兄弟姉妹だったり、
お父さんやお母さん、場合によっては
おじいちゃんやおばあちゃんもそれを見ますよね。
河津
ええ。そのとき
仮にこれまでのRPGを遊んでいたら、
まわりの人は何をやっているのか
わからないと思うんです。
岩田
コマンド入力の画面が出てきても、
RPGをプレイするのに慣れていない人にとっては
意味のわからない言葉や数字が並んでいるだけに見えてしまいますしね。
河津
プレイしている人は楽しいんですけど(笑)。
岩田
見ている人は何が起こっているかわからないですね。
河津
ものすごく退屈するんですよ、見ている人は。
岩田
ゲームをあまりやったことのない人にとって
わけのわからないコマンド入力画面が出てきたりすると、
きっと「自分には関係ない」と思ってしまうんでしょうね。
河津
だから、プレイしている人が楽しんでいる時間と
見ている人が楽しんでいる時間が一致したほうが、
ぜったいに盛り上がると思ったんです。
岩田
さっきの、自分の動きとゲーム画面が
リアルタイムに一致するという話と似ていますね(笑)。
河津
そうですね(笑)。
いろんなことがシンクロすることは
楽しさにすごくつながりますし、
今回は遊ぶ人を制限したくないと思いました。
そもそも、ゲームをあまりやったことのない人でも、
かつてはデパートの屋上のゲームコーナーに行くと
誰でもすごく楽しんでいたと思うんです。
岩田
わたしたちが子どもの頃はそうでしたね。
河津
いまだとテーマパークでしょうか(笑)。
で、そのような場所に行くと
理屈抜きで楽しめますよね。
そこで、今回の『FFCC クリスタルベアラー』には
そういったテーマパークのような遊びの部分も入れて、
「いまのゲームには、こんなにいろんな楽しさがあるんですよ」
ということを、幅広い人たちにも伝えたいと思ったんです。
岩田
それはたとえば、どんな遊びなんですか?
河津
まず、ゲームは
ハリウッド映画のシアターを見るようなところからはじまります。
で、それを観ていると、いきなりシューティングモードになります。
岩田
豪華な映像を観ていたら、
突然、ゲームに参加するカタチになってるんですね。
河津
はい。そこでWiiリモコンを握って、
Bボタンを押し続けながら、的を狙えば
初めての人もカンタンに遊べるようになっています。
そういった遊びがいろいろ入っていますので、
今作を「アトラクション・アドベンチャー」と呼ぶことにしました。
岩田
ゲームジャンルが「アトラクション・アドベンチャー」。
どうしてそういう名前にしたのですか?
河津
このゲームは全体がひとつの遊び場、
テーマパークのようになっていて、
いろんなアトラクションの間を自由に移動するような・・・。
岩田
つまり、映像の合間に
いろんなアトラクションが楽しめると。
河津
そんなイメージです。
それともうひとつは主人公の能力が引力なんですけど、
引力はアトラクティブパワー(Attractive power)ですので。
岩田
その2つの意味をかけているんですね。
河津
そうです。
それに「アトラクション」というのは
みんなが聞き慣れている言葉ですので、
何となくでもイメージがわいたり
楽しそうな感じが伝わると思ったんです。
そもそも、『ファイナルファンタジー』シリーズというのは
世界設定を含めて、複雑な言葉がたくさん出てきがちで(笑)。
岩田
はい、シリーズに馴染んでいない人には
ついて行けないと感じるほどに・・・(笑)。
河津
ですから、ジャンル名も含めて、
なるべく一般性のある言葉を使うようにしようと。
そこは今回、ゲーム中でもかなり意識しました。
岩田
プレイヤーだけでなく、
まわりで見ている人たちのことを考えたからこそ
そうしたんですね。
河津
そうです。
「何だかわかんないよ」というのはできるだけ避けようと。
岩田
そういう、まわりの人を巻き込むために
ほかにはどんな工夫をされたんですか?
河津
たとえば、プレイをしていると
テロップのようなものが流れるようにしました。
岩田
それは、テレビのニュース番組の
画面の下に流れる文字情報のような?
河津
そうです。
たとえばマラソンや駅伝の中継があって、
わたしはあれが好きで、ずーっと見ちゃうんですけど、
どう考えてもつまんない映像なんですよね。
岩田
(笑)
河津
ただ、人が走ってるだけですし(笑)。
岩田
確かに不思議ですよね。
マラソンや駅伝はただ走ってるだけなのに
ずーっと見続けちゃいますよね。
河津
だから、テレビ局が画面を飽きさせない工夫を
何かやってるんじゃないかと思ったんです。
そこで、番組を録画してもらって、
テレビ局がどんなことをやってるのか
みんなに分析してもらったんです。
岩田
さすが理系出身(笑)。
納得できないことは、
わかるまで徹底的に分析せずにいられないのは
わたしも同じです。
どうしても、理由が知りたいんですよね。
河津
(笑)。
すると、7秒くらいで
カットがしょっちゅう変わっているとか、
そういったことがわかりまして。
そこで、ゲームでも無理やりカットを変えてみたり、
文字情報をテロップのように流してみようと。
岩田
マラソンでも選手データとかが
テロップで流れたりしますしね。
河津
ええ。ところが、それをゲームに入れても
プレイしている人は読む余裕がないんです。
だから「ぜんぜん読めないですよ」と言われてしまって(笑)。
岩田
アクションするのに必死で
文字を読むどころではありませんよね。
河津
でも、これはプレイしている人のためというよりも、
横で見ている人が、画面に退屈したり、
あるいは動き続ける画面をずっと見ていて
疲れてしまったりすることもありますし、
そんなときに画面の下の情報を見て
「このエリアはこういう設定らしいよ」とか、
横からプレイしている人に
教えてあげることができるようにしたくて入れたんです。
そういった文字情報の他にも、
たとえば魔物がいるエリアに入ると襲われて
ダウンしてしまうことがあります。
で、すぐに起き上がって戦ってもいいのですが、
そのままダウンしていると
魔物から襲われないんです。
岩田
死んだふりみたいな感じですか?(笑)
河津
そんな感じです(笑)。
そこで寝たままの状態でいると、
魔物たちがいろんなリアクションをとるんです。
その行動を見るだけでも楽しめるようになっています。
岩田
もともとは1人用としてつくりはじめながらも、
リビングで遊ばれることが多いので
それを見ている人たちもゲームに参加できるように
いろんなことを考えたんですね。
河津
だから、主人公のデザインも
そこはかなり意識しました。
岩田
というと?
河津
お母さんが画面をちらっと見たとき
「その男の子、ちょっとかっこいいじゃない」と
言ってもらいたいなあと(笑)。