河津さんは『ＦＦ』シリーズからいったん離れて、
『魔界塔士 Ｓａ・Ｇａ』^（※14）を開発されましたよね。
このソフトは、どういう経緯で生まれた商品だったんですか？

当時の社長の宮本さんが、
「新しい携帯ゲーム機が出る」という話を
任天堂さんからもらってきまして。

ゲームボーイですね。

はい。「ゲームボーイで何かつくってくれ」と言われたのが
最初のキッカケなんです。

携帯ゲーム機でつくるなら、
新しいシリーズとして、ゼロから考えようと
そのときに思ったんですか？

そうです。
そもそも、ゲームボーイが登場するまでは
カートリッジを入れ替えて遊べる携帯ゲーム機はなかったですよね。
似たものとしてゲーム＆ウオッチがあったくらいで。

そうでした。
でも、正直にお話しますと、
最初に『Ｓａ・Ｇａ』のことを聞いたとき、わたしは
「みんな、ゲームボーイでＲＰＧをやりたいのかな」と思ったんですよ。
いまでこそ、携帯ゲーム機でＲＰＧを遊ぶのは
常識になっていますけど。

作り手にとっても
ファミコンに比べるといろいろ制約がありましたしね。
画面のサイズは小さいし、しかも白黒でした。
それに、遊ばれる環境が大きく変わりますし。

どこでも遊べるわけですから、
家のなかのテレビでやるときとは
プレイヤーの気分も違ったりしますよね。

ですから、『ＦＦ』でやろうとしたこととは
まったく違うアプローチでつくらないといけないと。
そこで、どこで遊ばれるかということを
みんなで徹底して議論しながらつくりました。
たとえば、電車に乗っていて、電源を入れて遊んで
目的の駅に着いたらすぐやめて、ということになるので、
短時間で解いていく仕組みが大事だと思ったんです。

ゲームボーイは、ＤＳのように
閉じたらスリープモードに入る
みたいなことはできませんでしたしね。

しかも、１度もバトルをしないで
目的の駅に着いちゃったら面白くないんです。
そこでバトル頻度を増やすようなことをして。
その意味では、どんどん何かが起きるとか、
１回のバトルも短時間で終わるとか、
テレビの前でじっくり遊ぶときとは違う演出を
意識しながらつくるようにしました。

もともと河津さんは、
新しいことに挑戦するのがお好きなんでしょうね。

いや、たまたまだと思うんです。
そのときはたまたま手が空いてたのがわたしで・・・。

でも、ただ単純に手が空いてたという話じゃないと思いますよ。
新しいもので、新しい構造のことを考えるのは
イヤじゃないというか・・・。

そうですね・・・やっぱり楽しいです（笑）。
新しい遊びを考えるのはとても。
とくに、お客さんがどんな状況でプレイするのか、
それを考えることはすごく重要だと思ってるんです。
ゲームの中身にも大きく影響しますし。

そうですよね・・・。
では、時間に限りもありますし、時代を一気に飛んで、
『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』^（※15）
いわゆる『ＦＦＣＣ』の話もちょっと訊きたいのですが。

はい。

もともと『ＦＦＣＣ』を開発することになったのは
前社長の山内（溥）が設立した
ファンドＱ^（※16）がキッカケでしたね。

そうです。

ゲームキューブと
ゲームボーイアドバンスの連動を使って、
新しい遊びをつくれないかと。
山内と河津さんの、そんな話からはじまったと
聞いたことがあるんですが。

いえ、山内さんからいただいたお題は
連動をさせなきゃいけないとか、
そういうものではありませんでした。
「これまでのシリーズにはないような
新しい『ＦＦ』をゲームキューブでやれないか」
ということだったんです。

そうだったんですか。
でも、一口に新しい『ＦＦ』をと言われても、
なかなか難しいお題ですよね。

ええ。自分でもどうしたらいいのか、
いまひとつピンと来なかったんです。
そこで、ちょっと特殊な環境になりますけど、
ゲームキューブとゲームボーイアドバンスを連動させて
マルチで遊べるようにすれば、アクションベースで
新しいタイプのＲＰＧができるんじゃないかと思って、
開発を進めることになったんです。

その連動に関して
最初にどんなことをイメージしていたんですか？

最初はゲームボーイの画面を作戦的に使って、
テレビ画面には結果が表示されてるといったような、
とても戦略性のある遊びを考えていたのですが・・・。

自分の手札が
相手に見えないからこそ成立する遊びですね。

そうです。
そういうことは誰もが考えるところで、
最初はそこをみんなでめざしたんですけど、
実際にやってみると、両方の画面を交互に見ながら
ゲームができないことがわかりまして。

私たちがＤＳの開発を始めた頃に
さんざん議論したことでもあるんですが、
人は２つの画面を同時に見ることができませんからね。
手元のゲームボーイで戦略を練っていたら、
テレビ画面では別の絵が動いて
どっちを見たらいいのかわからなくなりますし。

そうなんです。
そこですごく悩みました。
でも、その時点で、ゲームの動きや絵の表現が
とてもよくできていましたから、
テレビの画面をメインで遊ぶことに
割り切ってつくることにしたんです。
だから、最初に考えていたものとは
ぜんぜん違うものになりましたね。

で、実際につくってみて
お客さんの反応をどう感じましたか？
もともと『ＦＦ』シリーズは
１人用の遊びとして成長してきたところがありますから、
そこに多人数の遊びの構造を持ち込んだときに
不安に感じたお客さんもたぶんいらしたと思うんです。

もちろんそこは不安もありました。
でも、開発現場ではワイワイ言いながら
みんなで楽しく遊ぶことができましたし、
きっとお客さんにも同じように楽しんでいただけるだろうと。
で、発売後にメディア芸術祭で賞^（※17）をいただいたんですけど、
その授賞式のときに審査委員の中島信也さん^（※18）が
家族で楽しまれているという話を聞いたんです。

ＣＭディレクターの中島信也さん。

はい。
「みんなでプレイするのが楽しいんだよね。
息子にリードされながらやってるんだよ」
みたいなことを言われて（笑）。
「家族で楽しめるこういうゲームもあるんだね」
みたいなことを言ってもらえたのが
ひじょうにうれしかったですね。
わたしたちがお客さんに伝えたかった
制作意図が表現できたとも思いましたし。

そうやって、『ＦＦＣＣ』が生まれたと。
やっぱり河津さんは
新しい構造を考えるのがお好きなんですね（笑）。

そうみたいです（笑）。