2. 「かな」のないキーボードに

岩田

キーボードのデザインはどのように進めたんですか?

太田

デザインに関しては
大きく分けて2つの方向で考えました。
ひとつは、今後の展開も考えて、
老若男女問わず、誰もが使えるような汎用的なデザインです。
そしてもうひとつが、
『ポケモンタイピングDS』というソフトに同梱しますので、
ポケモンに特化したデザインも考えてみました。
今回この場には参加していませんが、デザインについては
ネットワーク事業部の丸山さんが担当してくれました。
丸山さんは工業デザインだけではなく、
仕様検討などにも協力してくれたんです。

岩田

最終的に今回の「ニンテンドー ワイヤレスキーボード」は
汎用的なデザインが採用されましたけど、
そこに至るまで、どのような経緯があったんですか?

太田

まずはじめに、
デザインの方向性を決めるために担当者で議論をしました。
担当者間では、今後の任天堂製品へも対応できるように、
「汎用性のあるデザインでいこう」との結論になったんですが、
今回のソフトが「ポケモンタイピングDS」であることから、
ポケモンに特化したデザインも考える必要があるかもしれないと考えて
2種類のデザインを準備しました。
その後、(株)ポケモンの石原(恒和)さん(※3)
2つの案をお見せしたところ、汎用性のあるデザインを選ばれました。

※3

石原恒和さん=『ポケットモンスター』シリーズのプロデューサー。株式会社ポケモンの代表取締役社長兼CEOであり、今作の『バトル&ゲット! ポケモンタイピングDS』ではプロデュースを担当。

岩田

それはどうしてだと思いますか?
意外に感じられる方も多いんじゃないでしょうか?

太田

汎用性のあるデザインのほうは
表は白、裏は黒のツートンになっていますので、
「『ブラック・ホワイト』(※4)でちょうどいい」
みたいなことをその時はおっしゃっていたと思います。

岩田

なるほど(笑)。

※4

『ブラック・ホワイト』=『ポケットモンスターブラック・ホワイト』。ニンテンドーDS用ソフトとして2010年9月に発売。

太田

それに、この商品は小さなお子さんだけでなく
親御さんにも使っていただきたいということかなとも思います。
これは自分の推測なんですが・・・。

岩田

より幅広いお客さんに触ってほしいので、
汎用性のあるデザインを選ばれたのではないか、ということですね。
次回の「社長が訊く」ではソフト篇を行いますので、
そのときに石原さんにお訊きしますね。

太田

はい。お願いします。

岩田

汎用性のあるキーボードですが、
デザインの細かいところに、こだわりがありますよね。

福元

はい。そもそもキーボードって、
たくさんのキーが並んでいるので、ひと目見ただけで
尻込みしてしまう人もいらっしゃると思うんです。

岩田

「キーボードアレルギー」という言葉もあるくらいですから。

福元

実はキーボードをデザインしたスタッフ自身が
あまりキーボードを好きじゃなかったんです・・・。

岩田

キーボード好きじゃないデザイナーが
キーボードをつくったんですか(笑)。

福元

はい。なので、できるだけ
シンプルなデザインにしようと思いました。
そこで、たとえば、キーに印刷する文字は
アルファベットだけにするとか。

岩田

ふつうのキーボードだと
アルファベットといっしょに「かな」も印刷されてますよね。

桑原

でも、今回の『ポケモンタイピングDS』では、
「かな」で入力することは一度もありませんし、
「あると逆に紛らわしいよね」ということだったんです。

岩田

ローマ字入力だけなんですね。

福元

はい。それで見た目にスッキリしたデザインになりましたし、
「かな」をなくしたことで、
「ひらがな/カタカナ」のキーが不要になって、
「変換/無変換」のキーもとっぱらうことで、
手前にある「スペースキー」を大きくできました。
またそれとは逆に、キーボードのサイズは
できるだけコンパクトになるようにと、
キーとキーの間のキーピッチに関しては
一般的なキーボードよりも約2ミリほど詰めたりしました。

太田

電池を入れても300グラムと軽量ですので、
カバンのなかに入れて、どんどん持ち歩いて、
友だちの家でいっしょに遊んでほしいと思っています。

岩田

あと今回、キーボードとは別に
「DSコンパクトスタンド」も付いてきますよね。
この周辺機器のアイデアはどのように生まれたんですか?

太田

最初は「DSコンパクトスタンド」をつくる考えはなかったんです。
タイピングした文字は上の画面に表示されますし、
DS本体を机やテーブルの上に置いて、
そのまま使えばいいと思っていました。
ただ、基本的にはキーボードだけで
操作することができるんですけど、
ゲームをはじめるときは、タッチペン操作なので。
タッチしやすいようにと・・・。

岩田

本体をまっすぐ開いて置けば、
タッチしやすくなるんですね。

太田

ということで、スタンドの案が出てきました。

太田

実際に試作品をつくって試しにプレイしてみると
下画面が格段に見やすくなったんです。
しかも、DSの位置も高くなりましたので、
上画面のほうも見やすくなりました。

桑原

ですから、『ポケモンタイピングDS』だけでなく
ほかのゲームもこれを使って遊んでほしいくらいなんです。

太田

タッチペンで遊ぶソフトに限られますけど(笑)。

岩田

この「DSコンパクトスタンド」は
DSカードを収納できたりもするんですよね。

太田

そうです。先ほど
「友だちの家に持っていってほしい」と言いましたけど、
このスタンドもそのように使ってほしいんです。
スタンドの内側にDSカードを収納できるスペースがあるので
そこにDSカードを入れて持ち運ぶことができます。

岩田

せっかくセットで使っていただくのであれば、
何か付加価値的なものを付けたかったんですね。

太田

まあ、そのおかげで後ろから見ると、
顔のように見えてしまうんですけど(笑)。

岩田

(スタンドの後ろをのぞき込んで)
あら、ホントだ(笑)。

太田

(笑)。
今回の「DSコンパクトスタンド」は
3DSも含めて、すべてのDSシリーズに対応していて、
DS本体を縦置きできるようにもなっています。
ただ、縦置きすると、ボリュームのボタンなどがスタンドに触れて、
誤操作してしまうこともあるということで、
凹みをつくっています。

岩田

ああ、ここの凹みにはそういう意味があったんですね。

太田

はい。あとは床に置いたりすると、
誤って踏んでしまうこともあると思うんです。
このスタンドは3つの部品で構成されてるんですけど、
もし誤って踏まれても危険な壊れ方をしないよう、
クラッシャブルな構造になっています。

岩田

クラッシャブルというのは、
直訳すれば、「こわれるようにできている」
というように聞こえますけど、どういうことですか?

太田

大きな力がかかった時に、
3つの部品がばらばらになって
きれいに外れるようになっているんです。
割れてケガをしないよう、安全性を考慮し
あえてクラッシャブルな構造にしました。
もちろんバラバラになったあとも
ちゃんと組み立て直せるようになっていますので
安心してお使いいただけると思います。

岩田

ところで桑原さん、最近、社内の会議では
いつもこのキーボードを持ち歩いていますよね。

桑原

あ、そうですね(笑)。

岩田

それも他社さんのデバイスにつないで、
議事録を録ったりしているみたいなんですけど、
あれはどういう心境なんですか・・・?

桑原

いや、スタンドがちょうどいいんです。
他社さんのもピタッとはまります(笑)。
ちょっと文字を打ち込みにくいデバイスも
キーボードをつなぐと生き返るんです。
それで、うちの嫁にもメールを・・・
いつもは「絵文字のない文字が1行だけ」と言われているのに、
2、3行打てるようになりました(笑)。

岩田

(笑)