6. 見ててしまう、触ってしまう

岩田

改めて、坂本さんに来てもらったのは、
どうしても訊きたかったことがあったからなんです。

坂本

本当は前回出席できればよかったんですけど・・・。

岩田

たまたま出張と重なってしまいましたからね。
それにしても今回の『トモダチコレクション』の開発は
とても長期になってしまいましたよね。

坂本

最初にスタートしたのは2005年ですから
丸4年・・・。長かったですね。

岩田

で、わたしがとても興味があるのは、
『トモコレ』が最終的に仕上がるまで
どれだけのことが最初から見えていて、
やってる途中で何がわかってきたのか、
ということなんです。

坂本

はい。

岩田

率直に言って、わたしはものづくりに関して
立場上は引退してるんですけど、
心のなかではまだ引退していないつもりなので、
商品開発において、先を見通すことについては
いまでも強く意識してるんですね。
そうしないと、開発部門のマネージメントはできませんし。
でも、今回はちょっと負けていた感があるんです(笑)。
坂本さんのほうが先が見えてた気がしてて・・・。
そのことを坂本さんがどう考えていたか訊きたかったんですね。

坂本

実際、どこで見通せたかというと、
正直あまり見通せていなかったのかもしれないです。
でも、このソフトを中心にして
いろんなコミュニケーションが生まれたり、
人との横のつながりができるようなことは、
『とっとこハム太郎』からはじまって、
『大人のオンナの占い手帳』をへて、
『トモコレ』に至るまで
なんとか実現させたいと思っていたんです。

岩田

その考えは一貫していたんですね。

坂本

変わりませんでした。

岩田

でも、それなりに迷走しましたよね。

坂本

かなり紆余曲折をしましたね。

岩田

ディレクターの高橋さん以外は、
社歴の浅い人たち中心のチームでしたし、
少しばかり迷走気味になって、
しかもタイミングが悪いことに
『METROID:Other M』と
重なってしまったこともあって、
坂本さんがあまり関われなくなったことも
ありましたしね。

坂本

だから、若いメンバーにとっては
いろんな意味で不安はたくさんあったと思います。

岩田

わたし自身も
「これはモノが完成しないときの
悪いパターンじゃないか?」と
感じた時期があって、坂本さんに対しても、
「このまま続けますか?
一度、間を置いたほうがよくないですか?」
みたいなことを言ったりしましたよね。

坂本

そうでした。
でも、「なんか面白いやん」と思ったんです。
こうだから面白いとか
理屈では説明できないんですけど、
「よくわからないけどなんか好き」みたいな匂いが
このソフトにはプンプンしていたんですね。
もちろん、チームを引っ張ってきた高橋さんには
とても大きな不安があったと思うんですけど、
一方では「絶対に行ける」という気持ちも持っていて、
それがずっと変わらなかったことも
大きかったと思いますね。

岩田

そうですね。
ディレクターが変に悩んでませんでしたもんね。

坂本

あのような気持ちをキープしてなければ、
途中できっと破綻していたんでしょうけど。

岩田

実は『リズム天国』のときも、
今回も感じたことなんですけど、
スタッフの数はそんなにたくさんじゃなくても、
それなりに時間をかけるからこそ
できることもあるんじゃないかと。
20人のチームで1年と、5人のチームで4年は、
人月という考え方をすれば、どちらも同じパワーですけど、
結果としてできることが違うんですよ。
もちろん、機を逃せばそれでダメになるテーマもあるので、
時間をかけたほうが良いと一概に言えるはずもなく、
どちらが良いかはテーマにもよるんですが。

坂本

そうですね。
もちろん、ゲームを短い時間でつくろうとすると
わりとできちゃうんですね。
ところが、勝ち急ぐと失うものが
すごくでかかったりすることもあったりします。

岩田

そもそも『トモコレ』の開発を再開した当初は
「あと半年か9ヵ月くらいでできるかな」と、
坂本さんと2人で話していたくらいですからね。
ところが、時間はどんどんすぎて、
先に『歩いてわかる 生活リズムDS』が出て、
DSでもMiiがデビューしちゃうし、
こんなハズじゃなかった状態が
連発してましたよね。

坂本

やっぱり焦りましたねえ。

岩田

その焦る気持ちはお互いありましたけど、
一方で、時間をかけないとこういうものはできない、
ということもけっこうあって。

坂本

そうです。時間をかけることで、
どんどん面白いもんになっていったのは確かなんです。
なかでもいちばん大きな拾いものは声ですね。
Miiにしゃべらせるようなことは
時間に余裕がなければ、
たぶんやっていないことだと思いますし。

岩田

時間があったからこそ、
中川さんは変なコンテンツをたくさんつくることができたし、
高橋さんも、それをどうやってゲームに入れるか、
時間をかけて悩むことができて
その結果、面白いものになっていったんですね。

坂本

でも「『トモコレ』のどこが面白いの?」と問われても
正直なところ、なかなか説明できないんですよ。
ただ、開発の最後の段階になって
よく言ってたことがありまして。

岩田

どんなことですか?

坂本

「何が面白いかわからんけど、
なんか見ててしまうし、触ってしまうよね」と。

岩田

その感じ、よくわかります。

坂本

そんな感触があったんで、
そういうわかりにくい面白さを生み出すためには
必要な時間だったのかなと思います。
それに正直なところ、
予想以上のモノができたような気がしてるんです。
これまでのソフトに出てきたMiiは
プレイヤーの代わりのような
言ってみれば“記号”のようなものだったと思うんですけど、
『トモコレ』では、自分の分身のようになったかなと。

岩田

より感情移入できる存在になったんですね。

坂本

そうです。
だから、自分だとか、
自分の家族だとか、
友だちだとかのMiiが
『トモコレ』のなかで動いていて、
しかも人間関係がそこで生まれて、
それを見ているだけでも
面白いものになったと思うんです。
作り手としては情けないんですけど、
結果的にうまいこといったなあと(笑)、
そんな感じがしてるんですね。