岩田
音づくりに関して、具体的に指示はしないは、
「気合いを入れすぎ」と言われるは、
挙げ句の果てに「パンツを脱げ」とまで言われて
椎葉さんもすごく困ったでしょう?
椎葉
はい、本当に困りました(笑)。
それで試しに
マップ画面の音楽をつくってみることにしたんです。
リコーダーがヘタな人が吹いてる様なメロディとか、
ブワァ〜というちょっとダーティな音を入れつつ、
でも、まるで島を散歩しているような、
ずっと聴いていたくなるような曲をつくって。
岩田
ずっと聴いていても
不快に感じないようにする必要があったんですね。
高橋
でも、ありきたりの曲にはしたくなかったですし。
岩田
ところが、ありきたりじゃない曲は
だいたい不快に感じることが多いんですよね。
高橋
そうなんです。だから
そのバランスにすごく苦労しましたね。
岩田
で、その曲の評価はどうだったんですか?
椎葉
高橋さんから「安くていいですね」と(笑)。
岩田
これまたすごいホメ言葉(笑)。
一同
(笑)
高橋
『トモコレ』には独特の世界観がありますので、
まっとうなBGMではちょっと場違いなんですね。
岩田
まっとうじゃダメなんですね(笑)。
高橋
あえてそういう安っぽさみたいな。
椎葉
重厚長大では決してない、
かといって軽薄短小でもない、
僕は「軽濃短小」と勝手に呼んでるんですけど
そういうサウンドができたと思います。
岩田
そうやってサウンド方面で試行錯誤する一方で、
開発が再開してから
ゴールの着地点を見つけるまでに
ずいぶん時間がかかりましたけど、
高橋さんに不安はなかったのですか?
高橋
不安はやっぱりありました。
まず、Wiiと連動させたいと思っていたので、
「似顔絵チャンネル」でDSとWiiが
通信できる仕組みを入れておいたんですけど・・・。
岩田
『生活リズムDS』(※8)で
MiiのDSデビューは、先を越されちゃいましたね。
高橋
まさか『トモコレ』よりも先に
Miiを使われることになるとは・・・。
※8
『生活リズムDS』=『歩いてわかる 生活リズムDS』。同梱の生活リズム計を使い、1分ごとの歩数を記録するソフト。個人データの管理画面でMiiが登場。2008年11月発売。
岩田
ショックでしたか?
高橋
もちろんショックでした。
で、そうこうしているうちに、
頼んでもないのに
中川さんがつくった変なコンテンツが
大量に出てくるようになったんです。
岩田
頼んでもいないのに?(笑)
ゲームプログラマーは普通、
ディレクターが頼んだことをするものですけどね。
高橋
僕は中川さんに
ゲームの基礎の部分を頼んでいたんです。
ところが変なコンテンツがどんどん出てくるようになって。
岩田
どんなコンテンツだったんですか?
高橋
しかもカラオケとかで歌われる歌謡曲を歌ってて。
そういうのがいちいち面白かったんです。
岩田
Miiは歌ったことがありませんから
インパクトがあったんですね。
高橋
いちいち面白かったんですけど、
それらをゲームのなかにどう取り込んだらいいのか、
すごく悩むことになりまして。
中川
その部分はお任せしてましたから。
岩田
ゲームのなかでどう活かすかは考えずに、
とにかく面白そうな断片だけを次々と提案して、
「あとはよろしく」と?
勝手につくるだけつくっておいて(笑)。
一同
(笑)
中川
みんなが見られるようにしておけば
誰かが、こう使いましょうとか、
アイデアを出してくれると思っていたんです。
岩田
大胆ですねえ。
普通、プログラマーという人種は
自分がつくったものがどう使われるのか、
見えていないとすごく気持ち悪いはずなんですけどね。
中川
やっぱりその、大人の・・・何でしたっけ?
岩田
『大人のオンナの占い手帳』(笑)。
中川
それですそれです(笑)。
それをつくっていたとき、
似顔絵の部分が岩田さんのひとことで
Miiになったじゃないですか。
そんな感じでコンテンツをどんどんつくっていけば、
誰かがゲームに入れてくれるだろうと思ってたんです。
岩田
いつもそうだとは限らないんですけど(笑)。
でも、いろいろ出してたらMiiが生まれたみたいに
誰かがうまいこと料理してくれると思ってたんですね。
中川
そういうものかと思っていました。
一同
(笑)
高橋
まあ、中川さんにとって、
入社して初めて関わったソフトが
『大人のオンナの占い手帳』でしたから。
岩田
そうですね。
高橋
それに、うちのプロダクショングループでは、
『メイドインワリオ』(※9)もつくっていて・・・。
※9
『メイドインワリオ』=2003年3月のゲームボーイ アドバンス版の発売以来、8作が登場した瞬間アクションゲーム。最新作は2009年4月発売の『メイドイン俺』(DS)と『あそぶメイドイン俺』(Wiiウェア)。
岩田
あのシリーズも何でも入る、
いわば雑食性のゲームですよね。
中川
そうなんです。
『メイドインワリオ』の開発現場も見ていたので、
僕のつくったものも入るのかなあと。
岩田
あれを基準にされてもなぁ(笑)。
一同
(笑)
岩田
そんな中川さんの思いつきから端を発して
実際にゲームに入ったものは・・・?
高橋
さっき言った歌がそうですし。
Miiが歌うのはすごく面白かったので、
Miiをしゃべらせるようにすれば
もっと面白いんじゃないかということになって。
岩田
えっ? 最初にしゃべらせたんじゃなくて、
歌のほうが先だったんですか?
高橋
歌のほうが先でした。
で、しゃべらせたほうがいいということで
できあがってきたのが、
ジェットコースターのシーンだったんです。
ジェットコースターの乗客の写真に、
Miiの顔だけを貼り付けて、
「キャー!」と叫ぶだけのコンテンツだったんです。
それは最終的には製品に入らなかったんですけど。
岩田
そのときに、観光地にあるような
「顔ハメ看板」みたいなアイデアが生まれたんですね。
でも、そもそもというのは
普通の感覚の人だったらなかなかできないですよ。
すごく勇気がいることですし。
高橋
あれも中川さんの発案で。
岩田
中川さん、勇気があったんですね。
中川
そうではなくて・・・。
岩田
いや実際、いい発想だと思いますよ。
しかも、みんながあれを見て
「これはアリだ」と思ったわけですし。
高橋
本当に度肝を抜かれました(笑)。
中川
僕としてはただ、面倒なだけだったんです。
岩田
面倒?
中川
絵を描くのが面倒くさかったんです。
一同
(笑)
中川
それで、ジェットコースターの写真を
どっかから見つけてきて、
それにMiiの顔を貼り付けただけなんです。
そしたら、写真のところがやけに気に入られて。
高橋
でも、そのようにたまたま生まれたものでも
中川さんの変なコンテンツはすごく面白かったんです。
変なコンテンツがなかに入っていくことで
ゲーム自体がどんどんよくなっていったんです。