5. 生活に気づきを与えるソフト

岩田

今回はとても長いタイトル名になりました。

高橋

そうですね。
日経さんとの取り組みですから
タイトルはカチッとわかりやすい、
たとえば「経済力」みたいな感じでストレートに行くのか、
やわらかいものにするかで、かなり悩みました。
候補もかなりつくりました。

次橋

数で言ったらけっこう・・・。

鈴木

200くらいは考えました。

岩田

そんなにたくさん考えて
最終的に決め手になったのは何だったんですか?

鈴木

そこは、やっぱり日経さんとの話からですね。
最初、僕たちが日経さんに
「そもそも経済とは何なんですか?」と
ずっと問いかけるようなことをしていて・・・。

岩田

子どものように質問したんですね(笑)。

高橋

「そもそも経済を覚えると何かいいことがあるんですか?」とか。

岩田

そんなことまで聞いたんですか?
日経さん、怒ってませんでした?

高橋

ちょっと(笑)。

鈴木

で、「15秒のCMで伝えられるくらい、
わかりやすくカンタンに説明してください」と
お願いしてみたんです。

岩田

そうやって困らせてたんですね、大人を。

鈴木

(笑)。
そうしたら、「経済というのはモノとかお金のしくみなんですよ」
と答えられたんです。
その言葉がタイトルの決め手になりました。

岩田

さらに『知らないままでは損をする』という
サブタイトルがついてますよね。

高橋

たとえば、病院に行くとき
タクシーを使ったりします。
そんなとき領収書をもらっておけば・・・。

鈴木

薬局で風邪薬を買ったときとかも。

高橋

それらはみんな医療費扱いで
確定申告をすれば、還付金が受けられるようになってるんです。

岩田

そういった、知っていると得をする
問題も入っているんですね。

高橋

そうです。

岩田

じゃあ、最後に。
このソフトをつくり終えて、
お客さんにどんなことを伝えたいですか?

高橋

たとえば、日経新聞を毎日読んでる人たちでも、
意味がよくわからないことがあると思うんです。

岩田

でも、いまさら人には聞けない。

高橋

そうなんです。
いまさら人に聞くのは恥ずかしかったりするんですよね。
実際、自分もだいたいの国家予算すら
しっかりと答えられなかったりして情けなかったりしたんです。

岩田

自分がいかに知らないかを
気づかせてくれるところがあったんですね。

高橋

はい。
しかも、苦行のようなカタチではなく
読み物を読むような感じで
楽しめるようになっていますので、
このソフトをキッカケに
経済を身近に感じていただけるとうれしいですね。

岩田

鈴木さんは?

鈴木

経済をちょっとでも理解すると
自分の視点が増えると思います。
これまでは“通達”のように、
ただ聞いていたニュースにも
実はとても大きな意味があって、
将来はきっとこうなるんだよ、とか
それまでとはちょっと違う目線で、
社会との関わり方ができるようになるのかなと思います。

岩田

ただ知識を得られるのではなく、
自分自身を変えていくようなところがあるんですね。

鈴木

身近な例で言うと、
結婚をしている女性スタッフに
テストプレイをしてもらったんです。
そしたら彼女、「買い物が変わった」というんです。

岩田

買い物が変わった?

鈴木

その人は、スーパーに買い物に行くことが多くて
このソフトの質問にも出てくる「野菜の価格」は
ほとんど当てることができたと言うんです。
それでも、このソフトをプレイしたことによって
さらにモノの価格に目覚めたところがあって、
お店に行くたびに値段を
じっくり見るようになったそうなんです。

岩田

たとえば同じきゅうりでも
日によって値段が違っていたり、
お店によって安くなったりもしますよね。

鈴木

はい。
買い物の時に野菜売り場で、
野菜の値段が変わっているのは、
大体は知っていたんだそうですが、
他のモノの値段や自分が買っているものまで
気になるようになって、
いつもスーパーで支払う値段よりも、
1000円くらい節約ができたと言うんです。

岩田

それは大きな変化ですね。

鈴木

金銭的なスキルが上がったと
ものすごく喜んでいて。
だから、このソフトは
ビジネス界で活躍する人のためとか、
学生さんのためとか、主婦のような人のためとか
そういうのではなく、
生活をするすべての人に
プレイしていただきたいと思います。

岩田

つまり、生活のいろんなところで
ちっちゃい損をしていたのが
いろいろ返ってくると気づかされる、
そのキッカケにもなるソフトなんですね。

鈴木

はい。

岩田

じゃあ、北原さん。

北原

僕はデバッグの期間中、
マリオクラブ(※8)に通っていたんです。
通常、開発の終盤になってくると
デバッグスタッフもけっこう疲れてくるんですよね。
で、ある朝、そのときのサンプルソフトを渡しながら
「これをお願いします」と言い終わったら
マリオクラブのリーダーが
「今日も勉強するぞー!」と気合いを入れてたんです。

※8

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

岩田

勉強というとしんどいイメージがありますけど(笑)、
デバッグをしてくれた人たちのテンションは
最後まで高かったそうですね。
これ、すごく良い兆候だと思うんですが。

北原

はい、彼らはとても楽しそうに
「勉強するぞー!」と叫んでいて(笑)。
経済というと、とても難しそうなイメージがありますけど、
そんなふうに楽しみながら学んでほしいと思います。

岩田

じゃあ、最後に次橋さん。

次橋

やっぱり経済というと、
どうしても「難しそう」と感じる人が多いと思うんです。
さらに「自分には関係ない」とか
「知らなくてもぜんぜん困らない」とか、
たぶん面と向かって「経済に興味がありますか?」と聞かれても・・・。

岩田

「別に」という人は多いでしょうね。

次橋

でも、実はそんなに遠いところにあるものではないと思うんです。

岩田

「モノとお金のしくみ」ですからね。
無関係の人はいないんですよね。

次橋

そこはタイトルでも
あえて「経済」を使わなかった理由でもあるんですけど、
その経済と聞いて連想するような「株」とか「金利」とか、
そういうことだけじゃなくって、
もっと身近なことも含んだ、
世の中の仕組みそのものが「経済」だと思うんです。
 
ですから、先ほども言いましたけど
ビジネスの世界で働いてる人たちだけでなく、
もちろんそういった方々も楽しめるんですけど、
もっと幅の広い、いろんな方々に
人生に必要なことだということで
このソフトに興味を持っていただきたいです。
それに、トレンドのことを扱っていたり、
面白い“ツカミ”も入っていますので、
ぜひ楽しんでもらいたいです。

岩田

このソフトにはおそらく2つの意味があって、
ひとつは、バラバラにあるように見えていたモノにも
実はつながりがあって、それが理解できるようになると
いろんな新しい発見があって面白いと。
さっきの「ドバイとバラの関係」の話がそうですよね。

次橋

はい。

岩田

もうひとつは、世の中のしくみには、
あちこちに落とし穴があって、
知らず知らずのうちに
ちょっとずつ損をしていたりすることがあるんですが、
そのようなしくみがわかったら、
もうちょっと上手に生きられますよ
ということなんですね。

次橋

スーパーで買い物をして
1000円浮かせることもできますし(笑)。

岩田

そのような2つのことが
苦行ではなく、一連の活動のなかで、
関西風のオモロイ成分も入った(笑)、
このソフトとつきあっていくと、
いつの間にか、自然に身についていく。
このようなソフトは、
たぶん日経さんだけではできないし、
当然、任天堂だけでもできません。
 
世の中のつながりが見えてきて、
そういったことに歓びを見いだせる人なら、
きっと楽しんでいただけると感じています。
また、ちょっとずつ損をしたりして、
それが悔しいと思えるような方にも
このソフトに時間を投じていただく価値があるというのが、
わたしができあがったものを触った実感です。
みなさん、お疲れ様でした。

それでは続いて、日経さんから大人の話を訊いてみます(笑)。