毎回、新しいタイトルの方向性を立てるとき、
おひとりで考えるんですか？

いえ、まずはそれぞれのアイデアを持ち寄ります。
『アビス』の場合、ディレクターの樋口^（※6）と、
ダメなヤツが「しょうがねえなあ」って言いながら
世界や仲間を救うような話にしたいと思ったんです。
『池袋ウエストゲートパーク』^（※7）っぽい感じで（笑）。

ああ、なるほど（笑）。

『アビス』は、主人公ルークと、彼と裏表をなす
アッシュというキャラクターがいて、
このふたりの関係軸で世界が回るような物語なんですが、
ストーリーやキャラクターといった、
お客さんに伝えたい根幹を２～３人でつくります。

多分、少人数でやらないとまとまらないんですね。
そして軸を立ててから分業していくんですね。

そうです。それ以降もアイデアの持ち寄りです。
たとえばシナリオのほうから、
「こういうキャラクターを出したい」という提案があれば
「こう膨（ふく）らませようか」というふうに
だんだん足していきます。

最初に軸を立てる方たちが、
提案されたアイデアを選択して決めるんですね。

そうです。そもそもの向きがきちんとしていないと、
枝葉の話にいったとき、変に独立した話になってしまうんです。
必ずちゃんとつながっていたり、伏線になっていたりして、
お客さんが混乱しないようなつくりにしたいと思っています。

実際に『テイルズ』らしさが吹き込まれるとき、
どういうプロセスが大事だと思いますか？

う～ん・・・難しいですね・・・。

長いシリーズものには、絶対に“らしさ”があると思うんです。
それがないと、それを支え続ける個性は生まれないと思います。
たとえば吉積さんの目から“『テイルズ』らしさ”を判断すると、
それは、どういったところなんでしょうか。
テイルズスタジオに共有している方がたくさんいて、
つくるものが自然と『テイルズ』になるんですか？

ああ、でもつくり方は昔から変わっていないんです。
スタッフは変わっても、そこに対するこだわりを
それぞれが継承されている部分もあるんでしょう。
いまは『グレイセス』^（※8）をつくった馬場^（※9）が
メインでやることが多くて、はじめは違和感もあったんですが、
最近は『テイルズ』っぽくなってきたと思います。

なじんできたんですね。

はい。それが何なのか・・・
言語化するのは難しいんですが。

一方で１５年もやっていると、
『テイルズ』ファンの方も現場に入ってこられたりしますよね。
で、ファンの方が持っている価値観は、
じつはつくり手の価値観とイコールではない気がするんです。

ああ、違います。

いわば、ファンの方が入ってくると、
まさに市場の声に引っ張られるのと同じ現象が
現場で起こるんですが、それはどうされています？

だいたい一喝しますね。

ははは（笑）。

最近、テイルズスタジオに女性が増えたんですが、
『テイルズ』やＲＰＧが好きで入ってくるんです。

『テイルズ』は、お客さんの男女比はどれくらいですか？

アンケートとかを見ると、７割が男性で３割女性。
だけど、ステージイベントをやったり、
グッズを売ったりすると、９割５分が女性のお客さんになります。

え？ ９割５分、ですか。

はい（笑）。

ゲームを遊ぶ人は７割が男性なのに、
声優イベントやグッズは９割５分が女性。
はあー、それは別のマーケットに見えますね（笑）。

ええ。本当に、びっくりします。
それで女性のスタッフが入社してくるんですが、
多くがファンに近い目線での愛情を持ってるんです。

その愛情は、すごく強くて、善意ですよね。

でも「こうすべきです」という意見に対しては、
基本、制することが多いです。
強いファン視点の場合はとくにですね。

それは、先ほどの話題に戻りますが、
シリーズを重ねてつくっていくものは
お客さんのリクエストにただ応えるだけではなく、
お客さんがそのときに想像していなかったものがありつつ、
根幹での“らしさ”は失われないことが大切ですから。

そうですね。
いろいろな話を参考に聞くことで、
お客さんのリクエストを裏切りにくくなっちゃって、
思い切りができなくなるのは嫌ですから。
どんな場合でも、お客さんの期待を
いい意味で裏切れる腹を持ちながらやりたいです。

お客さんに喜んでもらえる裏切りでありたいですよね。