社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第9回:『テイルズ オブ ジ アビス』

目次

3. “キャラクタープレイングゲーム”

岩田

『テイルズ』シリーズにとって、
軸として絶対動かさないことがあるとしたら、
それは何ですか?

吉積

中身のストーリーというか、キャラクターを
遊んで楽しんでもらうシステムのゲームなので、
たとえば「この人が悪いんですよ」って言い方は
絶対にしないようにしています。
最終的には、主人公たちのパーティが
世界を危機に陥れようとしている存在と
戦うことになるんですが・・・。

岩田

そういう意味では、善と悪があるんですね。

吉積

でも、悪の人たちは悪意の塊ではなく、
彼らなりの理屈があるんです。
彼らは「この世界をなんとかしないといけない」と思っている。
でも主人公たちは「いやそれは違う」と思っていて、
意見の対立がちゃんとある。
それが一方的にならないようにしています。

岩田

一方的な善悪があって、最後には“悪を倒して正義が勝つ”
というものではない世界を描くのがひとつの特徴なんですね。

吉積

そうじゃないとリアルにならないんです。
世の中、争いがたくさんありますけど、
どっちも自分が正しいと思ってやっているわけですよね。
だから、一方的に声の大きい人が「あいつが悪いんだ」と言うから
悪くなっちゃっているのかもしれない。

岩田

歴史は勝者がつくるので、勝った側が
「あれは邪悪だった」ということにするわけですからね。

吉積

だから敵対する側にも必ず理屈があったうえで対立する、
という図式は変えないようにしています。
わたしは、自分たちがつくるゲームを
“ロールプレイングゲーム(RPG)”だと思っていないんです。
役割を楽しむのではなく、キャラクターを楽しむゲームなんです。
要するに、自分の分身が主人公なのではなく、
主人公はちゃんと人格があるキャラクターなので、
“キャラクタープレイングゲーム”だと思っています。

岩田

吉積さんは、その言い方を、よくされているんですか?

吉積

普段はあまりしないのですが、そういう意識です。
お客さんがなじむようにRPGという呼び方をしていて、
ジャンル表記のほうに“ナントカカントカRPG”と
毎回つけるんですが、
それは「単純にRPGじゃないよ」っていう意思なんです。

岩田

混乱しないために呼んでいるだけで、
RPGとは少し違う位置に立つソフトなんですね。

吉積

「RPGってみんな思っているかもしれないけど
 そういうんじゃないんで、ごめんなさいね」っていう感じです(笑)。
あとは魅力的にキャラクターを描くことと、
その世界がおとぎ話にならず、
リアリティを持って受け取ってもらうように工夫しています。
台詞回しに注意したり、キャラクターを“いまっぽく”したり、
考え方を“いまふう”にしたり・・・。

岩田

今回の『アビス』は、何のRPGですか?

吉積

“生まれた意味を知るRPG”です。
『アビス』のテーマは、自分探しなんです。
もともとが2005年に出した
シリーズ10周年記念作品ですので、その節目として
いままでできなかったことに挑戦しました。
それはシリーズではじめて、
「すごくわがままな主人公にできないだろうか?」
「プレイヤーが主人公を嫌いになるかもしれないけど、
 それでも最後までプレイできるような仕組みはできないか?」
と考えて、シナリオもそういうラインにしてみたんです。

岩田

なるほど。

吉積

主人公のルークは、いいところのお坊ちゃんで、
お金も地位もあって、わがまま放題に育てられたから、
外に放り出されたとき何にもできないんです。
途中、自分のミスで大変な事件が起きて責められても、
「俺が悪いんじゃねーよ」って開き直るものだから、
パーティ5名全員から「お前ダメだ!」って言われる、
そういう主人公なんですね。
これじゃいけないと思って、変わっていく話なんです。

岩田

それを主人公として操作して遊んでいくゲームでしたら、
確かにプレイヤーに嫌われるかもしれないですね・・・。

吉積

そうです。この瞬間、もしかしたらお客さんは
コントローラを置くかもしれないと思いました。
でも、主人公がなぜそうなったのか、とか
彼が変わっていく様子が体験できるので、
すごく賭けでもありました。
わたしは「気持ちのV字回復ができる」と言っています。

岩田

お客さんはどう反応されるんだろうと、
固唾をのんで発売したんですね。

吉積

そうです。でも結果的に
最後までプレイしてくださったお客さんが多くて、
「すごくよかった」という声をたくさんいただけたんです。
あの・・・つまり何が言いたかったかというと、
“運命のもとに生まれて正しく成長して、最終的に魔王を倒す”
みたいなのはやめようと思ったんです。

岩田

それでは、予定調和になってしまうということですね。

吉積

はい。変な自意識かもしれませんが、
ゲームがそればかりだと馬鹿にされちゃうと思うんです。
映画や本では、もっと複雑な世界観を描いていて
若い子たちも楽しんでいるのに、
ゲームだけが当たり前のことをしても、仕方ないと思ったんです。
それで変な主人公とか、誰もいい人がいないパーティとか(笑)、
それぞれが自分の考え方を持つようにしました。

岩田

最初から最後まで、善人の集団じゃないってところが
ポイントなんですね。

吉積

そうです。どちらかというと最初から最後まで、
全員が腹に一物あるまま、終わるんです(笑)。

岩田

でも、世界は救うんですよね。

吉積

はい。でも、世界は救うんです(笑)。
別に善人ばかりじゃないんです。
でも、それってリアルじゃないですか。
頭がいいんだけど馬鹿なふりをするとか、
かわいこぶっているけど敵とつながっているとか、
『アビス』の世界にはそういうキャラクターがいっぱいいるんです。

岩田

なるほど。

吉積

でもそれぞれの考え方や理屈で動いていて、
最終的には、自分で選んで主人公のルークと旅をします。
それで、ルークがだんだん成長していく姿を見て、
みんなが「でもルーク、本当はいいヤツじゃん」って
思えるようになる。そういう伝説というか、
おとぎ話を感じてほしいなと思っています。