2. 「短い時間を集めると強くなる」
岩田
堀井さんが『VII』の
オリジナル版をつくった時、
容量が増えてできたこと以外の
新しいチャレンジとして、
どんなことを盛り込まれたんですか?
堀井
ボクは当時、『MYST』(※13)という
海外のアドベンチャーゲームが気に入っていて、
「こんな謎解きもおもしろいな」と思っていたんです。
というのも、その頃は
「みんなレベル上げの戦闘に飽きてきたんじゃないか?」
という思いが、ちょっとあったんですね。
岩田
たしかに、RPGの序盤は、
「とりあえずレベル上げしておこう」
みたいなところが、
当時のお約束になっていましたからね。
堀井
そこで『VII』は、ゲームをはじめると
謎解きをメインに展開する構成にしたんですね。
だから冒頭の5時間くらいは、
戦闘なしで物語を進めるというふうに。
岩田
ああ、あれは『MYST』の
影響を受けていたんですか。
堀井
はい、やってみたかったんです。
まあ、いま振り返ると
「あれは必要だったかな?」とは
思いますが(笑)。
岩田
たぶん、それまでわりと
何をするかはっきりしていた
『ドラクエ』の世界で、冒頭からある種、
経験のないアドベンチャー的な謎解きが
はじまったことに、とまどうところは
あったのかもしれませんね。
堀井
ボクとしてはそれほど難しくした気はないんです。
ただ石版の数が多かったので、どうしても
見落としてしまう場所が発生したんですね。
たとえば、よくある7つの間違い探しなどで
7個のうち6個まで見つかっても、
最後の1個がどうしても見つからない現象によく似ています。
さらに人によって、
見落としやすい場所がちがっていたりして。
藤本
「ここは探したから、石版はないはず」
といった思い込みも、
謎解きの勘どころを鈍らせるんです。
まさか普通の民家のテーブルの上に
ぽんと石版があるとは思わなかったり・・・。
岩田
たしかに(笑)。
堀井
だから、今回はその反省をふまえて
もう石版では迷わないようにしています。
藤本
「迷わない、不安にさせない、
わかりやすい『VII』をつくろう」
というのが、今回の3DS版の
最初のコンセプトでした。
岩田
今回『VII』をその3DSでつくるにあたって、
みなさんそれぞれの想いがあると思うんですが、
どんなことを考えて、はじめられたんですか?
先ほどリベンジとおっしゃっていた
眞島さんからお聞きしましょうか。
眞島
僕が最初に思ったのは、
「当時のお客さんといまのお客さんの
『VII』を見る目はぜんぜんちがう」
ということです。
岩田
それは、どういう意味ですか?
眞島
前回『VII』をつくった時は、
「迷うことが楽しく、歯ごたえあるRPG」が
コンセプトだったんです。
当時、圧倒的に容量が増えたぶんだけ
冒険する場所の規模も大きくなり、
数にして1000近いエリアが存在したわけで
「そこまで広い世界を行き来するのは
ものすごく迷ってしまうだろう」
と、当初から想定はしていたんです。
岩田
なるほど、先ほど藤本さんがお話しされた
コンセプトとは、「迷う」ことに対する
考えかたがちがっているんですね。
「迷うことをいかに味わって楽しんでもらうか」
ということを目指していたわけですか。
眞島
はい。そこでグラフィック的には、
それまでのシリーズである程度パターンで
統一されていた町の壁などのデザインを、
個々にガラッと変えて、それぞれの町の雰囲気を
差別化したつくりにしました。
岩田
数が多くて、歯ごたえがあるぶん、
一つひとつの町や場所に個性を立てて
それぞれの印象を際だたせつつ、
大きく広がった世界観や、
その多様性を楽しんでもらおうと考えたんですね。
眞島
そうですね。そこを今回は、
画全体のスケールやキャラクターの頭身などは
リメイクにあたり描き直してはいますが、
もとの考えかた自体は、大きくは変更していません。
ただ、いまのお客さんはどちらかというと、
「面倒くさそうだ」と感じ取られた時点で
離れてしまう可能性があると思ったんです。
だからその点は、「前回とちがったアプローチを
しないといけない」と最初に考えました。
岩田
ゲームの進行や難易度に関して、
お客さんが感じるストレスだったり、
そこにエネルギーを費やすモチベーションが、
当時の基準とちがうんですね、そこは。
眞島
ちがいますね、やっぱり。
ですので、もともとのエッセンスである
「探して迷う」ことの楽しさは大事にしつつ、
そこに導く間口の部分について
工夫する必要があると考えました。
岩田
なるほど。藤本さんはどうですか?
藤本
わたしはまず『VII』と3DSは、
「すごく相性がいいぞ」と思いました。
『VII』のお話って基本的に
ショートストーリーの連続なんですね。
だから携帯機で隙間の時間でゲームを遊ぶ
いまのお客さんのスタイルにとても合うんです。
岩田
「携帯機だからこそ引き立つ
『VII』のおもしろさが出せる」
と思ったわけですね。
藤本
はい、そうです。
堀井
それはボクもすごく思いましたね。
DSで出した『IX』(※14)は、携帯機の
長所をかなり活かしています。
携帯機だから、普通にトータルで300時間以上とか
遊んでも、それほど苦痛ではなかったり。
ちまちまと遊べるんですね。
岩田
そうですね。それはまさに
「短い時間を集めると強くなる」
という、新しい発見なんですよ。
堀井
しかも遊んでいる本人は
意外とそんなにやった気はしてないという。
いまの時代って、テレビの前に集中して座るのは
つらく感じる人もいると思うんですけど、
携帯機ならテレビを見ながらできるし、
どんな場所でも、気楽に遊べるでしょう。
岩田
堀井さんがお話しされたとおり、
人ってテレビの前から解放されると、
遊べる時間は明らかに増えるんです。
ちょっと話がズレますが、
「ゲームがテレビから自由になったらいいのに」
と考えたことがきっかけで生まれたのが、
まさにWii U GamePadなんですよ。
堀井
なるほど。そうなんですね。
岩田
でもたぶん堀井さんは、
『IX』の経験を自身の実感として、
携帯機と『VII』の親和性のイメージを持って
今回のリメイクをはじめておられるんですね。
堀井
それはありますね。
杉村
わたしは最初、3DSでやることが決まった時、
「細切れの時間で遊ぶことになるので、
それがプレイしにくくなる原因にならないように
工夫しなければいけないな」と思ったんです。
だいたいの人は「どこまでやったっけ?」って
なるじゃないですか。
岩田
たしかに再開した時、
何をするかがわからなかったりすると、
それでプレイするのが面倒になりますよね。
杉村
そこを補助するために、今回は
「“あらすじ”のシステムを充実させよう」
と思ったんです。
藤本
でも、それだけでも膨大な作業でした。
1年くらい、かかったんじゃないですか。
杉村
そうですね、かなり。
でも最終的にはストーリー仕立てで
過去の冒険が整理されて読めるので、
とても実用性の高いものになったと思います。
岩田
「こうしたらいいね」っていう一言が
ものすごい作業を生むわけですけど、
それは一方で計り知れない価値を
生むことでもあるんですよね。
そういう意味で“あらすじ”というのは、
携帯機でRPGを遊ぶうえで、
とても重要な役割を持っていると思います。