6. 「変えることをためらわない」
岩田
この「社長が訊く」が掲載されるタイミングで、
ちょうど体験版(※21)が配信されていますよね。
その内容を少しご紹介いただけますか。
小嶋
はい。今回配信する体験版は、
TGS(東京ゲームショウ2012)で
出展した3バージョンを収録したものになっています。
当初は配信容量や制作期間の問題があったのですが、
やはりすべてを遊んでいただきたいという気持ちから、
何とかTGSバージョンのままのかたちの配信へと、
こぎつけることができました。
安保
内容としては、シングルプレイが1バージョンと、
ローカルで3人協力プレイができる
「VRミッション」が2バージョン入っています。
シングルプレイで操作感覚になじんでもらって、
「VRミッション」の2つのレベルで腕試しという構成です。
レベル1はアクションが苦手な方でもクリアできますが、
レベル2は小嶋から「すごく難しくしてくれ」って
言われてつくった、ちょっといじわるな内容です。
小嶋
『モンハン』でいうところの
「やれるものならやってみろミッション」ですね(笑)。
岩田
誰でも気持ちよく遊べるカジュアルなミッションと、
腕に自信のある人向けの“挑戦状”の2つが
一緒に入っているわけですね。
小嶋
はい。「両方必要だろう」
とはずっと思っていたんです。
はじめての人向けのミッションは当然なんですが、
それだけだと「ああ、おもしろいね」って
その場で終わってしまう気がしたんです。
岩田
それだと、残らないですよね。
小嶋
そうです。それでもうひとつ、
「クリアできない体験版」が
あってもいいんじゃないか、と思っていて。
岩田
体験版なのに、クリアできないんですか?(笑)
安保
でも結果、TGSではそのレベル2が好評で、
クリアするために
2回並んでくれた方もいらっしゃったんです。
岩田
あのものすごい列を、2回ですか。
それはすごいですね。
小嶋
はっきり言って、
ひとりではクリアできない難しさなんですね。
それでTGSの会場で知り合った人同士が
3人で協力して挑戦してくれたり。
岩田
腕に自信のある人が集まらないと、
クリアが困難なミッションなんですね。
安保
まぁ、簡単にはいかないですね。
岩田
でもプレイヤーはつねに、
つくり手の想像を超えますからね。
小嶋
それがくやしくもあり、
うれしくもあるところです(笑)。
安保
体験版ではそういった方むけに、
タイムアタック用のタイマーをつけたんですよ。
協力プレイでは3人の立ち居振る舞いによって、
かなり効率が変わるので、やりこんでいくと
どんどんタイムが縮まっていきます。
開発のチーム内でも「よーし4分切ろうぜ!」
とか盛り上がっていますね。
岩田
もう、レースゲームみたいですね(笑)。
一同
(笑)
岩田
この『エクストルーパーズ』もそうなんですが、
わたしから見て、カプコンさんは
新しいシリーズが定期的に生まれている感じが
すごくしているんです。
そういった社風はどこからきているのか、
小嶋さん、安保さんから
最後にお訊きしたいんですけれど。
小嶋
いろんな立場のスタッフから、
つねにいろんな提案が出てきているんですけど、
それをその場だけで終わらせずに、
会社としてしっかりくんで、かたちにするシステムが
自然とできているのかもしれません。
そういった中にたまに、
ミラクルを起こす要素が含まれているわけで。
安保
まったくゼロから生み出したものではなくて、
「変えることから生まれた新しさ」
みたいなものもありますよね。
あえて言うとしたら、
「変えることをためらわない」
というのもあると思います。
岩田
現場のノリを尊重しつつ、
一度つくったものでも必要なら壊し、
変えることをためらわない、
ということですか?
小嶋
それで言うと『モンハン』も
最初はぜんぜんいまのかたちではなくて
もっとファンタジーRPGに近い雰囲気でした。
それを途中で一度、大きな方針転換をしています。
安保
どこの会社でも同じだと思うんですが、
現場が固執しすぎて、うまくいかないことって
けっこうあると思うんですね。
「こうしたらいいのに」って話をすると、
「歴史があるから変えられない」って
思い込んでいたりするんです。
岩田
でもそこをひとつ変えたら、
いろんな問題がいっぺんに
解決する場合もあるんですよね。
それは外から見てはじめてわかることもある。
安保
そうですね。
わたしは途中から立て直しに入ることが多かったので、
すごくよくわかります(笑)。
岩田
理想は、自分でつくっていて、ハマったら、
クルッと視点が切り替えられればいいんですけど。
安保
つくっている本人からすると、
「それがいちばん難しい」とは思います。
苦労してつくったことをわかっている分、
判断しにくくなりますから。
岩田
でも、ぜったい問題の原因となる、
理由はありますからね。
安保
ありますね。
それぞれの理由をひもといていくと、
必ず原因にたどりつくはずなので。
小嶋
元プログラマーならではの観点ですね。
岩田
とてもよくわかります(笑)。
原因を考えて、行動しますよね。
一同
(笑)
岩田
この『エクストルーパーズ』は、
新しいチャレンジのひとつとして、
「なにか伝わるものがある」と思っているんです。
最後に大きく化けるゲームというのは、
つくり手の思惑を離れて、
お客さんからお客さんに伝わっていきますから。
小嶋
「その連鎖が広がっていけばいいなぁ」と、
本当にそう思います。
岩田
そういう意味では、すでに任天堂内に
熱烈なファンがいますよ(笑)。
小嶋
ああ、ありがたいです(笑)。
安保
開発スタッフの様子を見ると、
今回とくにつくった人の愛情が強いんです。
人にすすめるスタッフがすごく多いし、
「人から愛される魅力が何かあるのかな」と、
ちょっと思っていま。
小嶋
アクションゲームをずっと好きな
スタッフたちがつくった
「カプコンアクションいいとこ取り」の
ゲームですからね。
岩田
今日お話をお訊きしていると、
おふたりのゲーム開発者遍歴はぜんぶ、
この『エクストルーパーズ』につながって、
活かされている感じがしました。
見た目はマンガチックで間口が広いけれど、
遊びこむほど、ちがったおもしろさが見えてくる。
ふだんアクションをされない方も、
腕に自信のあるコアゲーマーの方も、
一緒に同じように楽しめるように、
スタッフの思いがこめられた
カプコンアクションのいいとこ取りゲーム。
そこを味わってもらいたいですね。
小嶋・安保
はい、ぜひ(笑)。
岩田
今日はありがとうございました。
小嶋・安保
ありがとうございました。