5. 『キングダム ハーツ』らしさ
岩田
ところで、これだけシリーズを重ねてくると、
『キングダム ハーツ』らしさというのが、
野村さんの中で確立されていきますよね。
野村
うーん、どうですかねえ・・・。
岩田
それとも野村さんの中で、
先にビジュアルイメージがバチーンとあるから、
そんな議論がそもそもいらないんですか?
野村
そうですね。
あんまり『キングダム ハーツ』らしいかどうか、
という話は出ないですね。
「自分がこんなのをつくるよ」といったら、
それはもう『キングダム ハーツ』だという
スタッフの意識ですね。
岩田
野村さんの脳内に湧くイメージが
『キングダム ハーツ』なんですか。
野村
それはありますね。
まあ・・・ひとつあるのは“奥行き”が感じられれば、
それでいいかなと思うんです。
岩田
“奥行き”というのはどういう意味ですか?
野村
その世界に入ったときに、奥行き感があればよくて。
「これは『キングダム ハーツ』ですよ」
と提示されたときに、名前だけがついただけの
薄っぺらい表面的なものに見えなければいいんです。
岩田
ただ、キャラクターと世界だけ貼りました、
というんじゃないってことですね。
野村
はい。なんとなく、その程度しか考えていないんですが・・・。
でも、表に出ようが出まいが、
“設定”というのはけっこう大事だと思っています。
岩田
それは自分の中で全部、
つじつまが合っているからこそ、
揺るがなくできるわけですよね。
全部語るかどうかは別として、
自分の中に矛盾のない説明がつくように、
背景が全部つながって存在するということですね。
野村
そうです。
岩田
実際に今作を公開して、お客さんの反応を見て、
いま、野村さんはどんな手ごたえを感じていますか?
野村
ロサンゼルスでの最初の発表(※24)のとき、
僕は2階席から岩田さんが発表されているところを見ていて、
画面にドンッとタイトルが出たとき、
周りのお客さんがワッと湧いてくれたので
「よかったなぁ・・・」と安心しました。
岩田
わたしもステージ上からの反響を覚えています。
みんながウワッと湧く手ごたえがありましたよね。
野村
「重く受け止めないとな」と思いましたけど・・・。
それからずっと、発表映像が出るタイミングの折りには、
お客さんの反応がきちんとありましたから、
「ちゃんと注目はされているんだな」と、感じていました。
「そこまで注目されないんじゃないか」と思っていたんで・・・。
岩田
それはどうしてですか?
野村
発表がそうそうたるラインナップだったので、
そんなに目立つタイトルではないと思っていたんです。
でも、ずっと注目してくれているのは感じるし、
同梱版(※25)とかの反応もすごかったですし。
岩田
同梱版へのあの反応は強烈でしたね。
野村
はい。
だから、それに応えられる、
楽しいものになったとは自負していますけど、
ずっと自分が思っていた以上の反応だと感じていました。
岩田
一方、長くシリーズがつづくと、
シリーズファンの方が期待することと、
ニューエントリーの方に受け入れてもらえることとの
葛藤になやむ時期がくるはずですけど、
そこはどう考えていますか?
野村
そこは困ってはいるんですけど・・・、
「いつかなんとかしないといけない」
と思ってやっている感じです。
ただ毎回、導入部分ははじめての方でも入りやすいように、
主人公自体も「なんなんだ、この世界は?」という
わけのわからない状況からはじまるので、
プレイヤーは主人公と同じ立場なんです。
岩田
必ず、わからない状況からはじまるんですね。
野村
はい。知らない方向けに、
いろんなキャラクターや設定は、
ゲームの中で手助けになる程度は解説はしているんですけど、
シリーズを把握している視点からは、
知らない方の視点で不安箇所を理解しづらいんですよね。
岩田
それに、わかっていない方のために説明が入ると、
余計なものにも感じられてしまいますからね。
野村
経験、未経験共通の謎があっても、
やっぱり、知らない方にやってもらうと、
知らないこと自体が不安になってしまうんです。
「自分だけが知らない前情報があるんじゃないか?」
って思われてしまって。
だからなかなか解消されない難しい問題ですけど、
今回は過去のあらすじが
全部わかるシステムが入っています。
岩田
確かに今回のものは、
過去作を遊んでないといけない感じはしないですね。
野村
はい。これまで以上に、
必要な情報がわかるようにつくっています(笑)。
でもまあ、“触っているだけでも楽しく”がコンセプトなので、
細かい部分は知らなくても十分に楽しめると思いますけど。
岩田
『マリオ64』のお城の前で
飛んだり跳ねたりするのを楽しいと思った野村さんが、
触っているだけで楽しいものをつくろうとして
はじまったものが、このシリーズなわけですからね。
野村
はい。