岩田
そもそも野村さんがはじめてディレクターをされたとき、
ディレクターとはこうあるべき、
という自分のスタイルを、どうやって確立したんですか?
野村
僕が最初についたディレクターは坂口さんで、
その次についたディレクターは北瀬(佳範)さん(※10)だったので、
その2人からの影響は大きいかなと思います。
あとバトルの企画では、『FFIX』(※11)の
ディレクターをされた伊藤(裕之)さん(※12)。
あとモノリス(※13)に行かれた高橋(哲哉)さん(※14)。
彼がグラフィックのリーダーだったので、
けっこうかわいがってもらいました。
その4人が、いわば自分の上司のイメージです。
岩田
その4人の上司のイメージから、
取り入れるところを取り入れて、
ディレクターになっていったんでしょうか?
野村
いえ、ものづくりの考え方くらいしか拾えてないですね。
「彼らのように自分はできないな」
と思いながらディレクターになったので、
4人とは一緒につくっていて楽しかったですから、
「なんとなく楽しくやれればいいかな」ぐらいです。
岩田
ただ、わたしはリーダーのいちばん大事な役割は
「ゴールはこっちにあるよ!」と言って、
「そのゴールに行けたらいいことがある」と
みんなが信じられるようにすることだと思うんです。
お話を訊いていて、野村さんはそれを
すごくわかりやすく、実行されているなと思いました。
野村
そうですね・・・。
自分がデザイナーというのもあるから、
ビジュアルイメージが最初から頭に浮かんでいるので、
それを伝えるのは、文字から入るアイデアとは違って
伝えやすいのかもしれません。
岩田
でもビジュアルから入るタイプといっても、
野村さん自身はおそらく、いわゆる止め絵で
こんなビジュアル、というだけでなく、
「アクションの構造もこうしたらおもしろい」と、
いっしょにイメージしていますよね。
野村
ああ、そうですね。
岩田
それってどうやって伝えるんですか?
野村
うーん・・・最初のころは話しながら
絵をパパッと描いて説明していたんですけど。
たとえば自分が何か映画を観てきて、
「こんな映画だったよ」って話をするときに
言うような感じと、同じです。
岩田
ああ、自分は完成像を
見ているから、それを説明して
「ここちょっと違う」「ここはこれでいい」みたいに
だんだんイメージが形になっていくんですね。
典型的なビジュアルの完成イメージから入るタイプですね。
野村
だからPVをつくると、
スタッフはわかりやすいと言ってくれます。
岩田
PV自体が、お客さんだけじゃなく
スタッフにもプレゼンされるから、
動く仕様書みたいになるんですね。
野村
そうです。
ゲーム部門のスタッフはPVを見て、
「こういうアクションがやりたいんだな」と、
イメージが伝わるみたいです。
岩田
なるほど。よくわかりました。
あと『キングダム ハーツ』と言えばもうひとつ、
多くの人が多分、度肝を抜かれた
宇多田ヒカルさんとのコラボレーションがあります。
わたしもびっくりしたんですが、
あれはどうしてできたんですか?
野村
まあ、自分が宇多田さんが好きで、
やっぱりディズニーという世界最大の
キャラクターコンテンツと組めたんだから、
曲も最高のアーティストをつれてこないとダメだと思って、
「宇多田さんしかいない」って言ったんです。
「きっと無理ですよ」って言われたんですけど、
「聞いてみないとわかんないじゃん」ってことで
オファーさせていただいたら、
意外と悪い感触じゃなくて、それで決まりました。
岩田
直球で来てくれると、うれしいのかもしれませんね。
だってディズニーさんのところに行って
「ディズニーキャラクターをメインでつくるのは嫌だ、
俺のこのキャラクターでつくりたい」という人は、
多分あんまりいないですし(笑)。
野村
(笑)
岩田
宇多田さんのところにいきなり行って、
「このゲームのために曲をつくってください」っていう話も、
多分、めずらしいと思うんですよ。
普通の人は「無理」って思いますから。
野村
そうですかね・・・。
けど、やる前から無理だとは思わないことが多いですね。
「やるだけやってみて」って感じです。
岩田
やらないで無理より、
どんどんチャレンジしたほうがいいですからね。
でも、最初の『キングダム ハーツ』が受け入れられた後、
長い間展開していくには、また違う壁がありますよね。
あれだけ壮大でいろんなところに伏線がある話ですけど、
野村さんはどこまで最初に考えているんですか?
野村
はじめからぼんやりとした大枠はありました。
最初、『II』(※15)ぐらいまで、
なんとなく考えていました。
『I』を発表したときは『II』ぐらいまで、
その後3作同時発表(※16)したときは、
全部構想はあったという感じです。
今作の『キングダム ハーツ 3D』(※17)の発表でも
段階にわかれて先を考えている感じです。
岩田
だんだんと、いままでの流れや縛りができていきますけど、
それはしんどくなりませんか?
野村
そうですね。でも・・・。
岩田
じつは野村さん、
ぜんぜんしんどそうに見えないんですよ(笑)。
野村
ああ、そうですか(笑)。
なんだろう・・・ものをつくるときには
制限って必ず何かしらありますよね。
何でもやっていいってことは、100%ない。
岩田
はい、制限がないことはあり得ないし、
もしあったとしたら、今度はおわらないですよね。
野村
そうなんです。その制限下で
最大限にどうおもしろくできるかを考えるのも、
またおもしろさのひとつなんですよね。
だんだん制約ができていく中でも、
むしろ楽しんで考えているところはあります。
岩田
ああ、すごくよくわかりました。
制約を楽しんで考えるから、
それが増えていくことに対して、
実際には苦しい面も絶対にあるはずなんですけど、
苦しさが見えないんですね。
そもそも、そんな苦しさは本来、
お客さんは見たくないじゃないですか。
野村
そうですね。
岩田
制約も、ものづくりの過程のひとつで、
絶対受け入れられなきゃいけないものだから、
「それなら楽しんじゃえ」と、
野村さんは思っているわけですね。
野村
はい。だからそれを自分が
うまくかわせたときはすごく楽しいです。
それから、初代の『キングダム ハーツ』の
宣伝プロデューサーをやってくれた野村(匡)さん(※18)。
彼から教わったことも多くて、彼が当時、
「お客さんは苦しいところなんか見たくないんだよ」って、
ずっと言っていたんです。
岩田
まさに、いまの話ですね。
野村
「苦労したことは語るな」とずっと言われてきたので、
その影響はあるかもしれないです。
岩田
「そのとおりだな」と、野村さんも思ったんですね。
野村
そうですね。
どこがおもしろいか聞いたほうが楽しいと思いますし。
そんなふうに、当時のいろんな先輩たちの言ったことが
なんとなく、いまでも残っています。
岩田
それも含めて、スクウェアさんの
ものづくりの文化なんですね。
野村
そうだと思います。
石井(浩一)さん(※19)が最後に去られるとき、
「スクウェアのものづくりを頼むぞ」
と僕に言っていただいたので、
「そういう思いを、なんとか大事にしたい」
とは思っているんですけどね。