岩田
あえて訊きますが、おふたりの言葉で
『鉄拳』とはどういうゲームだと表現しますか?
原田
対戦ゲームと聞くと、
“深い駆け引き”と思うんですけど、
15年くらいつくりつづけて僕がたどりついたのは、
“壮快感”もしくは“快感”という言葉です。
『鉄拳』は、とにかく攻撃するときの壮快感に
すべての比重を置くよう意識しています。
岩田
はい。
原田
やられる側もすごく痛そうだったり、
異常に吹っ飛んだり、踏みつけられたりして、
あえてこっぴどくやられるんですね。
敗者にはかなりのフラストレーションがたまりますが、
だからこそ攻撃に転じたときの壮快感があるんです。
海外では“『鉄拳』はアグレッシブ”という言葉で評価されていますが、
『鉄拳』は、そういう格闘ゲームだととらえています。
池田
僕も同じです。
僕が『鉄拳』にプレイヤーとしてはまった理由は、
モーションのなめらかさと、壮快感と気持ちよさです。
たとえば“崩拳”という技があるんですが、
それをカウンターで1発決めたときの気持ちよさはたまらないんです。
体力ゲージが満タンなら、一気に半分ぐらい減ったりします。
岩田
1発でですか?
池田
はい。モーションもそうですし、
体力の減り方もそうですし、気持ちよさが
前面に出ている格闘ゲームだと思うんです。
打撃の壮快感につきるゲームだと思います。
岩田
でも、打撃の壮快感を追求していくと、
たくさんの矛盾と戦っていくことになりますよね?
原田
はい。やっぱりいちばん矛盾するところはルールです。
勝敗がある以上、ルールは理論的でなければならない。
しかしその一方で、バトルの駆け引きからくる快感は、
アニメーションの表現や時間制限、
ライフバーの減り方そのものとも直結しているんです。
どんなに気持ちいいエフェクトを出しても、
ライフバーが少ししか減らないと、快感にはつながりません。
だから、ライフバーは大きく減ったほうが
気持ちいいんですが、そうすると今度は
駆け引きそのものを否定することになり、
つねにそのバランスと戦わなくちゃいけないんです。
あと、もうひとつ・・・
あ、全部僕が言っちゃって大丈夫ですか?
池田
もちろん(笑)。
原田
もうひとつ、相手を浮かせて連発でたたき込む
“空中コンボ”という技があります。
これはよく映画やアニメ、漫画でも
クライマックスの手法で使われることが多くて、
これほどやっていて楽しい、
見ている人もすごいと思う、
全員が快感を感じる瞬間ってないんですね。
でも自分が気持ちいいということは、
対戦相手にとっては・・・
岩田
大きなフラストレーションになる、
ということですね。
原田
そうです。
同じ金額を払って遊んでいるゲームなのに、
1ラウンド中、ずっとやられっ放しの可能性もあります。
自分に操作権が長時間戻ってこないというのは、
ほかのアクションゲームでは考えられないことなんです。
これは格闘ゲームとして非常に矛盾していて、
お客さんからのフィードバックでも
「空中コンボでずっとやられるから嫌だ!」
という声があるんです。
岩田
対抗策が何ひとつないことへの問題があるわけですね。
原田
はい。でもそれを減らすと、
「『鉄拳』じゃなくなった!」
「あれが面白かったのに!」と指摘されてしまう。
やるほうが気持ちよければ、
やられるほうは不快なので、
勝者と敗者のバランスは取りようがないんですけれど、
ひとつの大きい感情的矛盾として、日夜戦っています。
池田
壮快感を維持したまま、
敗者のフラストレーションをどこまで許容するのか、
そのバランスの取り方にいつも苦労していますね。
岩田
一方、格闘ゲームで遊んでいる人が経験を積んでいくと、
あまり遊んだことのない人との差が開いていきますよね。
対戦格闘ゲームの王道を歩きつづけてきた人たちとして、
間口の問題にはどうやって向き合っていますか?
原田
それはすごく難しい話で、いまだに向き合っています。
たとえば“ハンディキャップ”というオプションをつけていますが、
じつはほとんどの人が使わないんです。
なぜなら“レベル”という考え方をそもそもしなかったり、
「自分は初心者ではない」と思ったりしているからなんですけど、
やっぱり勝てなくて、挫折していくケースが非常に多いんです。
岩田
はい。
原田
あとはオートガードのシステムを入れたり
駆け引きを単純化したりするんですが、
なかなかうまくいきません。
でも、いちばん重要なのは、
「練習したい」と思えるようにすることなんです。
岩田
いつの間にか深みのある場所まで連れていかれて、
面白さがわかれば、もっと深く来てもらえますからね。
原田
はい。初心者でも上級者でも、
駆け引きを組み立てたいという興味は
同じくらいあると思うんです。
そのことでひとつエピソードがあって、
ゲームプレイヤーからうちの社員になった人がいるんです。
彼はプレイヤー時代に自分のサイトで『鉄拳』の対戦理論を書いていて、
すごく理論的で的を射ていて、感心するほどなんです。
なので、いったいどれだけすごいんだろうと思って対戦すると、
もう・・・とてつもなく、弱いんですよ。
一同
(笑)
原田
彼は戦略思考はついてくるけど、
指がついてこないんですね。
たとえるなら、ボクサーの試合を見て、
「こうすればいい」と思っても、
自分自身がボクサーになれない人は当然いるわけです。
岩田
指が器用に動くかは、
上級者と初心者で差はあるけれど、
駆け引きをしたいという動機は変わらないですからね。
原田
そうです。
だからニンテンドー3DSでの今作はそこにこだわっていて、
コマンド入力を下画面にあらかじめ登録できるようにしています。
通常、ピンチのときにジャブを打つくらいなら誰にでもできます。
でも、ひとたびチャンスが巡ってきて
必殺技を出すときに限って大体パニックになるので、
とくに空中コンボのような必殺技まで頭が回らないんですね。
岩田
「チャンスだ!」と思うと、パニックになりますね。
原田
そう、「あわわわわ!」って手がもつれちゃう。
そういう人向けに、下画面のボタンに自分のコンボを登録できます。
岩田
じゃあ、空中コンボを華麗に決められる腕がない人でも、
3DSの下画面に登録したボタンをタッチするだけで
空中コンボの快感を味わえるんですね。
池田
はい。それだけでなく、
下画面に登録したあと、L、Rボタンを押すと、
下画面で登録したボタンが通常ボタンに移行するんです。
たとえば下画面で1のボタンを押すと浮かせ技が出て、
2のボタンを押すと相手を地面にたたきつけるバウンド技が出る、
3のボタンに空中コンボのしめ技が登録されているので、
最初はタッチペンで1、2、3と順番に押せば、
空中コンボが覚えられます。
岩田
なるほど。
池田
操作に慣れたらLを押しながら、
通常ボタンのY、X、Bを押しても、
空中コンボを出すことができます。
岩田
上級者の楽しみを初心者でも体験できたら、
いずれ自分の腕だけでやってみたいという
エネルギーにつながりますからね。
原田
そうです。最終的にフィニッシュ技は
自分で入れられるようになるはずです。
たとえるなら、料理のイメージなんです。
おいしいものを食べたいという気持ちは同じでも、
最初から粉をひける人はいないので、
まず素材を用意します。
あとはとく(溶く)だけとか、タイミングを覚えてもらう・・・、
ということを意識してつくりました。