2. “図鑑サーフィン”
岩田
伊豆野さんが最初に思い描いていたものと、
最終的にできあがったものとでは、
どこが変わりましたか?
伊豆野
最初は「花カメラ」を軸に据えた商品をイメージしていました。
でもなかなかメドが立たなかったので、「花カメラ」を残しつつも、
図鑑としての“物量”と、「いきものリンク」を
メインの軸に展開する方向へ変えていきました。
岩田
最終的に「花カメラ」は企画当初とは位置づけが変わりましたが
図鑑に収められた数ある花のデータの中から
効率的にしぼりこむのに便利な機能になりましたね。
伊豆野
はい、うまいかたちで残せたんじゃないかと思っています。
さらに、図鑑としての物量を示すために
「
ビジュアル目次」という入り口を設けました。
収録された全データを分類別、時期別、色別などに
並び替えて閲覧できるんです。
これに「いきものリンク」が加わることで、
「このソフトはいける!」と確信しました。
岩田
「いきものリンク」は
関連する花や虫などが相関図で表示されますから
一目でつながりがわかりますし、
調べたものをキッカケに好奇心が
どんどん広がっていきますね。
ネットサーフィンという言葉がありますが
まるで“図鑑サーフィン”状態で
気がついたら次々に見てしまいます。
伊豆野
そうなんです。
「いきものリンク」は、平凡社さんが
提案されたものがモトになっているんですが・・・
西田
はい、じつは今日、それを持ってきました。
子どもの夏休みの宿題のようにも見えるのですが・・・。
岩田
おお、自由研究の発表みたいですね。
西田
はい。理想としてこういうものをつくりたい
と提案したもので、これが原型になっています。
岩田
ああ、これは書物の図鑑ではなかなかできなかったことですね。
西田
そうなんです、できなかったことなんです!
大石
中心に花を据えてありまして、
これはパンジー、これはヒシで、あちらはカタクリ。
植物を中心に、まわりの環境といきものが
どうつながっているかを表したんです。
西田
それぞれの矢印に“食べる”とか“保護する”とか
“擬態する”とか、リンクの意味が書いてあります。
いままでの図鑑や百科事典では関連項目へ飛ぶだけで、
なぜ飛んだのかがわからなかったんです。
今回、この関連性がわかるようになったことは、
革命的ともいえるくらい、すばらしいことだと思っています。
伊豆野
僕と吉良さんはこのレクチャーを平凡社さんから
1時間ほど受けて、これが面白かったんです(笑)。
吉良
面白かったですねぇ!
岩田
ただ関係があるということでリンクがあるだけでなくて
“矢印に関係が書いてある”ことがミソですね。
これは総合的な花やいきものの知識がないとできないことです。
その生き字引が、“環境調査”をされていた亀澤さんだったんですね。
亀澤
はい(笑)。
西田
実際、この2人(大石さんと亀澤さん)が編集会議で
しゃべっていることが、横で聞いていてすごく面白かったんです。
それを伊豆野さんと吉良さんにも見てもらいたかったので、
さっきの「夏休みの自由研究」のような模造紙を前に
プレゼンしてもらったんです。
わたしは、これをおもしろく思っていただいたので
企画にGOが出たんだと思っているのですが、
でも本人たちにとっては“あたりまえ”の内容なので
自分たちはぜんぜん、面白いと思っていないんですよ。
大石
まあ、そうですね(笑)。
亀澤
あたりまえの話ですから(笑)。
西田
でも、僕もそうなんですが、花やいきものの
知識に疎い者にとっては、ものすごく面白いんです。
たとえば、お恥ずかしい話ながら、
わたしは、落花生は枝に実るものと思っていましたが、
じつは花が落ちて、地面にもぐって実を結ぶんだそうです。
岩田
だから“落花生”と言うんですよね。
西田
そうなんです。
僕が聞いたとき「へえーっ!」って思ったんですが、
それを言ったら、2人そろって
「どうしてそんなことも知らないの・・・?」
って顔をするんですよ!(笑)
大石・亀澤
(笑)
西田
打ち合わせのときに、この話を披露すると
伊豆野さん、吉良さんのお2人とも
「へえーっ!」って同じように感心してくださって、
「ほらみろ!」と心の中で思いましてねぇ。
一同
(爆笑)
岩田
「これが普通の反応だ!」ということですね。
西田
(力強く)ええ!
大石
「落花生」もそうですが、
名前の由来を知っていると、意外と頭に残るものなので、
できるかぎり入れるようにしました。
西田
名前がわかると、ものが見えてくるという経験はございませんか?
僕も以前は、たんなる“草”や“木”が生えているという認識だったのが、
最近は「うちの近くにランタナが咲いてるんだなぁ」
とわかるようになりました。
いままで、見えていなかったものが見えてくると、
自分のまわりや世界の見え方が変わってきますよ。
伊豆野
というわけで、容量がある限り、
ネタを全部入れることにしました。
岩田
この関係性が見えるようにつくったことが
『花といきもの立体図鑑』を大きく変えたんですね。
普通、図鑑は目的のものを調べたらそこで目的は完結するんですが、
これは見はじめるとつい先々を見てしまうものになった、
という点で、すごく面白いですね。
伊豆野
はい。全部がつながった感じがしました。
西田
(大石さんに)名前同士でもつながりのあるものがあるよね。
大石
そうですね。たとえば“ヒシ”の由来は
葉や実の形が“ひしがた”からきているとか、
ひしの実のトゲトゲは、むかし忍者が
“まきびし”として使っていたという説があるとか。
岩田
まきびしって、その“ひし”の意味なんですか。
大石
そうなんです。
ほかにも、節句の“ひしもち”の由来は
むかし、ヒシの実の粉を入れていたためとか。
あと、パンジーは花が首をたれて
ものを考えているみたいだから
フランス語で“考える”という意味の
“パンセ”という単語からきているとか。
このように、名前の由来はいろいろあるんですね。
岩田
そういうことが、この図鑑には
山ほど載っているということですね(笑)。