4. 「お客さんに選んでもらいたい」
6. メデューサ戦のあと ※ストーリーに関する具体的な情報を含みますのでご注意ください。
岩田
いま、桜井さんは
「ガチで遊んでほしい」とのことでしたけど、
そのために、どんな要素を入れたんですか?
桜井
「悪魔の釜」が、
そのための工夫だと言えると思います。
岩田
「
悪魔の釜」というのは、
1人用で遊ぶときの難易度を
自分好みに調整できるシステムのことですよね。
それって、どういうふうに生まれたんですか?
桜井
これもまた、“リスクとリターン”そのものという・・・。
岩田
ああ、確かに「悪魔の釜」も、
“リスクとリターン”のシステム
そのものと言えますよね。
桜井
まぁ、自分に対する賭け、ですね。
自分の腕前や「神器」の能力と難易度を
てんびんにかけて、
賭けをするような遊びなんです。
岩田
「神器」というのは、
このゲームのなかの武器のことですよね。
桜井
はい。ただ、通常の武器とは違って、
キャラクターそのものなんです。
岩田
「神器」がキャラクターそのもの、なんですか?
桜井
はい。たとえば『スマブラ』で、
マリオやリンクを選ぶのと同じようなものです。
つまり、戦闘スタイルに合わせて、
自分好みの「神器」を選ぶことができて、
しかも個別にスキルによる個性がついています。
岩田
つまり、
どの「神器」を持つかによって、
それがプレイヤーの個性になるということですね。
桜井
そうです。
で、「神器」にはたくさんの種類があるのですが、
より良い「神器」を得ようとすると、
「悪魔の釜」が重要になります。
このゲームでは難易度のことを
「ホンキ度」と呼んでいるのですが、
0.0から9.0まで選べるようになっています。
岩田
難易度を複数の段階から選べるゲームはよくありますけど、
このゲームは、その設定段階がちょっとアナログっぽいですね。
桜井
基本は2.0なんですけど、
そこからホンキ度を上げたり、
下げたりしようとすると、
お金がかかってしまうんです。
岩田
え? お金がかかるんですか?(笑)
桜井
いや、現実のお金ではなくって、
この世界では「ハート」と呼んでいまして、
敵をやっつけたりすると
もらえるようになっています。
岩田
でも、普通は難易度を上げるのに、
ゲーム内のお金にあたるものを賭けることなんて、
めったにないですよね。
桜井
わざわざハートを賭けるのは、
自らにリスクを課すという遊びですね。
そのかわり、ホンキ度を上げれば
賭けたぶん以上にもうかります。
より強い「神器」が手に入るので、
さらに高いホンキ度をクリアしやすくなっていきます。
岩田
つまりハートをたくさん賭けると、
そのぶんリターンも大きくなるというわけですね。
でも、チャレンジに失敗するとどうなるんですか?
桜井
ミスをするたびに、
賭けたハートが「悪魔の釜」からこぼれてしまい、
ホンキ度が少し下がってしまいます。
岩田
すると、リターンも小さくなるわけですね。
桜井
はい。ただし、少しずつカンタンにもなるので
難しすぎて何度コンティニューしてもクリアできない、
という状況に陥りにくいです。
一方で、そういうリスクを冒したくないとか、
腕に自信のない人は
ホンキ度を2.0以下にすることで、
敵の攻撃がゆるくなるので、
どんどん先に進めます。
ホンキ度を0.0に下げればほぼ無敵。
たぶんどんな人でも操作さえできれば
最後までクリアできるようになると思います。
岩田
つまり、ホンキ度を調整することで、
出てくる敵とか、
攻撃の強さが変化するんですね。
桜井
そうです。
もちろん、ホンキ度を下げると、
手に入る「神器」の強さやハートは少なくなってしまいます。
岩田
自分の腕前と「神器」の能力をてんびんにかける
というのはそういうことなんですね。
でも、どうして「悪魔の釜」のシステムを
採用したんですか?
桜井
本質は上級者だけに喜んでもらうためのものではなくて、
うまい人でも、そうでない人でも、
誰でも遊べるようにしたかったからです。
人による腕の差はかなり広がっていますので。
やっぱりゲームって、チャレンジすることが
とても楽しいですよね。
なので、“リスクとリターン”というのは、
けっきょくのところ、
“チャレンジ”につながると思うんです。
お客さんに「どこに賭ける?」と問うことで、
自らに対するチャレンジを生んでいます。
岩田
大きなリスクにチャレンジすることで、
うまくいったときの喜びも
大きくなるということですね。
桜井
はい。それが今作のいちばんのテーマで、
1人用でも、対戦でも、
チャレンジできる場をしっかり用意しようと。
ですからホンキ度を高められるようにしたのは、
初代の『パルテナ』が難しかったからではなく・・・。
岩田
そうでした。
初代の『パルテナ』は、
難しさが半端ないゲームと言われていますよね。
桜井
はい。
岩田
一般的にゲームというのは、
後半から難しくなっていくものなんですけど、
初代『パルテナ』は序盤からとんでもない難易度で、
ミスしたときに表示される
「ヤラレチャッタ」という文字を
序盤のステージから何度も何度も、
いっぱい見てる人がいるわけなんですよね(笑)。
桜井
はい(笑)。
岩田
でも、桜井さんのゲームづくりは
いつもそうなんですけど、
自分はゲームはやたらうまいのに、
初心者の人が最後まで行けるようにするためにはどうするか、
ということをすごく考えていますよね。
しかも、同時に上級者を満足させたいという気持ちも強い。
これ、いい意味で言うんだけど・・・本当に諦めが悪いんですよ。
桜井
あ、そうですか。
岩田
これ、他の人にない個性だと思っているんですよ、あんまり。
桜井さんは、この点については、どう考えているんですか?
桜井
たとえば宮本さんは、わたしと違って
お客さんが難易度を選べるようにすることに対しては、
反対派だったりしますよね。
岩田
それは、「難易度については
ゲームのつくり手がベストを決めるべきもので、
お客さんに選んでもらうものじゃない」、
という意味ですか?
桜井
はい、キーコンフィグレーション(※12)なんかもそうです。
岩田
ああ、「キーコンフィグについては、
多くの人は初期状態で遊ぶはずなので、
ひとつ最も適切と思われる割り当てを作者が決めて、
責任をもってそれを押し出すべき」、
というのは宮本さんの思想としてあるかもしれないです。
桜井
でも、わたしはお客さんが選べる自由度は、
もうちょっと高いほうがいいと思ってるんです。
岩田
それはある種、
ゲームに対するある部分の考え方としては、
宮本さんと違う流派にいるのかもしれないですね。
桜井
ゲームによって多様性があったほうがよいと思うので、
違う流派にいるのはよいことなのでは。
自分は、「なるべく多くの人が、
自分の好きなように遊んでほしい」、
というのが強いんだと思います。
岩田
それは「お客さんに選んでもらいたい」
という気持ちが強いということなんですかね。
桜井
そうです。
なので、今回の『パルテナ』も、
いろんな要素が入っていてかなり骨太に遊べますが、
1章から最後の章までサラッと遊ぶだけで
「ああ、よかった」で終わる人がいてもいいと思うんです。
岩田
ホンキ度を下げて、ということですか?
桜井
はい。敵をばんばん楽に倒しながら、
ピットとパルテナたちの掛け合いや、
いい音楽を聴いたりしながら、
「ああ、楽しいなぁ」という、
そんな楽しみ方もオススメしたいんですね。
でもその一方で、ホンキ度を変えながら、
同じ章を何度も遊んだり、
「神器」を換えたりしながら、
いろいろな攻略を楽しんでいくという、
そんなハードな遊び方をする人がいてもいいと思います。
岩田
「悪魔の釜」は、その意味で
幅広い遊び方ができることを目指して
つくりあげたシステムなんですね。
桜井
でも、「悪魔の釜」というのは、
文字通り“悪魔のようなシステム”だったりもします。
自分で遊んでいても、ホンキ度をどうしても
上げたくなってしまいますから。
岩田
それはリターンが大きいからですね。
桜井
はい。ホンキ度を上げてうまく乗り越えると、
やっぱりうれしいんですよね。
岩田
そこは“リスクとリターン”の関係が、
とてもうまく成立してるからなんでしょうね。
桜井
『モンスターハンター3(トライ)G』(※13)でも、
すごく難易度の高いG級とかに、
みんな果敢にチャレンジしてますよね。
岩田
今回の『パルテナ』でも、腕に自信のある人には、
ぜひ、ホンキ度9.0にチャレンジしてほしい、
ということですか?
桜井
いっしょではないですけど、
「難易度が高い=イヤだ」ということでは
ないということではないでしょうか。
ただしホンキ度9.0は理不尽すぎるような
難易度にまでは高めていません。
「神器」は強くし、「奇跡」のセットや攻略を
よく考える必要はありますが、
ぜひ挑戦してほしいと思っています。