4. 強い相手と対戦を
岩田
最初の『カルチョビット』(※18)は
ゲームボーイアドバンスで出ましたが、
目が離せないサッカー観戦の面白さを
表現しようと思ったんですね。
薗部
そうです。ピッチ全体を
選手がちょこまかとリアルに動いて・・・。
そのリアルというのは
見た目のリアルさではないんですけど、
まるで本物のサッカーの試合のように、
シュートをはずして「ああ、おしい!」と思ったら、
逆に攻められたりとか、そのようなせめぎあいや、
サッカー特有のハラハラ感を
うまく表現できればと思ってつくりました。
岩田
つまり、サッカーの試合で
“本当に起こりそうなことが起こる”わけですね。
薗部
はい。
岩田
それも密度濃く。
薗部
そうです。
サッカーの試合は90分ですけど、
それをそのまま再現しても
ゲームにはなりませんから、
ひと試合、8分くらいにぐっと圧縮して、
密度を上げました。
岩田
実際にできあがった、
最初の『カルチョビット』は、
薗部さんにとって
どのような手ごたえがありましたか?
薗部
最初の『カルチョビット』は、
僕がプログラムを組まずに
初めてできあがったソフトなんですが、
担当してくれたプログラマーが
すごく一生懸命にやってくれて、
試合のシーンに関しても、
かなり満足いくものができたと思っています。
岩田
それは、“試合を見続ける”ということに関して、
サッカーの面白さがうまく表現できた、
という確かな手ごたえがあったんですね。
薗部
そうです。
でも、このソフトの楽しみは
試合を観ることだけではありませんから、
その周辺の部分でどこにゲーム性を求めるか、
というポイントが重要になりました。
岩田
はい。
薗部
たとえば球団経営のソフトにしてしまうと、
お金もうけが目的の経営シミュレーションになって、
サッカーの試合を楽しむという方向とは
直接関係のないゲームになってしまうんです。
岩田
お金をたくさんもうけて、
いい選手を獲得するという方向性は
「なんか違うぞ」ということですか。
薗部
はい。そこで、選手を育てるような
育成ゲームにすることも考えたんですけど、
そういうものはそれまでにもありましたし、
それもちょっと違うのかなと・・・。
そこで最終的に「課題をもらう」
というかたちに落ち着きました。
岩田
「課題をもらう」というのは、
試合をすることで、個々の選手の
強化するべき「課題」が見つかるので、
その部分を
「特訓」で鍛えることですね。
薗部
そうです。すると、
次の試合をまたやりたくなるんです。
岩田
どうしてそのようなシステムを採用したんですか?
薗部
たとえば人と対戦して、
勝てないとやっぱり悔しいじゃないですか。
岩田
確かにそうです(笑)。
薗部
だから、自分よりも弱そうな相手を選んで
対戦したほうが楽しいんでしょうけど、
そうすると対戦する相手が限られてしまうと思うんです。
そこで、あえて強いチームと対戦すると、
課題がいっぱいもらえる、
というシステムを採用しました。
岩田
たとえ勝てなくても、
たくさんのものが得られるようにしたんですね。
薗部
ええ。そうすると、勝っても負けても
人との対戦が楽しくなるんじゃないかと。
しかも、試合で負けても課題をもらえて、
そこを訓練で強化していけば・・・。
岩田
より強いチームにすることができるんですね。
薗部
はい。そのようなシステムをメインにして、
最初の『カルチョビット』をつくりました。
岩田
ちなみに・・・、
今回の『カルチョビット』は、
じつはもともとニンテンドーDSで
開発がスタートしたんですよね。
薗部
はい。僕のゲームづくりは
いつも、そのパターンです(苦笑)。
そもそも前回の『カルチョビット』が出たのも、
ゲームボーイアドバンスが終わりかけの頃で・・・。
岩田
そうでした。
前作が出たのは2006年5月でしたから、
その前々年の年末にはニンテンドーDSが
すでに発売されていたんですよね。
薗部
それで、前作の開発中に、
「DSでつくりなおしたほうがいいんじゃないか?」
という話もあったんですけど、
とにかくアドバンスで出すことを優先しました。
でも、いざ出してみると
「やっぱりDS用につくりなおしたほうがいい」
ということになったんです。
岩田
ところが、そのDSも
いつの間にかプラットホーム末期になり・・・(苦笑)。
薗部
すみません。そのへんは何というか、
そんなはずじゃあなかったんですけど!(笑)
一同
(笑)
薗部
自分のゲームづくりは
とにかく時間がかかってしまうので、
本当に申し訳ないと思っています。
岩田
今回、長い時間をかけながら、
DS、そして3DSでつくっていくときに、
どんなことを新しく加えたり、
何を強化しようと思われましたか?
薗部
新しい要素のひとつはネットワーク関係です。
岩田
ゲームボーイアドバンスのときは
通信ケーブルを使ったネットワークしか
ありませんでしたが、3DSになると、
「すれちがい通信」(※19)や
「いつの間に通信」(※20)で、
ほかの人とやりとりして遊ぶことの幅が
飛躍的に拡がりますからね。
薗部
そうです。なので、
その部分をどう活用し、強化するか、
というところにいちばん時間をかけて考えました。
岩田
3DSでつくりなおすことで、
コンピューターだけでなく、
人の育てたチームとの対戦が増えて、
その試合を観て楽しむ機会が拡がる、
ということですね。
薗部
そうです。
事前にチームのデータを送りあっておけば、
リアルタイムに通信する必要がありませんし。
岩田
相手の都合に合わせることなく、
自分の好きなときに
対戦を楽しむことができますね。
薗部
はい。『ダビスタ』でも
ほかの人が育てた馬とレースをする
ブリーダーズカップというのがあって、
それがものすごく盛り上がったんです。
ですから『カルチョビット』でも
同じようなことをしたいと思いました。
岩田
そういった人との対戦だけでなく、
今回はリーグ戦の仕組みも面白いですよね。
まず最初に、市町村の代表になるために
本拠地をどこにするかを決めるところから
ゲームになっていますし。
薗部
DS版の『ダビスタ』(※21)のときにも
県対抗的な要素を入れたりしていたものですから、
今回もそういう要素が欲しいと思って
全国1720の市町村から
ホームタウンを選べるようにしました。
なので、まったく無名の田舎のチームでも・・・。
岩田
どんどん勝ち上がっていくと、
全国ランキングに挑めるわけですね(笑)。
薗部
そうです。
岩田
もともとサッカーは地域密着型のスポーツですけど、
そういうところも意識されたんですか?
薗部
はい。ネットワークを使えば
いろんなことができますし、
たとえばすれちがい通信で日本列島の北から南まで、
どんどんつながったら面白いなぁ、とか。
岩田
はいはい。
薗部
そこで、壮大なことも考えたんです。
日本列島をひとつのサッカー場にして、
壮大なサッカーができないだろうかと。
たとえば、すれちがい通信を使って、
「ボールはいまどこだ?」「いま岐阜県!」とか、
そんなやりとりをしてみたかったんですけど・・・
ちょっと壮大すぎました(笑)。
岩田
収拾がつかなくなったんですか?(笑)
薗部
そうなんです。
それに、それってもう、
サッカーじゃなくなっていたんです(笑)。
岩田
(笑)