そのファミコンで、
薗部さんが最初につくったのは
『ベストプレープロ野球』^（※11）でした。

はい。最初にＰＣ用ソフトとして
『ベストナインプロ野球』^（※12）を出しまして、
そのあとファミコン用につくりなおしました。

どうして野球ゲームだったんですか？

先ほども言いましたけど、
野球ゲームをつくることが
子どものときからの夢だったんです。
自分でつくって遊んでいましたから。

ある意味、必然だったんですね。

そうですね、はい。

で、最初にＰＣで出た野球ゲーム・・・、
『ベストナインプロ野球』は
どれくらい時間をかけてつくられたんですか？

アスキー^（※13）に入って、
すぐにつくりはじめたんですけど、
形になったのは１年、２年経ってくらい、
だったでしょうか。

全部、ひとりでつくられたんですよね。

そうです。
企画からプログラムを組むのはもちろん、
マニュアルも自分で書いて、
ユーザーサポートも全部ひとりでやっていました。

つくった人がお客さんの質問にも答える、
ということですね（笑）。

はい（笑）。

でも、自分で全部やっていたので、
思いどおりにつくることができたわけですよね？

いや逆に、つくらせてもらえなかったんです。

え？ それはどういうことですか？

アスキーには開発部がなかったんです。

あ、なるほど、出版社だから・・・。

だから“編集者”なんです。
僕が所属していたのは
ゲームソフトを出版する部署で、
バイトの子にプログラムしてもらって、
ゲームソフトをつくる、という仕事でした。
でも「自分でもゲームをつくりたい」と思って、
会社でプログラムを組んでいたら、
上司から怒られたんです。
「遊んでんじゃない！」って。

ゲームで遊んでいるように見えたから（笑）。

はい（笑）。
それで仕方なく家に持ち帰ってつくっていました。
だから一人二役なんです。
会社では編集者で、家に帰ると・・・。

バイトの人ですか（笑）。

そうです、そうです（笑）。

まさに一人二役ですね。
しかも、意思疎通はバッチリですし（笑）。

でも、やっぱり会社では
編集者としての仕事をしていないわけですから、
しょっちゅう怒られていましたね。

で、１、２年かけてつくった野球ゲームは、
社内ではどのように評価されたんですか？

いやぁ・・・あまりよく覚えていないんですけど、
そもそもあの当時は、ソフト評価みたいなことは
ほとんどやっていなかったんです。
デバッグとかもちゃんとしていませんでしたしね。
開発期間とかも決められていたわけではないので、
つくっている自分としても、
終わらせるタイミングがなくて・・・。

自分が発注者でもあるし、
自宅でプログラムも組んでいるわけですから、
いつまでもつくり続けてしまうんですね（笑）。

そうなんです。
でも、適当なところで
終わらせないといけないので、
ここで一応マスターアップ、ということにして、
上司に「できました」って言うと、
「ああ、できたか」と言われて、
すぐに製品化です。

はいはい（笑）。
わたしもそういう、
大らかな時代に生きていましたので
よくわかります。

で、どれくらい売れたのか、
まったく覚えていないんですけど、
そもそもＦＭ-７用に出したものですから・・・。

普及台数に限りがありますからね。

そうなんです。そこで、
「どうしよう」ということになりまして、
「じゃあ、ファミコンでやれ」と。
なかば強制的に言われたわけです。
ところが、開発機材も何も与えられない。

それで「ファミコンで何とかしろ」ですか（笑）。

ええ。パソコンは自分用の
ＦＭ-７しか持っていませんでしたので、
仕方なく社員みんなで共有していた
ＯＡＳＹＳ^（※14）を使いました。
それだと日本語も打てますし。

確かに打てますよね、ワープロですから（笑）。
ＦＭ-７だとカタカナは入力できても、
日本語全般の入力はできませんでしたしね。
それで、ＯＡＳＹＳを使って、
仕様書を書いたんですか？

そうです。ＯＡＳＹＳで
この画面の次はこうなる、みたいな感じで
仕様書をつくっていたら、しばらくして
ようやくＰＣ-９８^（※15）を与えられたんです。

日本語が打てるパソコンが、
やっと薗部さんのところにやってきたんですね（笑）。

はい。でも、ＢＡＳＩＣはわかっていても、
ＰＣ-９８のＯＳであるＤＯＳ^（※16）というものが、
あんまりわからなかったんです。
しかもマニュアルのようなものもありませんでしたので、
口伝えで覚えていくような感じでした。

相談相手はそばにいたんですか？

いました。ひとりだけですけど。
だからその人に聞くしか方法はなかったんです。
そこで、まったく意味はわからないんですけど、
魔法の呪文をとりあえず打ち込んでみたり・・・。

あ、そうなんですよね。
たとえばハードウェアの
初期設定みたいなことをしようとするときは、
意味のわからない文字・・・、
つまり“魔法の呪文”を打ち込まないと
画面が出なかったりしたんですよね。
でも・・・そうやって本当に手探りで、
ファミコンの『ベストプレープロ野球』ができたんですね。

そうです。

ちなみにファミコン版は
どれくらいの時間をかけてつくったんですか？

けっこう時間がかかりました。
でも、どのくらいかかったのか・・・。

１９８３年にファミコンが出てから
発売されるまでに、
けっこう時間が経っていましたよね。

そうですね。
『ベストプレープロ野球』が出たのは１９８８年ですから、
たぶん３年くらいかかったんじゃないでしょうか。

３年ですか・・・。
まあほとんど１人でつくったわけですからね。
でも、薗部さんのイメージのひとつとして、
時間があればあるだけ、製品を磨き続ける人、
という印象があるんですけど。

だって、つくっているときが
いちばん楽しいですから。

もしも締め切りがなかったら、
薗部さんは永遠につくっているんでしょうね（笑）。

そうですね。
自分で少しずつ直していくのが楽しいです。

遊ぶよりも、ですか？

もちろんです（笑）。