社長が訊く
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社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

社長が訊く『ファイアーエムブレム 覚醒』

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目次

1. 新しい『ファイアーエムブレム』を

岩田

今日は『ファイアーエムブレム 覚醒』のお話ということで、
インテリジェントシステムズ(※1)さんと
任天堂のスタッフのみなさんに集まってもらいました。
今日は人数の多さもひとつの売りということで、
よろしくお願いします。

※1
インテリジェントシステムズ=株式会社インテリジェントシステムズ。『ファイアーエムブレム』シリーズや『ペーパーマリオ』シリーズなどの任天堂ソフトや、歴代ハードの開発支援ツールの開発をしている会社。本社は京都。通称イズ。

一同

よろしくお願いします。

岩田

では自己紹介と今作で何を担当されたか、
成広さんからいいですか?

成広

はい。
インテリジェントシステムズの成広通です。
いままでと同じように
『ファイアーエムブレム』シリーズの
開発プロデュースを担当しました。

岩田

今回の立ち位置はいままでとは少し変わりましたか?

成広

そうですね。
いままでとは違う変化を試したくて、
今回は実作業を樋口に譲りました。
最初はソフトに触らせてもらえないくらい(笑)、
引いた立ち位置だったので、とても新鮮でした。

岩田

はい。では、樋口さん。

樋口

またお呼びいただいて、ありがとうございます。
インテリジェントシステムズの樋口雅大です。
前作『新・紋章の謎』(※2)でも同じ立場でしたが、
今作もプロジェクトマネージャーを担当しました。

※2
『新・紋章の謎』=『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』。2010年7月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ13作目。

岩田

同じ立場とは言っても、
今回は成広さんに頼らずに決めることを
求められたんじゃないですか?

樋口

はい。そういう意味では責任が大きかったですし、
今作は長い間、悩みながら企画をつくったので、
いま、ここにいることが感慨深いです。

岩田

では、前田さん。

前田

よろしくお願いします。
インテリジェントシステムズの前田耕平です。
前作同様、本作ではディレクターを担当しました。
今回はリニューアルや続編ではない
「完全新作」ということで、
これまで以上に気合いを入れたつもりです。

岩田

土台があるのと、完全新作をつくるのとでは、
ディレクターとして生みの苦しみが違いませんでしたか?

前田

はい。いろいろと学ぶことが多かったです。

岩田

では、草木原さん。はじめましてですね。

草木原

はじめまして。
今作ではアートディレクターとしてかかわりました、
インテリジェントシステムズの草木原俊行です。
美術全体の方向性の決定を担当しました。
自分自身がかなりの量の実作業も抱えてしまっていたので
最初から最後まで、必死に駆け抜けた感じでした。

岩田

ひたすら、どんどんつくった感じですか?

草木原

そうですね、はい。
樋口をハラハラさせながら(笑)。

岩田

樋口さんをハラハラさせながら、
というのは、どういう意味ですか?

草木原

全体的に突拍子も無い提案が多かったところでしょうか。
樋口は『聖戦の系譜』(※3)以降、
『エムブレム』にかかわっているんですけど、
そんな樋口を“絶句”させた回数は、
今作がいちばん多いはずです(笑)。

※3
『聖戦の系譜』=『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』。1996年5月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ4作目。

樋口

やっぱり長年やってきたスタッフには、
“『エムブレム』らしさ”といえば、
曖昧ながらもある程度の方向性があるんです。
それに対して「今回はいままでと違う『エムブレム』を、
とくにビジュアル面を新しくしよう!」
っていう気持ちがあったので、
いままで『エムブレム』にかかわったことのない、
草木原をあえて入れました。

岩田

じゃあ、草木原さんは『エムブレム』に入ってきた
新しい血の役割なんですね。

樋口

そうです。
でも、いままでにない変化でしたから、
「こういうものまで入れていいの!?」って、
実際に頭を抱えて、うずくまったこともあります。

岩田

なんだか・・・絵にかいたような絶句ですね(笑)。

草木原

週に3回くらいは
絶句させていたかもしれないです(笑)。

岩田

でも実績があって、
ファンも大勢いらっしゃるものに対して
新しい提案をするのは、
プレッシャーを感じませんでしたか?

草木原

かなりのプレッシャーでしたけど、
一度方針を決めてバットを振りはじめちゃった以上、
途中で方向転換すると勢いを失ってしまうと思い、
とにかくまっすぐ振り抜く方針でここまでやってきました。

岩田

はい。ではコザキさん、はじめまして。
今回はキャラクターデザインの件で
いろいろお世話になったとうかがっています。

コザキ

キャラクターデザインやイラストレーションを
担当しましたコザキユースケです。
今回は・・・とにかく大変でした(笑)。

一同

(笑)

コザキ

こんなにキャラ数の多いソフトを
デザインするのははじめてだったので、
今回は自分自身に対する挑戦でもあったんです。

岩田

どういう経緯でご縁ができたんですか?

コザキ

うちのホームページ経由でメールをいただきました。
「60人ぐらいのキャラクターでお願いできませんか?」
という連絡があったので、
「それって『ファイアーエムブレム』ですか?」と返信したら
「ちょっとタイトルは言えないんですけど・・・」
みたいなやりとりをしました(笑)。

岩田

ああ、そうやってはじまるんですね。
どういう経緯で、コザキさんにお願いすることになったんですか?

草木原

今作はとにかく勢いのある新しいものにしたかったんです。
それでビジュアル面の条件を考えていったとき、
キャラクターを大量に、
それこそ美少女から筋骨隆々のおじさんから
化け物まで描きわける画力があって、
かつスピードもありそうな人を探していたら・・・。

岩田

それはかなり条件を選ぶわけですね。

草木原

はい、そこでたどり着いたのがコザキさんです。
じつはシリーズとの接点は今回がはじめてではなくて、
過去に『ファイアーエムブレムTCG』(※4)
イラストも担当されていたんですよね。
そんな不思議なご縁でした。

※4
ファイアーエムブレムTCG=『ファイアーエムブレム』シリーズを題材にしたトレーディングカードゲーム。第6弾まで発売された。

岩田

実際に、人数の多さやバリエーションだけじゃない
大変さがありましたよね?

コザキ

ありました、それがいちばん大きかったです。
ファンの方たちが育て上げてきたシリーズでしたので、
そのままデザインにおこすだけでは、
新規の方にアピールするのは難しいと思って、
新しい方が入りやすいデザインを目指しました。
じつは僕自身、『エムブレム』は
過去に何度か挑戦するも、
途中でやめてしまった人間なんです。
というのも、つまらないとかではなくて、
シリーズの途中から入りづらかったんですね。
僕がそちら側の人間だったので、
逆にこの仕事を受けようと思ったんです。

岩田

「広げたい」というミッションに対して、
自分は応えなきゃいけない動機がわかる、
ということですか?

コザキ

はい、そこが合致したところでした。

岩田

はい。では、横田さん。

横田

はい、企画開発部の横田弦紀です。
任天堂側でディレクターを担当しました。
『ファイアーエムブレム』はずっとファンだったので・・・って、
前回の『ゼノブレイド』のときと
同じようなことを言っているような気がしますが(笑)。
全体のイメージを変えたい点でイズさんと意気投合して、
スムーズに進めることができました。
でも新しいばかりではなく、プレイしたら
「ああ、『エムブレム』だな」
っていうものになっていると思います。

岩田

はい、では山上さん。

山上

任天堂企画開発部の山上仁志です。
プロデューサーを担当しました。
シリーズを通して同じ役をやっていますが、
成広さん同様、今作はいままでで
いちばん関与が薄かったです。

岩田

横田さんが前面に出ていましたからね。

山上

はい。
最初、この企画は1年ぐらい難航していました。
方針をいまのスタイルに決めるまでは関与していたんですが、
動き出してからは横田に任せていました。
経験上、はじめに苦しんだものほど、
つくりはじめてからは順調なものなので。

岩田

最初に苦しむことは大事ですからね。
ではまず、その生みの苦しみの話からですが、
最初、山上さんは誰と向き合っていましたか?

山上

おもに樋口さんです。
じつは『新・紋章の謎』をつくっているときから、
「新作をつくりませんか」と、提案をしていました。
「ゲームは『エムブレム』だけど、違う世界で楽しめるものを、
 極端なことを言えば、現代でも構いません」と。

岩田

え、現代ですか?
またおそろしいことを・・・(笑)。

山上

あらゆるアイデアが出たんですけど、
どれもちょっと無理があって苦しみましたよね。

樋口

そうですね・・・。
いままでの『エムブレム』をプレイされた方にも
安心して手にとってもらいつつ、新しいお客さんにも
少しでも興味を持ってもらえるような形にできないかと
常々模索をしていました。そのひとつとして、
見た目の変化を積極的に考えていたのですが・・・。

岩田

どんな提案をしていました?

山上

ふふふ・・・『ファイアーエムブレム2011』とか。

岩田

2011?

樋口

はい(笑)。
完全な現代劇の『エムブレム』とか、
おとぎ話的なものとか、いままでの中世的な世界観から
完全脱却した形を提案しました。
でも突拍子がなさすぎて、取っ掛かりができないんです(笑)。

岩田

前田さんはほかにどんな提案があったか、
覚えていますか?

前田

チーム内で出た案のひとつとして、
まあ・・・火星・・・案というのもありました。

岩田

火星!?

前田

はい、火星で戦う・・・。

岩田

火星で戦うんですか!?

草木原

さすがに、山上さんに
「これ、やりすぎですよ!」って言われました。

一同

(爆笑)

山上

「それは『エムブレム』なのか!?」ってね(笑)。
けっきょく、思い切って変える方向は
なかなかうまくいきませんでした。