アナザーストーリー

「紫の日記」にまつわるもう一つのストーリー

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  • プロローグ 放課後・旧会議室
  • 第一話 陰気な男
  • 第二話 顔の無い少年
  • 第三話 人形になった女
  • 第四話 呪文
  • 第五話 図書館の闇
  • エピローグ

WEBサイト限定 アナザーストーリーとは? 開発スタッフが書き下ろした、「紫の日記」に関わった人々の物語です。

人形になった女

旧校舎の旧会議室は、いつもより薄暗く、がらんとしたその室内に雨の音が響いている。6限目の体育で疲れきっていた私は、置き傘を取りに来てそのまま居ついてしまった。数人残っていた部員も帰宅してしまい、今は一人ぼんやりと雨に濡れた中庭を見下ろしている。こんな雨の日に、こんな場所に座っている私を窓の外から見れば、それこそ「幽霊部員」に見えることだろう。中庭から旧校舎全体に、絡みつくように群生している紫色の花が雨に濡れている。この花は、旧校舎が建てられる前から、この場所に生えていたと言われている。クレマチス。花言葉は「高潔」「美しい心」。私たちとは程遠い。

紫の花…。そういえば、あの日記の色と同じだ。ぼんやり考えながら視線を窓ガラスの水滴に移そうとした時、中庭の花の間に人影があることに気付いた。遠くてはっきりは見えないが、雨の中傘も差さずに、物好きもいたものだ。失恋かな。人影をよく見てみようと窓ガラスに顔を近づけた時、ふっと暗い影が落ちた。

『なんだ、まだ帰ってなかったの?』依子がいつの間にか後ろに立っていた。彼女も置き傘を取りに来たのだろう。外は雨がまだ降り続いているし、まだ疲れも取れてない。私は演技っぽく伸びをした。『まあねー。わざわざ急いで帰る用事があるわけでもなし。…依子は?』依子は担任に進路相談で捕まっていたと答えた。明日はわが身か…とそのまま机に突っ伏した私に、依子がいつもの小声で喋りかけた。

『そういえば、先輩の噂話の続き、聞いた?』まるで、依子以外にもそんな噂話をする人がいるような言い草だ。『先輩、少し前から様子がおかしくて…なんだか寝不足だったみたい。金縛りが続いてる、って保健の先生に言ってたんだって。人形にでもなったみたいだ、って。』「先輩」…長谷部先生の噂話と、都市伝説の事実関係はよくわからないけど、あの「陰気男」も、その話を気にしていたことは事実だ。「紫の日記」には、確かに、「人形」や「金縛り」に関わるエピソードもある。

紫の日記に挟まれた、古い人形の写真。 その俯いた顔を覗いてはいけない。覗き返してくるから。  人形は、代わりになる人を待っている。 覗き返すその顔は、かつて囚われた者の、削がれた顔。  人形の顔と目を合わせた者は、その日から、毎夜金縛りに襲われる。  その金縛りが手足から徐々に広がり、見開いた目が動かせなくなった時。 ある気配が近づいてくる。

気配は動かなくなった身体に触れ、その身体を人形のように操り始める。  操られ、意志に関係なく動く身体。 閉じることも赦されないその目に見えるもの。  闇夜に灯った古いランプ。不思議な曲を奏でるピアノ。 人形となった自分の身体、そして、顔を覗き込む… …黒い服の女。  次の「代わりの人形」を見つけるまで、彼女がその人形を離すことはない。

黒い服の女。紫の日記の色々なエピソードに、共通して現れる人物。でも、その「黒い服の女」についての物語は一切語られない。私や依子が知る限りは。『裕子、帰るよー。疲れてるなら、何か甘いモノ食べてこ。』依子の声に、うめき声と重い腰を上げながら、私は何となく窓の外に視線を移した。中庭の紫の花の間には、もうあの黒い人影はなかった。 第四話へ続く

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