岩田
“警戒”から“信頼”へ切り替わったのだとしても、
やはりモノリスソフトさんと任天堂は
ものづくりのカルチャーが異なるはずですから、
その違いに戸惑うことも少なくなかったんじゃないですか?
山上
はい。実はそうなんです。
任天堂が試作するときに
とても大事にしているのは基本システムなんですね。
高橋さんは今回、世界観の構築から入られましたが、
任天堂としては、まずゲームシステムが動くことを確認し、
なおかつ、構想している世界観が
Wiiで実現できるかどうかをしっかり確認してから、
本制作に入るようにしたかったんです。
任天堂では、こういうつくり方が普通ですから。
ところが、モノリスソフトさんの場合は
広く薄くはじまって、時間をかけながら積み上げていくという
ものづくりをされてきたんです。
岩田
ものづくりの基本のアプローチに違いがあったんですね。
山上
そうなんです。
とくに今回のソフトはスケールが大きいので、
最初から最後までを広く積み上げてつくっていくと
どれくらいの時間がかかるかわかりませんし、
何より、『ゼノブレイド』がどこを目指そうとしているのか、
自分としても判断できないところがあったんです。
そこで、1章だけでいいので、
製品に近いクオリティのものをつくってほしいとお願いしたんですが、
そのことで小島さんを困らせてしまったんです。
岩田
任天堂がいつもと違うアプローチでのものづくりを求めたので
小島さんを困らせてしまったんですか?
小島
いや、困ったというわけではないのですが、
もともとモノリスソフトの多くのデザイナーは、
つくり込み続けたいタイプのスタッフが多いんです。
ですから、頭のなかには、最終型が見えてはいるんですけど、
アウトプットは徐々にやることが多いんですね。
岩田
絵を描く人というのは、
手を入れれば入れるほど、ものがよくなっていきますので、
ずっと描き続けたいと思う人が多いですよね。
小島
そうなんです。
ですから、山上さんから「1章だけつくってほしい」
という話をいただいたとき、僕としてはこれまで通り
少しずつよくしていく方法で今作をつくりたいと思ったんです。
スタッフにいつもと違うやり方を強要したくなかったんです。
なので、最初は「1章だけつくるのは辛いです」とお答えしたら、
山上さんは「そこをなんとか!」と強くおっしゃるので、
仕方なく試しにつくってみることにしたんです。
岩田
試しにつくってみて、どうだったんですか?
小島
それが、悔しい話なんですけど、
・・・確かに楽になりました。
岩田
(笑)
小島
1マップだけつくり込んだんですけど、
トライしてよかったと思いました。
実際につくってみると、スタッフたちにとっても
「これくらいの着地点を目指せるんだ」ということが、
すごく具体的に目に見えるようになったんです。
岩田
着地点が可視化されるというのは、
すごく意味があるんですよね。
とくに今回のような大規模プロジェクトにとっては。
小島
そうですね。
それに、これくらいの時間をかければ、
これくらいのものが1個できるんだというのがわかって、
すごくよかったです。
ほんとに悔しかったですけど(笑)。
山上
僕も、小島さんの協力で1章つくっていただいて、
それを見て「このレベルよりも上のものができるんだ」と、
完成したときのものをイメージすることができましたし、
何より、任天堂とモノリスソフトさんが
そのイメージを共有できたことは、
とても意義があったと思います。
岩田
さて、次は服部さんから話を訊こうと思います。
服部
はい。
岩田
そもそも山上さんから
シナリオを客観的に見てほしいと言われて、どう思いましたか?
服部
最初はどうしようかと思いました。
高橋さんには昔からのファンの方がたくさんいらっしゃいますし、
横田さんからも「高橋さんはすごい人なんですよ」
と聞かされていましたから。
岩田
RPGの大ファンでもある横田さんから
高橋さんがいかにすごい人かということを聞かされ、
山上さんからは「渡り合いなさい」と言われたんですもんね。
服部
そうなんです(笑)。
しかも高橋さんは百戦錬磨の方ですので
「わたしに何ができるんだろうか」と思いました。
ところが、いちばん最初にモノリスソフトさんにうかがって、
模型を見せていただきながら『ゼノブレイド』の構想を聞いたとき、
すごくワクワクしてしまったんです。
岩田
服部さんもワクワクしたんですね。
服部
はい(笑)。
“巨神”の足下から上にどんどん登っていって、
しかも見える場所にはどこにでも行けると。
そのような、冒険心がくすぐられる構想をお聞きして、
とてもワクワクしましたので、
そこでまず、高橋さんたちにいろいろ質問して、
実現されようとしている世界観を
わたし自身がしっかり共有することからはじめました。
岩田
服部さんは、高橋さんの生み出す世界のことを
よくご存じないような人の視点も含めて
シナリオを客観的に見て、発言するのが役割でしたけど、
高橋さんに、まとはずれのことを言ったりしませんでしたか?
高橋
いえいえ、そんなことはなかったです。
実際、ありがたかったんです。
というのも、どうしてもシナリオを書いていると、
同じ趣味の方向に深く入っていって、
こちらではすごく盛り上がっているのに
服部さんから「言いたいことがよくわかりません」と
指摘されることが多かったんです。
たとえば、エンディングもそうで、
最初はわりと説明っぽい感じのものを考えていたんです。
ところがその部分に関しても、
「説明されてもよくわからないです」
と言われてしまったり・・・。
僕もそこを指摘されて、「ああ、それはそうだ」と。
僕らにとっては当然のことであっても
前提知識をお持ちでない方が触ったらわかりにくいですし、
そういったわからないものを提示しても意味がないんですよね。
岩田
ええ、下手をするとお客さんが置いてけぼりになりますからね。
高橋
あと、服部さんから指摘されたことで鮮明に覚えているのが、
主人公のシュルクに幼なじみのフィオルンという女の子がいて、
彼女が寝込んでいるときに、手を触れるシーンがあるんです。
服部
あ、あの話ですね(笑)。
高橋
最初は、シュルクが彼女のほっぺたに手を触れて、
自分の気持ちを伝えるシーンだったんです。
ところが「寝ている間にいきなりほっぺを触られるのは、
女性としては少し気持ち悪いです」と
服部さんから指摘されたんです。
服部
そもそもふたりは恋人同士ではないんです。
なので、自分がもし寝ているときに
つきあっていない人から、急に頬を触られたら、
やっぱりちょっとビックリするだろうと思ったんです。
シュルクとフィオルンの恋愛にウブなイメージも損なわれてしまいますし、
そもそも「シュルクって、そんなに積極的なキャラだったかな?」と(笑)。
高橋
「確かにそうかもなあ」と思って、
最終的には手を握るように直しました。
そういうのがいろいろあったので、面白かったです。
山上
そんな感じで、シナリオに関しては
高橋さんが考えている世界をどうすれば
よりお客さんに伝わりやすくなるかということを意識して、
客観的に意見をお伝えするようにしていました。
岩田
それはまさに“作家と編集者”の関係ですね。
山上
まさにそう思います。
高橋
やっぱり自分たちだけでつくっていると、
どうしても自分たちの趣味や嗜好する部分が出てしまうんです。
心情だったり、構成だったり、いろんな局面で、
偏った部分を任天堂さんから指摘してもらえたのは
本当にありがたかったですね。
岩田
作家さんは、先鋭的なものを創造する役目で、
編集者さんはそこから一歩引いて、
「これは伝わるけど、これは伝わらないんじゃないですか?」
「それを伝えたいのなら、こっちのほうがよくないですか?」
と言って、その指摘でいい方向に向かうのが
うまくいっているときの作家さんと編集者さんの関係だと思うんです。
その意味で、今回はいい関係になれたということなんですね。
高橋
はい。おかげさまで、RPGファンの人だけでなく、
より多くの人にも楽しんでいただけるソフトになったと思います。