岩田
「別の業種の考え方も取り入れられるメリット」というのは、
具体的にはどんなことだったんですか?
高橋
たとえば、アニメの場合は1話22分だとして、
脚本の分量は、文字にしてだいたい15,000字程度になります。
ですから、竹田さんがそれと同じくらいのシナリオを書いてくると
「これで22分相当の映像になるのだな」と、
全体の構成やスケジュールがとても読みやすくなったんです。
岩田
なるほど。
高橋
で、先ほど竹田さんがアニメの脚本を書くときに、
CMの前や翌週の次の話へ続くところで盛り上げる
という話をしてましたけど、
実際に原稿を読むと
「山場は4枚目のここね」というのがわかるんです。
たとえば、実際のゲームのカットシーンを取捨選択する際に、
原稿の3枚目と4枚目は、約5分相当の尺を使って徐々に盛り上げてあるから、
ここの5分は、コストを割いたカットシーンに割り当てるのが良さそうだね、
といったように、原稿そのものをガイドラインにすることができて、
すごく助かりました。
岩田
つまり、原稿を見ただけで、
それを実際にゲームにしたときの展開を
具体的にイメージすることができたということですね。
高橋
そうなんです。
それに、竹田さんはアニメの世界の方なので、
セリフまわりの表現がいちばんワクワクしました。
たとえば、あるシーンがあって
「ここではこうしゃべらせたい」と
自分で思っているようなことがありますよね。
岩田
高橋さんのなかに
大まかなセリフのイメージがあって、
そのシーンと結びついているんですね。
高橋
はい。ところが竹田さんは、自分が考えていたものよりも
遙かにいいセリフや情景を返してきてくれるんです。
「ああ、そういう展開があったのか、負けた」みたいな(笑)。
それで「よし、次は負けないぞ」と、そんなことの繰り返しでした。
岩田
それがまさにキャッチボールなんですね。
自分が考えていたイメージ以上の球を投げ返してくれたとき、
球を受けた手はちょっと痛いですけど(笑)、やっぱりうれしいですし、
だからこそ自分もいい球を投げ返そうとするんですよね。
でも、そのやり方がうまくいったのはどうしてなんでしょう。
というのは、お互いに力があっても、
必ずいい関係になるとは限りませんよね。
そこは、お2人の間に相性の良さがあったのか、
あるいは「こういうものはいいよね」という価値観で
共通する部分があったりしたんでしょうか。
高橋
わりと好きなジャンルが似てるんです。
たとえば小説であったりとか、映画であったりとか。
竹田
そうですね。似てますね。
僕と高橋さんとは、受け手としての価値観はすごく似てると思うんです。
岩田
つまり、小説を読んだり、映画を観たりして、
「ここがいいよね」という、受け手としての感性は共通しているんですね。
竹田
はい。ところが、送り手としての方向はずいぶん違うんです。
高橋
それは確かに違いますね。
岩田
ああ、なるほど。
つまりインプットしたものに対しての
「いい、悪い」の評価はすごく似ているけれど、
アウトプットするものの方向性や中身がまったく異なるんですね。
竹田
そうなんです。
ですから、僕が書いたシナリオを、高橋さんから直していただいて、
それを見るたびに、「ああ、こういうやり方があったんだ」と
僕自身もすごく新鮮だったんです。
ですから、生み出すものがぜんぜん違うタイプの方と
今回こうやって仕事ができたのは幸運だったと思いますね。
高橋
そんなふうにして、僕らの間でやれるだけのことをやって、
その時点で仕上がったシナリオを
任天堂さんに確認してもらうようにしていました。
ところが、それで返ってきたものを見ると、
思わぬところを指摘されたりして
思わず「わあ!」っと(笑)。
岩田
あははは(笑)。
任天堂は思わぬところから、まったく別の球を投げてきたんですね。
高橋
そうなんです。
任天堂さんから指摘されたことも、とても多かったんです。
岩田
任天堂からの指摘は、高橋さんの立場からすると、
異文化が入ってきたような感じもあったんじゃないかと
わたしは想像するんですけど、
実際、どんなふうに感じられましたか?
高橋
今回の『ゼノブレイド』を制作するにあたって、
シナリオに限らず、音楽も含めてすべてがそうなんですけど、
プラスになるものであれば、とにかく貪欲に
いろんなものをどんどん取りこんでいこう、と
目指すゴールに向けて、そういう覚悟でやっていました。
岩田
バラエティ豊かで、しかも品質の高いものにするために
高橋さんは貪欲に取り組んだということですね。
高橋
そうです。それはシナリオに関しても同じで、
そもそも僕らだけでシナリオをまとめようとすると、
ある方向に対しては強くても、
別の方向に対してはまったくノーガードだったりするんです。
そのノーガードな部分を・・・。
岩田
そこを任天堂からボコッと指摘されたんですね。
高橋
はい(笑)。
わりと趣味とか、見てきたものが同じだったりするので、
僕らの間ではわかりきったことでも
「この表現はわかりにくいです」と指摘されたり、
僕らも「ああ、そういう見方があったよね」と
気づかされるところが少なくありませんでした。
岩田
なんだかそれは“作家と編集者”の関係にも似ていますね。
高橋
確かにそうですね。
ある一定の数のお客さんだけではなく、
多方面のお客さんに楽しんでいただけるようなものをつくるためには、
編集者のような、客観的な視線はすごく大事だと思いました。
その意味でも、任天堂さんからの指摘は
本当にありがたかったです。
岩田
でも一方で、ものづくりって、
究極の極限状態になると、当然シビアなものですから、
意見が常に一致するということはないはずなんですけど、
厳しい意見の相違とかはぜんぜん起きなかったんですか?
高橋
大きな意見の相違はほとんどありませんでした。
というのも、たまった原稿を一度にボーンと出すと、
それには時間経過に応じた、さまざまな思惑が詰まっていることが多く、
「いやそうじゃない」みたいなことが起こりやすいので、
「今回はここまで」みたいなかたちで進めていたんです。
岩田
それはどういうことなんですか?
高橋
週に1度、毎週木曜日にここに集まって、
シナリオ会議を開いていたんです。
岩田
なるほど。短いサイクルで
しかも小分けにしてキャッチボールをするので、
問題があれば、すぐに伝わって、早く埋めることができたんですね。
高橋
はい。ですから、そんなに大きな相違は
僕個人としてはなかったと思いますし、
そもそも、そのシナリオ会議がとても楽しかったんです。
「竹田さんは今週どんな球を投げてくるのかな? 」みたいに。
岩田
しかも毎週1回開かれることが
いいペースメーカーになっていたのかもしれませんね。
でも、竹田さんは大変だったんじゃないですか?
毎週のようにワクワクしている高橋さんに対して
いい球を投げなければならなかったわけですから。
竹田
いえ、自分は毎週1本放送される、
テレビシリーズの仕事がいちばん多いので、そういう意味では・・・。
岩田
ああ、そうでした。
竹田さんにとっては週刊サイクルはお手のものなんですね(笑)。
竹田
そうなんです。なので、
僕がやりやすいテンポを採用していただいたと思いました。
岩田
そのようなキャッチボールは
どのくらいの間、続けていたんですか?
高橋
ゲーム本編の制作と並行して、ほぼ1年間くらい続けていました。
竹田
そうでした。
1年くらいはかなり密に打ち合わせをしまして、
しかも、いろんな人の考えがそのシナリオに反映されましたので、
最後にできあがったシナリオを見ても、
どこまでが自分のアイデアだったのか
もうわからなくなってしまうくらいになりました。
岩田
みんなの意見がだんだん渾然一体になったんですね。
竹田
そうです。
みんなで持ち寄った、いろんなアイデアが組み合わさって、
スケールはすごく大きいんですけど、
とてもバランスのとれたシナリオになったと思います。