岩田
『パンドラの塔』の設定を、まず誰に相談しましたか?
山倉
キャラクター原案をデザインしているイラストのスタッフです。
じつは芳賀がつくっている別の企画のデザインをしていたんですが、
こっそり相談して、「ないしょでやってくれないか・・・」と(笑)。
岩田
あの頃、同時にふたつ企画が動いていたんですよね。
山上
プレゼンも1案ってことでお越しいただいたんですが、
山倉さんが「じつはもう1案あるんです」とボードを出されて、
「テーマは真実の愛なんです」と話をされまして。
岩田
あ、その言葉に、山上さんはピーンときたんですね。
山上
そうです!
その設定をひととおり聞かせていただいて、
「山倉さんが考えたんですか!?」って
思わず聞いてしまったくらいでした。
岩田
そのとき中野さんもいっしょにいたんですか?
中野
いました。山倉さんからご提案いただいたものを見て、
ふたりで「おおーっ」とすごく舞いあがってしまったんです。
山上
でもそのあと、岩田さんにプレゼンしたところ
「で、ゲームはどうなるの?」と聞かれましたね(笑)。
「まだです」と答えたら、
「そういうはじめ方をすると苦労するよ」と言われました。
中野
それ、印象的なので覚えています。
岩田
その言葉の意味を、中野さんは実感しているはずですよね。
中野
はい、そのとおりです(笑)。
世界観の設定はすごくよかったんですが、
はて、これをどうやってつくっていこうか・・・と。
枠組みとしては『ジャンプ』のときと同じだったので、
ふたりでなんとかやっていけるんじゃないか、
というところだけを希望に着手したのを覚えています。
岩田
普通、こういうはじめ方はあまりしないんです。
任天堂の内作チームのつくり方からすると、
ゲームが先で設定があと、というケースがほとんどなんですね。
また、ゲームの軸がクリアじゃない状態ではじめてしまうと、
だいたい迷走するので、本来はやってはいけないことなんですよ。
入江
ああ、そうなんですね。
岩田
ただ、ガンバリオンさんは、『ジャンプ』の開発で、
2回もわれわれの無茶なお願いにきっちり答えていただいたし、
違うことでチャレンジするキッカケをつくりたかったし、
中野さんとガンバリオンさんがうまくいっていたこともあって、
「未知のことにチャレンジしてみよう」と当時考えたんです。
中野
先ほどのお話のとおり、
「肉を与えると姿が戻る」
「時間制限のなかでステージを行き来する」
という設定だけは、当時決まっていたんです。
それだけでなんとかまわるんじゃないかなという考えが、
いまからふり返ると、甘すぎたという反省点があります(笑)。
岩田
だから予定より大幅に時間がかかってしまいましたよね。
そのつぎのステップとして、何がはじまったんですか?
山上
まずは岩田さんからご指摘があったとおり、
ゲーム性をちゃんと確立させることにしたんです。
鎖を使うことは決まっていたので、
アクションの試作をつくりはじめました。
中野
もうひとつ、お題としていただいたのが、
できるだけ多くの人に遊んでもらいたいということがあって
最初はWiiリモコン1本で操作できるアクションとして、
ぐりぐりと動かしはじめました。
岩田
進行はどうだったんでしょうか?
入江
ちょうど芳賀が別のタイトルを担当していたので、
Wiiリモコン1本でのアクション、という
試作品はわたしがつくりました。
そのあと本制作で芳賀にバトンタッチしたんですが、
芳賀も中野さんもアクションが大好きなので、
どんどんアイデアが生まれてくるんです。
それを追求していくと、今度はWiiリモコン1本で
操作するのがむずかしくなってしまったんです。
岩田
Wiiリモコン1本というこだわりが、
逆に足かせになってしまったんですね。
入江
そうです。そこで『マリオギャラクシー』(※12)から
ヒントを得て、ヌンチャクとWiiリモコンのセットで
アクションを構築していくように変更しました。
※12
『マリオギャラクシー』=『スーパーマリオギャラクシー』。2007年11月、Wii用ソフトとして発売された3Dアクションゲーム。
中野
『マリオギャラクシー』は、Wiiリモコンとヌンチャクのスタイルで、
多くのお客さんが楽しむことができましたし、
このスタイルのほうが、このゲームになじんでいたので、
ここでひとつの方向転換がありました。
岩田
ヌンチャクとWiiリモコンでチェーンアクションをつくるとき、
どんなことができると思いましたか?
芳賀
アクションゲームでWiiリモコンを活かすには、
ポインターを使う構造は合うだろうな、と思いました。
そうすればWiiならではの魅力になりますし、
ゲームとしての独立性も出てくるだろうなと。
岩田
チェーンアクションとポインターの相性はよかったですか?
芳賀
そうですね。もっとも、鎖という設定は、
そもそもポインターのことは何も考えなく
生まれたものでしたけど(笑)。
岩田
そういえば、「女の子の肌に鎖はいいコントラストだから」
ということがキッカケでしたね。
最初は、ゲームとしての核が何もなかったと
言ってもいいかもしれませんね。
山倉
そこをどう落とすのかがわたしたちの仕事でした。
岩田
でも、違う角度から考えてみると、
今回の流れは、ゲームとしての核をとくに考えていないところに
たとえば『ワンピース』の設定がやってくるのと同じで、
原作もののゲームをつくるときと構造がそっくりですね。
芳賀
はい。だからとくに抵抗はありませんでした。
実際つくっているときも、
『パンドラの塔』という原作もののゲームを
つくる気持ちになっていましたから。
岩田
ああ、そうやって自分たちの手口を
使えるところに持ち込むんですね。
芳賀
はい。はじめはみんな、初のオリジナル作品なので
ゲームの都合で設定を変えられるということで
「自由度が上がるぞ」とよろこんでいたんですね。
でも僕自身、設定や世界観というものがそもそも苦手なので
そこを変えられるとなると、うまくいかなくて・・・。
開発中、そのせいでブレていくところがあったので、
「原作を活かすゲームづくりを考えましょう」ということにしました。
岩田
多分、つくり手の都合で設定を曲げると軸がブレるんですね。
逆に原作として受け入れれば、そのなかでは筋がとおるから、
変な違和感がない状態になる、ということなんじゃないでしょうか。
芳賀
はい。そう考えはじめたときから、
開発の舵(かじ)をとりやすくなりました。