岩田
今回の『Newマリオ』をお客さんに伝えるとすれば、
宮本さんはどのように説明しますか?
宮本
『マリオ』の遊びの原点を
あまり得意じゃない人から、すごく得意な人まで、
それぞれに楽しめるものになりましたと。
それに尽きると思います。
岩田
サラッと言いましたけど、
それってすごいチャレンジですよね。
宮本
Wii版の『Newマリオ』が
DS版と同様に、発売の1年後にも売れ続けているのが
僕の目標なんです。
やっぱり定番になってほしいですから。
そこにものすごくエネルギーをかけました。
岩田
1年後も長く売れ続けてるモノと、
1年後には売れ続けないモノは何が違うんでしょうか。
宮本
やっぱり、道具のように使い慣れて手放せないもの。
そしていつも人に語れる発見要素があって・・・。
岩田
話題に満ちている。
宮本
ええ。だから、相手が知っているということも大事ですし、
自分が新しいことを見つけるのもそうですし、
しばらく遊んで、どこかにしまっても
友だちが来たら、出して遊びたくなったりするとか。
そもそも「あの感触が忘れられない」とか、
ほかのゲームにはない手ごたえを感じていただくことが
とても大事だと思うんですね。
それは空気というか、“匂い”・・・“匂い”に近いですよね。
岩田
“匂い”・・・?
宮本
たとえば、いい映画って独特の“匂い”がするでしょう。
映画館の臭いじゃなくって(笑)。
映像によって、独特の“匂い”がするものがありますよね。
岩田
それは独特の個性やクセみたいな・・・。
宮本
たくさんの感情をひっぱってくれているモノが、
たぶん“匂い”のようなものを感じると思いますし。
あのような“匂い”を
『マリオ』には『マリオ』らしい“匂い”がするように
つくりたいと思っているんです。
五感のたくさんの部分に
できるだけ触れるものをつくりたいんです。
そうすると、それをたまに出してきたときに
すごくうれしかったりしますし。
でも、さーっとなめたように1回だけ遊んだモノは
いかに興奮度が高くても、あまり残っていないんですね。
岩田
宮本さん、今日は“匂い”という表現を使いましたけど、
一方で“手ごたえ”という表現もよく使いますよね。
宮本
はい。
岩田
ゲームの手ごたえって何で生まれるんでしょう?
『マリオ』らしい手ごたえというのは何でしょう?
宮本
まあ、ゲームによってスティックとか十字ボタンとか使ってても、
十字ボタンのハード性能はいっしょなんですよね。
けど、ゲームによって押したときの感覚は違いますよね。
そこの部分が大事なんでしょうね。
マリオの操作はそれを伝統芸のように
社内で引き継がれているのかと言えばそうでもなくって、
毎回ゲームに合わせてつくり直したりしていますから。
岩田
でも、最後には
宮本さんの感性で決まることなんでしょうか。
宮本
いや、ただ、それもいいかげんなもんなんですよ。
今回、『Newマリオ』をつくっていて、
「『マリオワールド』(※26)はこんなんじゃなかった」と言って
久しぶりに『マリオワールド』をプレイしてみたんです。
そしたら、記憶しているものと、ちょっと違ったりして・・・。
岩田
あははは(笑)。
宮本
「最近のはよくできてるねー」とか言って(笑)。
※26
『マリオワールド』=『スーパーマリオワールド』。スーパーファミコンと同時発売されたアクションゲーム。シリーズ4作目。1990年11月発売。
岩田
きっと、記憶のなかで美化されるんですね(笑)。
“手ごたえ”は、時代とともに
変化していくものでもあるんでしょう。
普遍のものじゃなくって。
宮本
そうですね。それにいまは
ものすごく細かい部分まで見えていますから。
昔は自分の頭のなかでディテールを補完して遊んでいたのが、
いまはディテールまで見えているので・・・。
でも、だからと言って、すべてを
細かくつくったからいいというものでもないんですよね。
大胆に割り切って、記号化したほうが
わかりやすくなるところもありますし、
一方で、細かく表現したほうがうれしいところもあって。
岩田
そのメリハリが大事なんですね。
宮本
音とかもそうで。
サンプリング音ばっかり
使えばいいというわけでもないんですよ。
『ゼルダ』で言うと、岩がこすれる音だけに
サンプリング音が使われていると、
すごくリアルに感じたりするんです。
岩田
宮本さん、すっごく効果音にこだわりますからね。
それはたぶん、手ごたえに通ずるところもあるんですね。
宮本
ええ。すごく気になります。
たとえば今回、プロペラマリオが登場しますけど、
プロペラの音がおかしいと思って
サウンドスタッフに直すように伝えたんですよ。
そしたら、すごく困ってしまったみたいで。
岩田
どう直していいのかわからない。
宮本
それで「カブトムシがブーンと飛ぶような感じに」と。
岩田
カブトムシ(笑)。
宮本
そしたら「具体的でよくわかりました」と(笑)。
それで、つくり直してもらったんですけど
やっぱり僕のイメージとはぜんぜん違っていたんです。
そこで、「やっぱりカブトムシはなしで」と(笑)。
岩田
(笑)
宮本
そのスタッフは
「もうわかんなくなりました」と言うので
「これは何でできているの?」と聞いたんです。
岩田
プロペラの素材は何かと。
宮本
そもそも、
ヘルメットにプロペラがついたスーツなんて、
世の中にはないモノなんですよ。
岩田
(笑)
宮本
「そもそも、この動力はエンジンなの?
それともモーターなの?」と聞いたんですけど・・・。
岩田
そんなこと、設定にないですから
考えていないですよね、きっと(笑)。
宮本
「答えようがない」と言うんです。
それでも「どっちかと言うと、
エンジンなの? モーターなの?
それともバイオなのか?」と。
岩田
しつこく、しつこく聞いて
音のイメージを合わそうとしたんですね。
宮本
それを決めておかないと
ゆっくり回ったときと、速く回ったときの
音の違いがわからないでしょう。
岩田
なるほど。
宮本
そこまで聞くと
動力がけっこう重いこともわかって、
「じゃあ、多少、首を傾けたほうがええんとちゃう?」とか。
岩田
(笑)
宮本
あと、「ヘルメットアタックとかないの?」とか
そこからネタが出てきたりもするんです。
それを自然にまとめながら、
新しいアイデアとくっつけていくというのが・・・
成り行きのクリエイティブなんです(笑)。
岩田
成り行きのクリエイティブ(笑)。
ちなみにプロペラマリオの素材は
結局何でできていることに落ち着いたんですか?
宮本
ふつうのプロペラを手で回したとき、
「ぶるんぶるん」といいますよね。
でも、プロペラマリオのエンジンには
たぶんガソリンが入っていないんです。
だから「ぷるぷるぷる」という音なんです。
岩田
なるほど。
宮本
ちょっとバイオのような、
けっこう手ごたえのあるエンジン・・・。
トルクの重いモーターを手で回す?
まあ、まだ決まってないかな・・・。
岩田
(笑)