岩田
ファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』は、
最初にどんなことを考えてつくりはじめたんですか?
宮本
『マリオブラザーズ』のあと、いろんな会社さんから
ジャンプするゲームがいくつか出てきたんです。
で、僕はジャンプするゲームというのは
自分たちのアイデアだと思っていたんですね。
岩田
『ドンキーコング』でジャンプをし、
『マリオブラザーズ』でもジャンプをしていたから
我こそがジャンプゲームの元祖だと。
宮本
ええ。ジャンプというのはユニークなもので、
特許があるんだ、というくらい。
「これは、他のゲームには負けられへん」と(笑)。
もともと、大きなキャラクターが
青空の背景で跳びはねるような実験をやっていまして。
岩田
当時のビデオゲームというのは
黒い画面で遊ぶことが多かったですよね。
宮本
目が疲れにくいから、それを守りたかったんです。
でも、そろそろ皆が飽きてきて、
変化のある原色の背景で遊ぶのもいいんじゃないかと、
そんな時代になってきていたんですね。
そこで、ファミコンの能力を最大限活かして
大きなキャラクターが陸海空を駆け抜けるというテーマで
『スーパーマリオブラザーズ』をつくることになったんです。
岩田
ゲームの舞台が陸海空、それに地下があって、
そこを大きなキャラクターが駆け抜けるということは
最初から決まっていたんですか?
宮本
大まかには決めていました。
大きなキャラクターが地面を走り回って・・・。
岩田
海中を泳ぐ。
宮本
泳ぐのは『バルーンファイト』(※16)なんです。
ゲームの構造として。
岩田
確かにそうですね。
※16
『バルーンファイト』=1984年にアーケード版が登場し、1985年にはファミコン版が発売されたアクションゲーム。
宮本
任天堂には『バルーンファイト』の実績があるので
あの系統の操作は保証されていると。
空は、孫悟空がきんと雲に乗って飛ぶイメージですね。
岩田
大きなキャラクターというのは?
宮本
まずはじめに、大きなキャラクター、
マリオ2人分のキャラクターを操作したら
どんな手ごたえがあるかという実験をはじめたんですけど、
その手ごたえがとてもよかったので、開発を進めたんです。
でも、途中でマリオが大きくなるほうが
手ごたえが大きいということがわかりましたので
小さいマリオもつくることにしました。
岩田
キノコで大きなスーパーマリオになると。
そもそも、どうしてキノコなんですか?
宮本
キノコは・・・
ワンダーランドと言えばやっぱりキノコでしょう(笑)。
岩田
(笑)
宮本
ずいぶん前に、インタビューを受けたとき
「不思議の国のアリス」のことを話したんです。
そしたら誤解されて伝わって、
「不思議の国のアリスに影響を受けた」
みたいに言われたりもしたことがあるんですけど、
そうじゃないんです。
昔から、魔法の国と言えばやっぱりキノコでしょう。
そこで、スーパーマリオになるために
キノコを使うことに決めました。
岩田
キノコはそこにじっとしてなくて動きますよね。
それはどうしてなんですか?
宮本
そもそもゲームというのは
自分と同じ速度で動くモノが後ろからついてくるのと、
自分よりちょっと遅いモノが後ろからついてくるのと、
自分よりちょっと速いモノが後ろからついてくるのでは
ぜんぜん面白さが違うんですよね。
そういうことをいろいろ繰り返し見てきていましたから、
自分がとても欲しいモノが
ちょっと遅い速度で逃げていくというのは、
絶対に面白いと思ったんです。
岩田
追いかける楽しさが味わえると。
宮本
ええ。ただ、問題がひとつありまして。
最初にクリボーが出てきますけど、
クリボーはキノコみたいな形ですよね。
岩田
よく似ていますね。
宮本
そこで、ブロックを叩いて
そこからクリボーに似たものが出てきたら・・・。
岩田
ふつうは逃げます。
宮本
逃げますよね、ふつう。
だから、すごく困ったんです。
だから僕らとしてはとてもいいものだとわかってほしいので、
キノコのほうから寄って来るようにしようと。
岩田
そうなんですよね。
まず最初にこのゲームを
事前の知識がない状態ではじめると、
最初に出てくるクリボーに当たってミスをしますよね。
宮本
だから、跳んでよけることを
自然に学習するんです。
岩田
そこで跳んでよけようとすると、うまくいかなくて、
たまに踏んじゃうことがある。
すると「踏んだらやっつけられるんだ」
ということが自然にわかると。
宮本
クリボーは踏んじゃえば怖くない。
岩田
ただ、最初のクリボーをよけようとして、
ジャンプをしたら上のブロックに当たってしまう。
すると、キノコがびよよよと出てきて、
ドキッとするんですけど、右のほうに行くので
「あーよかった。怪しいのが出てきたけど大丈夫」だと。
ところが、先にある土管に当たって、
何と戻ってくるんですよね、キノコが(笑)。
宮本
はい(笑)。
岩田
そこでパニックになって、跳んでよけようとしても
上のブロックに当たってしまう。
「もうダメだ。やられた!」と覚悟した瞬間に、
ググググッとマリオがでかくなる・・・。
そのとき何が起こったのかわからないんですけど、
少なくともミスはしていないことはわかる。
宮本
でも、どうして大きくなったんだろうと。
岩田
そこでジャンプをしてみると、
高いところに跳べるし、天井はバンバン壊すし
明らかにパワフルになっているんですよね。
宮本
そのとき初めて、
キノコがいいアイテムだと気づくんです。
岩田
宮本
やっぱりクリボーとは違うモノだと
知ってほしいですから。
岩田
そういう流れが
実は意図的につくられているということを
初めて理解したとき、
わたしはすごくビックリしたんです。
これまで、そのことを知らなかった人に
『スーパーマリオブラザーズ』のはじまりが
こういう意図でできている、という話をすると、
感心しない人はほぼいないんです。
宮本
そうですか・・・。
岩田
わたしが考えたわけじゃないのに
いろんな人に自慢しまくっています(笑)。
宮本
(笑)。
でも、企画書に書いていたわけじゃないんです。
つくりながら考えるんです。
けど、幸いそういう状況になって・・・。
岩田
最初から何もかもが見えてつくるんじゃなくて、
つくりながら少しずつ、こうしたほうがいいんじゃないか、
ああしたほうがいいんじゃないかと・・・。
宮本
自分があるときは観客になったり、
あるときは遊び手の立場で考えて
試行錯誤を繰り返しながらつくるようにしています。