岩田
お2人は長年ゲームづくりに関わってきて、
お客さんの心はどうしたら動くと考えて
ゲームをつくってこられましたか?
坂本さんはどういうふうに考えていますか?
坂本
GDC(※25)の講演でお話したことなんですけど、
お客さんの心を動かすときに必要な要素というのは、
まずムードづくり、そして伏線がきっちりひかれていて、
タイミングとか“間”があったり、
あとは・・・何でしたっけ・・・。
岩田
“コントラスト”ですよね。
坂本
はい、そうでした(笑)。
そういった手法を、流れのなかでうまくコントロールできれば
人は驚いてくれたり、怖がってくれたり、笑ってくれたり、
グッと目頭が熱くなったりするものだと思っています。
※25
GDC= Game Developers Conferenceの略称。毎年アメリカで開催されている、世界最大のゲーム開発者向けのカンファレンス。坂本のGDCでの講演内容は、第6章で紹介しています。
岩田
坂本さんは、目頭が熱くなることも、
クスッと笑ってもらうことも、ビックリしてもらうことも、
すべて同じ領域にあるものと考えていて、
それを楽しみながら、ものづくりをしているんですよね。
坂本
はい。要は感動があったり、笑いがあったり、恐怖があったり、
怒りがあったり、結局はそれは何らかの刺激があって、
人はそれに反応して心が動かされるという意味では、
構造というか、ロジックみたいなものはみんな同じで、
何かの前振りがあって、ベストなタイミングで物事が起きると、
やっぱりそれが最大限に増幅されるというのは
面白いものでも怖いものでも、実は似ているんです。
岩田
だから、坂本さんの幅広いクリエィティブは、
根本のところではまったく同じだということを
GDCで話してきたんですよね。
坂本
そうなんです。
あとは、要素的にはGDCのときに言わなかったんですけど、
“言葉の響き”というものもすごく大事にしたいと思っています。
坂口
はいはい。
坂本
僕はもともと言葉にはすごくこだわるほうなんで、
今回の『Other M』でも、セリフは全部自分で担当しました。
それくらい、“言葉の響き”は大事にしたいと。
岩田
商品名の響きなんかでも、坂本さんは、
いったん自分で「こうだ!」と思ったら、すごく主張が強いんです。
ところが、理屈ではその説明はしないんですよね。
坂口
響きだから語るのは難しいんですよね。理屈じゃないですから。
坂本
タイミングをちょっと間違っただけでも、
ぶちこわしになるようなことは必ずあるんです。
ところが、意外とそういったことが、
現場とかでは気づかれなかったりすることがあるんです。
ですから、そういったことを徹底して調整する必要がありますし、
だからこそ、今回の『Other M』では
現場に入り込む必要がありました。
岩田
だから、「今日最後まで残る人は誰ですか?」と
よその会社の人に聞かなきゃいけなくなったんですね(笑)。
坂本
はい(笑)。やっぱり次の日に、
それをかたちにしてくれる人のための作業を夜中にしておかないと、
どうしても開発が効率よく回っていかないんです。
たとえば、ちゃんと“伏線”を張ってるつもりなのに、
それがお客さんに見えてなかったとしたら、
どうしようもないことなんですよね。
せっかく、心が揺さぶられるシーンになるはずなのに
「いまこれが起こるべき雰囲気になってないやん」ということもあるんです。
それは、本当にすごく小さなことなんですけど、
音楽も含めて、そこを徹底的にコントロールしないと、
全体の流れのなかで、人の心を動かす
うねりにはならないと思っているんです。
岩田
小さいことの積み重ねが重要だということですね。
坂口さんは、どんなことを意識されているんですか?
坂口
僕は、GDCの坂本さんの講演の記事を読んだんですけど、
「ああ、確かに“コントラスト”が大事だ」と、ちょっと感動したんです。
坂本
僕は今日、忘れてましたけどね、
“コントラスト”という言葉を(笑)。
坂口
(笑)。
僕は“コントラスト”ということを思いつかなかったんです。
でも確かにそうなんですよね。
岩田
“コントラスト”がハッキリすることで
心が揺さぶられたりするんでしょうね。
坂口
そうですね。
あと、たとえばお城の扉を初めて開けた瞬間とか、
ここではお話がほしいというときがゲームにはあるんです。
とくに、今回の『ラストストーリー』は
いつものつくり方ではなく、ゲームシステムから入りましたので、
そこを見つけるところからスタートしたところがありました。
もちろん語りたいストーリーは完璧にあるんですけど・・・。
岩田
お話とゲームの仕組みを
どうくっつけるのかということですか?
坂口
ええ。お話をどこに埋めるのか、ということなんです。
ですから、ゲームの脚本の書き方もいままでと変えて、
マップ単位で書いていくようにして、
それらを、ゲームをかたちにする過程のなかで
「このエピソードをどっかに埋め込もう」という感じにして、
もし埋め込む順番が変わった場合は、
話の流れを変えるようなこともしました。
そもそもお客さんが遊んでいて、ほしいときにストーリーが来ないと
ゲームっていやだと思うんです。
ときには「作者の独りよがりを押しつけられている感じがする」
という感想もあるじゃないですか。
岩田
一歩間違うと、ストーリーを表現したいゲームは、
作者の独りよがりを押しつけられているようだと、
「相性が合わない」と、そう感じるんですよね。
坂口
そうなんです。
岩田
だから、“間”をちょっと間違っただけで
台無しになってしまうことが起こってしまうんですね。
坂口
そういうことですよね。
そういう意味では“間”がすごく大事だと思います。
とくに、ハードの進化とともに表現力が豊かになって、
キャラクターの細かい感情さえも表現できてしまうので、
タイミングを間違うと、異常に押しつけられたような・・・、
場合によっては「僕のキャラクターじゃない」と感じられてしまうんです。
だからこそ、先ほど坂本さんがおっしゃったように、
脇のキャラにこんなエピソードがあって、というような
“伏線”もとても大事だと思います。
岩田
はい。
坂口
それに、さっきの話で、城の扉を開けた瞬間に
何も起こらないというのは、やっぱり、いやだと思うんです。
岩田
何かが起こることを期待して
お客さんは扉を開くわけですからね。
坂口
そうなんです。ですから、ドンと扉が開いて、
♪ダン、ダン、ダン、ダーンとという音楽とともに
「ここは○○城」だという演出があるうえに、
そこに物語を追加していこうと。
今回はそういったところをいちばん心がけました。
岩田
坂口さんが今回の『ラストストーリー』の物語で
いちばん伝えたいことはどんなことなんですか?
坂口
長い時間をかけて語るような話ですから、
伝えたいことはいろんな要素があります。
ただ、今回はゲーム重視でつくっていますので、
キャラクターが移動しながら、世間話をすることもあるんです。
たとえば「何でお前、この臭いを感じないの?」みたいな会話を
移動中にしたりするんですけど、そういったことを通じて
仲間の存在をすごく意識するようになるんです。
なんとなくそばにいる連中なんですけど、
「すごくいいヤツらじゃん、こいつ」
「こいつらのためだったら、オレもひと肌脱げる」みたいな、
仲間との熱い関係も、この物語で伝えたいことのひとつですね。
岩田
坂本さんはどうですか?
坂本
僕が『METROID』で語ろうとしているテーマは、
人間はどうしても間違いを犯したり、
身勝手なことを考えたりするんですけど、
「人というのは捨てたもんじゃないよ」
というところなんです。今回もそれに近いです。
岩田
なるほど。ありがとうございました。
それでは最後に、お互いにエールを贈って終わることにしましょうか。
坂本
“ストーリーをゲームで語る”ということに挑戦していることについては、
坂口さんと僕は同じようなことをしていると思うんです。
もちろん世界観とかゲームジャンルは違いますし、
切り口や手法も別々のことをやっているんですけど、
そういう違いがあるからこそ楽しいですし、
僕自身、とても興味があります。
ですから、たくさんの人に『ラストストーリー』を遊んでいただいて、
「ここが良かったんだ」という反響とか
いろんな感想を聞けることを、すごく楽しみにしています。
坂口
僕のほうはちょっとあとから出ることになりますけど、
『METROID Other M』はもうすぐ発売なんですよね。
坂本
はい。9月2日です。
坂口
いまストーリーの話もいろいろ伺って、
とにかく「触ってみたい」と感じました。
あとは『とっとこハム太郎』からはじまったというのも驚きで。
坂本
(笑)
坂口
『METROID Other M』のプロモーション映像を見ると、
かなりシリアスな女性が出てきて・・・。
宇宙船のガラス越しに、「自分の運命は・・・」みたいな、
すごいシリアスじゃないですか。
岩田
無茶苦茶シリアスですよ。
坂口
「ええーっ、何で『トモダチコレクション』の人がこれを!?」と。
岩田・坂本
(笑)
坂口
先ほども言ったように、我が家はファンですから、
あっちの流れのほうもひじょうに楽しみにしています。
坂本
そうですね、あっちも自分のテーマですので。
坂口
もちろん『METROID Other M』もすごく楽しみで、
今後は坂本さんの両路線で、ぜひ遊ばせていただきたいと思っています。
岩田
今日は不思議なご縁の話からはじまりましたが、
それぞれの道を歩まれてきたお2人に
実は共通する部分がとても多いと感じることができました。
どうもありがとうございました。
坂口・坂本
ありがとうございました。