岩田
『紅い蝶』が『眞紅の蝶』として、
新しい作品に生まれ変わる確信みたいなものは
わりと初期にあったと思うんですが、
開発の過程では、いろんな壁はありますよね。
それらをどうやって越えていきましたか?
菊地
やはりいちばん最初に挙がった壁は
さきほど柴田が話していた、
カメラ視点の変更に関するものです。
マップから怖さを感じ取るゲームですので、
カメラ視点が変わったことによって、
必ずしも見てほしいところに、視線が向かない。
するとゲームとして、成立しなくなるんです。
岩田
カメラ視点が変わるってことは、
いちからゲームの設計を
やり直すことになりますからね。
菊地
結果的にマップに
かなりの変更が入りました。
わたしを含めたスタッフはマップを熟知している分、
どこに変更が必要なのか、
そのポイントがつかめなくてたいへんでした。
岩田
それは当然ですよね。
開発スタッフは何度もプレイして、
頭の中にマップがたたき込まれているわけで、
どうしても思い込みが加わりますから。
菊地
そこで“皆神村(みなかみむら)を歩こう会”というかたちで、
大澤さん、伊豆野さんと一緒に
すべてのマップを通しで歩いてチェックしました。
適切な情報が適切なタイミングで出ているか、
プレイヤーへの導入の手順は適切かなど、
こと細かに地味に足でつぶしていく感じで。
岩田
その“歩こう会”で指摘された
フィードバックにはどんなものがありましたか?
柴田
マップの修正のほか、
プレイヤーをガイドする内容ですね。
とくに導入のチュートリアルについて、
かなり入念に、指摘をいただきました。
岩田
そこはわたしたちもよく社内で
“最初の30分”と言っている部分だと思います。
冒頭で確実に世界に入ってもらえないと、
その後いくらよいものを用意しても、
狙いどおりの反応はしていただけなくなりますから。
だからそこを気にして、
細かく指摘していたんだと思います。
(横で聞いていた大澤さんに向かって)
そうですよね、大澤さん?
大澤
はい。やっぱり怖さを体験してもらう前に、
操作系やガイドに不満があると
それがストレスになって、
世界に集中できなくなってしまいますので。
怖いことに関してのこだわりは
コーエーテクモさんが徹底されていますので、
自分たちとしては、その怖さを最大限味わえるように、
いかにしてストレスフリーでそこへ導くか、
そこへ導くガイドや難易度に、こだわりました。
岩田
任天堂はゲームの入り方フェチだった、
ということですかね(笑)。
一同
(笑)
岩田
でも、きっとそれぞれの分野で
呆れるほどこだわった結果、
そこから生まれたクリエイティブが、
得体の知れない新しさやおもしろさに
つながることがあるんです。
今回、そんな風に大きく手を加えて、
できあがったものを振り返ってみると、
どんな手応えがありますか?
菊地
もう、ほぼ新作ですね(笑)。
任天堂さんのフラットな目で見てもらって
いろんな要素を一から見直しました。
戦闘もかなり変わっていますし、エピソードも加えました。
新しいエンディングが複数加わっていますし。
CGもいまの技術で再構築していますので、
いまできるホラーゲームの最先端を詰め込んだ、
柴田いわく“全部入り”です。
岩田
“全部入り”っていうのは、
具体的にどういう意味ですか?
柴田
オリジナルの総決算と、新しい怖さ、
おもしろさのチャレンジも入れたので、
やれることを全部やったという意味です。
単に昔の作品をリニューアルしただけではなくて、
「お化け屋敷モード」などといった
新しいホラーゲームの感覚を楽しめるモードを追加したんです。
岩田
その、「お化け屋敷モード」を説明していただけますか?
菊地
はい、これはその名のとおり、
ちょっと怖いのが苦手な方や
友だちや家族みんなで遊びたいときに、
気軽にお化け屋敷感覚のコースで
ホラーを楽しんでいただけるモードです。
いくつかのコースがあるんですが、
基本的にはランダムで、
怖いイベントが発生する仕組みになっています。
岩田
わたしも少し遊ばせてもらったんですが、
システムも操作も、かなり思い切っていますよね。
ゲームのスキルゼロでOKっていう感じで。
菊地
ボタンを押すと歩く、離すと止まる、
Wiiリモコンできょろきょろ見回すだけの簡単操作です。
岩田
わたしがそれを遊んでいる様子を、
大澤さんと伊豆野さんが
とても楽しそうに見ていたんですね。
大澤さん、これって、
人が驚いたりするのを見るのも
楽しいんでしょうね(笑)。
大澤
まさにそれが、わたしが「お化け屋敷モード」を
入れたかった理由なんです。
人があわてているところを見たり、
見せたりしたかったんですね。
ずっと思っていたことなんですが、
怖いものをひとりで見てて、
「うわっ、怖〜」ってなったときに、
オチがないのが自分的にとても嫌で(笑)。
岩田
オチ、ですか?
大澤
ホラー映画とかを一緒に見て、
驚くシーンで「いまのはないわ〜」とか、
「これは予想外!」とか、共感したいんですよね。
「あそこでお前、ビクっとしたよな!」って
盛り上がるじゃないですか(笑)。
岩田
そこで感情を共感したいんですね。
でも仕掛けがランダムというのは
本当に思い切ったと思います。
人間がデザインするからおもしろいと
信じてやってきたわけで、
普通なら試す前から「うまくいかなそう」と
考えてしまいそうですから。
大澤
自分たちもそう考えて、
当初はエディット前提でつくっていたんです。
ただそれが、一度やるともうおもしろくないんです。
岩田さんにも遊んでもらいましたが、
反応が「うん・・・うん」と、微妙な感じでしたよね。
岩田
“出そうで出ない”がなかったんです。
ある程度予想ができて、「やっぱり出るよね」みたいな感じで。
わたしが「つくった分しかおもしろくないならダメ」
とか言った記憶があります。
柴田
つくったほうも、
エディットで労力をかけた分の
見返りというか、満足感がないというか。
大澤
それでこれは厳しい、と見直しました。
その後紆余曲折を経て、
イベントがランダムで発生するようにしたんです。
すると個々のネタが、次々とありえないタイミングで起こる。
それが次第に「これはないわぁ〜」とか
「ここでそれはおかしいだろ〜!」って、
恐怖と笑いの感覚が入り交じって、
自分が怖いんだかおかしいんだかわからない、
絶妙な気持ちになってくるんです。
岩田
怖いのに、そこで笑ってしまうわけですね(笑)。
大澤
そうです(笑)。
柴田
試作中も盛り上がりましたよね。
あるとき、つくった覚えのないお化けが、
奇妙な具合に表示されて・・・。
大澤
首だけが床をはうように向かってきたんです。
実際はお化けの出現位置の設定が
まちがっていたんですけど、
「えっ・・・、こんなのつくったっけ!?」
「これはまちがいですね、直しましょう」
「いやいや、これを採用しましょう!」って(笑)。
岩田
(笑)。
予想できないことが起こるっていうのが
すごく大事なんですね。
大澤
そうですね、あれはビックリしました。
設定データのミスがきっかけで起こった予想外の動作を
「おもしろいからそのままでいこう」っていう・・・。
あんなふうにおおらかな気持ちになれたのは、
昔のファミコン以来の感覚でした。