岩田
それで、そのひとり用モードの・・・・
ええと、タイトルを言っておきましょうか。
桜井
はい。ひとり用モードは、
『亜空の使者』というタイトルがついています。
岩田
『亜空の使者』の開発の経緯について、
もう少し詳しく教えてください。
桜井
まず、前作の『スマブラDX』に対して
寄せられたお客さんの要望のなかに、
「ストーリーが欲しい」という声が多かったんです。
これは、どちらかというと
自分のつくるものとは相反する要素なんですけど、
もう少し、お話を楽しみたいと。
しかし、『スマブラ』というのは、
いろんなキャラクターが集まっているゲームですから、
それでひとつのお話を進行させるというのは
ふつうに考えると絶対に成り立たないんですね。
岩田
それぞれのキャラクターには、
それぞれの世界観があって、
それぞれの約束や制約というのが
山ほどありますからね。
桜井
ええ。世界観もそうなんですが、
もっと単純な問題として、
たとえばマリオとリンクが並んで立つだけでも
絵として相当な違和感があるんです。
岩田
ああ、そうですね。
桜井
グラフィックのテイストも違いますし、
なにより頭身が違うものどうしが並ぶと
実際、そうとうな違和感がある。
「大乱闘」のようなアクション性の高いゲームのなかで
いっせいに動かすぶんにはまだなんとかなりますけど、
たとえばシリアスなムービーのなかに
同時に存在させるとなると、
これはまずまとまらないだろうと、
企画書を書いている段階では思っていたんです。
岩田
いったんはあきらめかけたんですね。
桜井
ええ。
岩田
でも、ストーリーを持ち込むことにした。
桜井
はい。きっかけになったのは、
『スマブラDX』の横スクロールモードでした。
企画当初は、あれをまず強化しようと思っていたんです。
で、どういうふうにしたら
お客さんはこの横スクロールモードを
よりおもしろくおもってくれるかなと考えているうちに、
先に進みたくなる期待感がどうしても必要だと思ったんです。
岩田
横スクロールのアクションゲームを遊ぶ場合、
「この先どうなるんだろう?」という期待が
もっとも大きな動機になりますからね。
桜井
ええ。昔のゲームなんかだと、
とくになんの目的も用意せずに
お客さんを放り出したりしていたんですけれども、
いまのゲームでは、さすがにそれはできない。
それで、やはり何かのストーリーはなきゃダメだ、
という結論にいたったんです。
けれども、『スマブラ』というゲームでは、
やたらとキャラクターが多いうえに、
主役が誰だと決められない構造になっている。
それで物語を成立させるには・・・・
ということで、ものすごく悩みました。
岩田
なるほど。
桜井
そんな経緯もあり、シナリオのプロットを、
『ファイナルファンタジーVII』などの
シナリオをてがけてこられた
野島一成さんにお願いしたんです。
岩田
『ファイナルファンタジー』の
シナリオを書いていた人に
『スマブラ』のお話を書いてもらうというのも
すごい話ですね。
桜井
そうですね(笑)。
といっても、いちから全部お願いしたわけではなくて、
『スマブラ』の世界観や、
個々のキャラクターの説明をすべてしたうえで
ご協力をお願いしたんです。
ところが、最初に上がってきたプロットが、
なんかちょっと違ったんですよ。
岩田
桜井くんが思っていた感じと。
桜井
ええ。悪いわけじゃなくて、
それはそれでとても魅力的なんですけど、
最初はわたしが考えていた感じとはちょっと違った。
具体的にいうと、 「闘技場へ向かうバスの中に
いろんなキャラクターが乗っている。
サムスが乗っている。ドンキーコングが乗っている。
スネークはちょっと遠いところから見ている」
みたいな感じで(笑)。
わたしはどちらかというともう少し
シリアスな感じをイメージしていたんですね。
たとえば、大きな部隊がいきなり全滅して、
そこからひとりのキャラクターだけが逃げだして、
仲間を取り戻しながら戦うという、逆境的な。
で、結果的には、やりとりを密にして進行した結果
うまくまとまり、
『亜空の使者』の物語ができたんです。
岩田
じゃあ、野島さんひとりでも、桜井くんひとりでも、
絶対にできなかったものができたんですね。
桜井
そうですね。
それは、このゲーム全体にいえることです。
いろんな人が集まって、
いろんな才能がぶつかり合って、
このプロジェクトは成り立ってると思います。
誰かひとりが抜けて別の人が入ったら、
間違いなく違うものになったと思います。
そういう意味でも、今回かぎりのものなんです。