岩田
違う言い方でいうと、
『Wii Sports』や『Wii Fit』のような
誰もが楽しめるゲームがあることは、
『スマブラX』にとってもいいことだと思うんです。
というのは、そういうゲームがなければ
テレビゲームという娯楽に
まったく接点を持たなかった人って
きっといると思うんですね。
桜井
そうですね。
岩田
『Wii Sports』や『Wii Fit』によって
はじめてゲーム機のコントローラを握った人の中で、
『スマブラX』に触れてしまう人というのも、
全員じゃないにしても、かならずいる。
そして、そのおもしろさに気づく人も、
いると思っているんですよ。
『Wii Sports』や『Wii Fit』のような
直感的なおもしろさを持つゲームを入口にして、
『スマブラX』のおもしろさに出会う。
それこそが、本当の意味での
「ゲーム人口の拡大」ではないかと私は思うんです。
もちろん『スマブラ』が初心者向けでない
というわけではないですけどね。
それどころか『スマブラ』というゲームは
ゲームに詳しくない人が、触って10分で、
みんなといっしょにわいわい楽しめるものを
つくろうというところからはじまったわけですから。
桜井
はい。それは『スマブラ』の
いちばんのコンセプトですし、
『スマブラX』でも、
よりはっきりとした形で盛り込まれています。
岩田
というか、そもそも、
ライトユーザーとかコアユーザーとかを
切り離して考えるべきではないと思うんですよね。
だって、全員、最初はライトユーザーじゃないですか。
ライトユーザーからはじまって、そのなかから、
それが好きでたまらない、というふうになる人もいる。
それなのに、なにか、両者が生まれついての
違うものであるように言われ過ぎているように思って。
桜井
はい、はい。
岩田
それは時間のことを無視して、
いまという瞬間で切り取って語るから
そうなってしまうんですよね。
でも、そうではなくて、すごくゲームが好きで、
ものすごくゲームが上手だという人も、
昔はライトユーザーだったはずなんです。
それを考えると、やっぱり、
新しい人が入り続けることがいちばん大事なんです。
新しい人が入るようにしておかないと、
いつかかならずお客さんはいなくなってしまう。
桜井
そう思います。
岩田
思えば、それは桜井くんが、
最初の『カービィ』をつくったときから
言っていたことでもありますね。
新しくゲームにエントリーしてくる人が、
「はじめに遊ぶにはこれでしょう」と
おすすめされるようなゲームをということで
『カービィ』はできたわけですから。
桜井
ああ、懐かしいですね(笑)。
岩田
桜井くんがそのコンセプトを外したことって
じつは一度もないんですよね。
あの、これも桜井という人間の不思議なところで、
この人は非常にゲームが上手なんですけれども、
「ゲームをはじめてやる人が抵抗なく触れるように」
ということにつねに心を砕いているんですね。
一般的にいえば、ゲームがうまい人というのは
ゲームがうまい人を対象にして
ゲームをつくってしまう傾向があるじゃないですか。
桜井くんのその姿勢というのは、
どういうふうにしてできたんですか。
桜井
ええと、そうですね、あの、まず、
最近はゲームの腕もすっかり落ちました、
というのを先に言っておきます。
岩田
はい。
桜井
で、これは昔、岩田さんに
何度も言ったことですけれども、
自分はHAL研に入る前に、
いろんなゲームをたくさんプレイして、
そのとき市場にあるゲームを
いろんな角度から眺めてみたんです。
そのときに、さっき岩田さんが話されたように
「はじめてゲームに触る人に
おすすめできるソフトがない」と感じたんです。
当時は、もう難度のインフレというか、
お客さんに挑戦するようなゲームばかりで。
岩田
「さあ、これを解け」みたいなものばかりで。
シューティングゲームをやれば
弾幕をかいくぐらなくてはならないし、
格闘ゲームはどんどん難しくなるし。
桜井
そうですね。
その状況に疑問を感じるのは、
すごく自然なことだと思うんですよ。
岩田
いまとなっては自然なことかもしれませんけど、
当時から一貫してそれを言っている桜井くんは
やはりめずらしいと思いますよ。
桜井
なんというか、自分にとってのゲームって、
自分がつくって自分で遊ぶためのものではないんです。
岩田
ああ、なるほど。
桜井
やはり、お客さんに向けたものなんですよ。
だから、当時は、お客さんに向けたゲームが
どうしてこれほどまでに少ないんだろうかと
不思議に思っていたわけですし、
その考え方は、いまも変わっていません。
岩田
なるほどね。
いま、話を聞いていてあらためて思ったんですが、
桜井くんといっしょに『カービィ』をつくった意味とか、
ふたりではじめた『スマブラ』が
新しくゲームに入ってくる人にとって
ゲームの敷居を大きく下げたことの意味とか、
あるいは、誰もが簡単に遊べるようにすることは
単にシンプルにすればいいということではない、
というようなことも含めてね、
桜井くんといっしょにゲームをつくったことが、
のちの私の考えを固めるうえで
大きな影響があったように思うんですよ。
つまり、「ゲーム人口の拡大」であるとか、
「対象は5歳から95歳まで」とか、
「年齢、性別、ゲーム経験を問わない」とか、
私がそういうことを言い出したことのルーツはね、
桜井くんといっしょにやってきたことに
関係がありそうに思えてならないというか、
インスパイアされていると思うんですよね。
もちろん、自分が経験してきたことで、
いまに役立っていないことはないというのが
私の持論なんですけれども、
それでもね、あれは大きな財産だと思います。
桜井
ルーツが同じだという話でいえば、
今回の『スマブラX』のネットワークにおける方向性と
任天堂が打ち出したWi-Fiコネクションの類似性に
ふたりとも驚いたことがありましたね。
岩田
ああ、そうそう。あれは驚きましたね。
その話をしましょうか。
桜井
しましょうか。
(続きます)