岩田
『Wii Music』って、いままでにないものですから、
お客さんたちがまだこれをどういうものか
よくわかってないんじゃないかと思うんです。
みなさんは「『Wii Music』ってどんなゲーム?」
って訊かれたら、なんて答えますか?
できれば、ひと言で。戸高さん、どうですか?
戸高
あの、江口さんに言われたことで、
なるほどなぁと思った表現があるんです。
どういう言葉かというと、江口さんは、
「これって、音楽の粘土なんじゃないの?」
って、おっしゃったんです。
岩田
音楽で遊ぶための、粘土。
戸高
ええ、そうです。
それってすごく当たってるなと思ったし、
また、そういう表現をしてもらえて
なんだかすごくうれしかったんです。
粘土って、誰でもさわれるじゃないですか。
で、ある人は、もう、雪ダルマみたいなものを
ポンっとつくって、それだけでもたのしいし、
手先の器用な人だったら、
すごく細かい美術品みたいなものも
つくれちゃうかもしれない。
だけど、粘土は粘土なんです。
なんか、『Wii Music』って、そういう、
すごく広い間口を持ったソフトなんじゃないかと。
岩田
たしかに、そういうことができる幅は感じますね。
戸高
はい。たとえば、ぼくは『Wii Music』に、
「自己評価」っていうものを入れてるんですね。
自分のやった演奏に対して、
ソフトが何点とかつけるんじゃなくて、
自分で点数を決めるんです。
岩田
自己満足してもいいし、
自分に厳しく道を追求してもいいと。
戸高
ええ。なんかそれで
充分じゃないかなって思ったんです。
それは実際に音楽をやってるときと
なんら変わることがないし、なんというか、
広い間口を持ちつつも、
音楽に対して正直に向き合うという姿勢は
そういう仕様ひとつにも表れているんじゃないかなと思うんですよ。
岩田
たしかに、本当の音楽は演奏後に何点って出ないですからね。
自分の達成感や、周囲の評価なんかがあって、
誰かが何点ってつけて終わりじゃないですもんね。
戸高
そのとおりだと思うんですよ。
そこにはまったく嘘はついてない
っていうふうに思ってるので、
本当に音楽についてわかり合ってる友だちには、
僕は『Wii Music』という名前そのままで
紹介できるなと思ってます。
岩田
森井さんはいかがですか?
森井
ぼくは、『Wii Music』をひと言で表現すると
「ぬり絵みたいな感じ」って思ってました。
こういう線が描かれてて、
その中にどんな色を塗るかは、その人次第。
岩田
なるほどね。和田さんは?
和田
ぼくもひとつ思ってた表現があるんですけど、
「音楽の粘土」という
すばらしい表現が出てしまったんで、
いまさら言いにくいというか・・・・・・。
岩田
「音楽の粘土」のほうがいいんですか(笑)。
和田
はい。
岩田
いちおう、言ってみたらどうですか。
和田
ぼくは「音楽のブロック」かなと思ってたんです。
あの、レゴとかそういう、ブロックです。
誰でも直感的にさわれて、多彩な表現ができる、
というのは粘土と近いんですけど、
ただ、ブロックは形を変えられないので・・・・・・。
岩田
粘土に負けてると(笑)。
和田
はい。「音楽の粘土」のほうが優れてますね。
あの・・・・・・編集で、発言の順番を
変えてもらうわけにはいかないですかね。
岩田
このやり取りを
そのまま載せればいいんじゃないでしょうか。
和田
なるほど!
岩田
さて、みなさんに表現してもらって
『Wii Music』がどういうものか、以前よりは
わかってもらえたんじゃないかと思います。
ただ、もうひとつ、私が心配しているのは、
どうやらこのゲームを、
多人数でワイワイ遊ぶための
パーティーゲームだとばかり
思っている人が多いようだということです。
ひとりでじっくり遊びこむことの魅力は
まだ、ほとんど伝わっていないんです。
和田
ああ、そうなんですよね。
森井
でも、じつは、本質的には
ひとり用なんですよね。
岩田
あ、そこまで断言できるものなんですか。
和田
あの、みんなで合奏するのは
もちろんそのライブ感はたのしいんですけれども、
そこで生まれる音楽っていうのは、
さっきの粘土でいうと、つくりこんだものじゃなく、
現場の勢いでぐちゃぐちゃと
遊んだものにすぎないんです。
岩田
それはそれでおもしろいけど、
ものすごい深さはないというか。
和田
はい。それを、なにかもっと、
自分なりの形にしようとすると、
ひとりでじっくりとつくっていくしかなくて、
それがたまらなくおもしろいんです。
岩田
それは何度も何度もリトライしながら、
「もっとよくしよう」というふうに取り組んで、
それが思い通りになった時に、
ものすごく達成感があるというか、
快感があるというような感じでしょうか?
和田
はい。そんな感じです。
森井
けっこう、そういう快感を感じるようなところに
ポンと連れていかれる感じなんですよ。
音とかを自動的に選んでくれたりするんで、
少々失敗とかしてても、パートを重ねたときに、
「あ、ここでこういう音になってよかったぁ!」
とか思ったりして。
岩田
そういうふうに森井さんが感じるところが、
たとえば和田さんや戸高さんから見ると
偶発的なものも含めて、
「森井さんのノリ」になったりするわけですか?
戸高
そうそう、そうなんです。
森井
偶然でしか作れないですから(笑)。
岩田
そうやって偶発的に誰かがつくったものって、
戸高さんにはつくれなかったりするんですか?
戸高
つくれないですね。
あの、ひとり、スタッフのなかに、
変わった演奏クリップばっかりつくる人がいて、
その人の演奏は、もう、原曲が
原型をとどめてないものばっかりなんですよ。
でもそれがすごく魅力的なんです。
で、ためしに、ちょっとマネしてみたいと思って、
原型をとどめないようなアレンジを意識して
作為的につくってみたんです。
ところが、やってみたら、ちっとも魅力がない。
やっぱり、すごく計算高い感じがして、
ちっともよくないんです。
岩田
マネしきれないんだ(笑)。
戸高
有機的に崩れてる感じがぜんぜんしないんですよ。
あの、ぼくは、音楽に関しては、
けっこう自信があるほうだったんですけど、
「自分でもできない音楽ってあるんだ!」
って思って(笑)。
岩田
それは、おもしろいエピソードですねぇ。
なんていうか、『Wii Music』らしい感じがします。
戸高
そうですね。
岩田
はい、それでは最後に、
発売を待っているお客さんに
ひと言ずつメッセージをもらえますか。
じゃあ、今度は和田さんから先に(笑)。
和田
はい・・・・・・最初も難しいですね(笑)。
一同
(笑)
和田
ええと、音楽が全然ダメな人でも
たのしめるという実績が
(森井さんを指しながら)
ココにありますから(笑)、
『Wii Music』で音と親しむことのたのしさを
ぜひみなさんで味わってほしいと思います。
岩田
森井さん、どうぞ。
森井
じゃあ、最後くらいはデザイナーの立場から(笑)。
あの、音楽のゲームなので、
やっぱりそれをメインにはしてるんですけど、
Miiのアクションとか、セットとか、
演奏するときのカメラとかも
けっこういろいろと凝ってつくってあるので、
そのあたりのこだわりにも注目してください。
岩田
はい、戸高さん。
初ディレクション作品にこめた
メッセージをどうぞ!
戸高
ああ、初ディレクション作品ですねぇ(笑)。
ええと、いろんなことのきっかけになるような
ソフトになったらいいなぁとずっと思ってました。
このゲームのなかで演奏して、
「なんかこれ、たのしい」と思う気持ちというのは、
実際の楽器でセッションしてるときのたのしさと
つながっていると思うんです。
なので、この『Wii Music』が、
実際の楽器を手に取るきっかけにもなると、
おおげさじゃなくぼくは思っているんです。
あと、もう音楽をあきらめてしまったり、
自分は楽器を演奏するようなタイプじゃないって
思っているような人にもぜひ遊んでもらいたいです。
子どものころって、楽器を目の前にすると、
なんか、バタバタ叩いてみたり、
適当に鳴らしてみたりするじゃないですか。
そういう感覚を思い出すような
きっかけになればいいなと思ってます。
岩田
ああ、そうですね。
自分が弾けない楽器を上手に弾いてる人を見ると、
すごくうらやましく思うというか、
「気持ち良よさそうだなぁ・・・・・・」って思うんですが、
このゲームではそんな気持ちの一端が
はっきりと味わえると思うんです。
たとえばある楽器をそこそこ弾ける人だとしても、
やっぱり、時間は有限ですから、
何種類もの楽器を極めることは難しいですよね。
その点、この『Wii Music』は、
かける労力の割に、すごく見返りの大きい形で、
何十種類もの楽器を弾ける気持ちや
そのたのしさを味わえる。
そこが、とっても大きな魅力だなって思うんです。
戸高
はい。そうですね。
岩田
多くの人の生活の中に、
いま以上に音楽が入っていく、
そのきっかけになればいいですね。
戸高
ええ。ほんと、そう思います。
森井
あの、もうひとつ、いいですか?
すっかり話し忘れてたんですけど、
このゲームにはドラムモードがあって、
『Wii Fit』のバランスWiiボードをつかえば
手と足をつかった、けっこう本格的な
ドラムレッスン(※2)ができるんです。
※2
ドラムレッスン=Wiiリモコン、ヌンチャク、バランスWiiボードを使って、本格的なドラムの練習をすることができるレッスンモード。ドラムを上達するためのさまざまなレッスンが用意されている。
岩田
ああ、そうでしたね。
森井
で、スタッフみんなで、
順番にそのレッスンをやっていったんですけど、
ドラムの経験がない人がほとんどですから、
当然、最初は手も足も動かないんです。
岩田
手と足がバラバラにリズムを刻むなんて・・・・・・。
森井
とてもできないんです。
「こんなん絶対無理!」っていう人が、
スタッフのなかでも大半やったんです。
で、それでもしばらくやっていると、
みんな、ちょっとずつできるようになって、
最終的には、「クリアした!」っていう人が
ほとんどになっていったんです。
岩田
え? ドラムの素養のまったくない、
手と足がバラバラに動かない人たちが、
つぎつぎとそれをマスターしたってことですか?
森井
そうですね。
岩田
それはちょっとすごいなぁ。
戸高
すごいんですけど、
この話には、さらに続きがあるんです。
岩田
え?
戸高
じゃあ、実際のドラムも叩けるのかな、
ということになって、地下のスタジオで
ドラムを叩いてみることにしたんですよ。
岩田
へーー! どうでした?
戸高
これはビデオにも録ったんですけど、
順番に4ビート、8ビート、16ビートと
叩いてもらったんですけど、
叩けるんですよ、生のドラムも。
岩田
ほんとですか(笑)?
森井
ウソみたいですけど、ほんまなんです。
戸高
だって、はじめてドラムを叩くのに、
みんな手を交差させて、
構えがきちんとできてるんですよ。
この時点で、初心者にはありえないですから。
岩田
・・・・・・だとしたら、すごいですね。
できすぎじゃない(笑)?
戸高
いや、ひょっとしたら、これ、
世界のドラマー人口が増えますよ。
岩田
世界のドラマー人口が増える・・・・・・。
それははたして任天堂のミッションなんでしょうかね?
一同
(笑)