5. 25年経っても変わらないこと

岩田

松浦さんが自分で考えたスーパープレイで
とくに印象に残っているものはありますか?

松浦

たぶんいちばん有名なのは、
だと思います。

岩田

はいはい。ルイージを飲み込んだヨッシーたちが
キャッチボールをするかのように運んでいくスーパープレイですね。

松浦

はい。「こんな遊びもできるんです」と提案したら、
スーパープレイに入れることになって、
デバッガーさんたちといっしょに盛り上がりながら録りました。
あと、キラーが左右から飛んできて、
マリオが縦方向にのぼっていくステージがあって。

岩田

ジャンプでキラーの上をポンポンと乗り継いでいくところですね。

松浦

そうです。あそこのステージでは
もともとは別の「おたからムービー」を録っていて、
プロペラでずっと上がっていくというだけのものだったんです。
ところが、天野さんが録った映像を送ってくれて、
「こっちのほうがすごいじゃないか」と(笑)。

岩田

それがだったんですね。

松浦

そうなんです。
なので、最初に考えた「おたからムービー」をボツにして、
「天野さんのがいいです」と。

岩田

(笑)

天野

でも、そこからは今度は僕が泣きそうになったんです。
というのも、松浦さんに送った映像は
一部分だけの未完成のものだったんです。
そこで、本業の仕事をしつつ、
「おたからムービー」を完成させなければいけなくなりました。

岩田

完成させる責任が生じてしまったんですね。

天野

はい。自分が発見したので、自分で完成させるしかなかったんです。

岩田

そうだったんですね(笑)。
それでは最後に藤井さんのつくり手に変わる
キッカケを教えてもらえますか?

藤井

わたしは小さい頃からピアノを習っていたのですが、
練習するのがとても嫌いだったんです。
そこで、ゲームの中に出てきた曲を覚えて、
自分で弾いて遊ぶようなことばかりしていました。
よく弾いていたのは『マリオ』の曲だったんですが、
そんなことを繰り返しているうちに、ただ弾いてみるだけじゃなくて、
「自分でもゲームやお話に曲をつけてみたいなあ」
と思うようになっていったんです。

岩田

広い意味では近藤(浩治)(※17)さんの仕業でしょうか?

※17

近藤(浩治)=任天堂情報開発本部 制作部所属。『マリオ』や『ゼルダ』シリーズのサウンドを多数手がける。『スーパーマリオブラザーズ』制作者のひとり。

藤井

そうですね(笑)。
『マリオ』の曲は、ちゃんと弾こうとすると
けっこう難しかったりするので、本当に何度も弾きました。
そして、自分が大きくなって将来のことを考えるようになったとき、
その当時のことを思い出して、音楽の仕事に就きたいと思いました。
子どものときに、自分をワクワクさせたゲームの世界の音楽を
自分でつくることができると楽しいだろうなあと思ったんです。
それに、ほかの音楽よりもゲームの音楽を印象的に覚えていたということも、
そう考えるようになった理由のひとつだったかもしれません。

岩田

ゲーム音楽は繰り返し何度も聴くものですからね。

藤井

実際、Wiiの『マリオコレクション』を友だちと遊んだんですけど、
わたしが持っていなかったゲームの曲もぜんぶ覚えていたんです。
人が遊んでいるのに合わせて、自然に口ずさんでいる自分に気づいて、
「こんなに記憶に残っているのはすごいな」と思いました。

岩田

実際に任天堂に入ってみてどうでしたか?

藤井

サウンド制作はとても面白い仕事だと思いました。
入社する前は、ひとりでこつこつと
曲づくりをするものだと思っていたんですけど、
実際は、プランナーさんやプログラマーさんや
デザイナーさんたちと、とても近い位置で
打ち合わせをしながらつくる機会が多いことを
すごく新鮮に感じました。

岩田

音楽やグラフィックやシステムなどが
1個1個、別々に独立しているわけではないんですよね。
ゲームの場合はその全部がつながっていて、
その結果がお客さんの印象になるわけですから、
音楽だけ別につくるようなことはできないんですね。

藤井

はい。なので、みんなといっしょに演出を考えていけるので、
すごく楽しんでやっています。

岩田

いっしょに考える人のなかには、
『マリオ』の曲をつくった近藤さんもいますよね。
藤井さんが思わず口ずさんでしまうような曲をつくった人と
いっしょに仕事をするというのは、どういう印象でしたか?

藤井

実はいま、近藤さんと席が隣なんですけど、
あの曲をつくった人が隣にいるというのがすごく不思議で(笑)。
しかも『NewスーパーマリオWii』のときは
1曲できるごとに近藤さんに聴いていただいたので
ものすごく緊張しました。

岩田

藤井さんがつくった曲に対しては
近藤さんからどんな指示が来るんですか?

藤井

具体的に「こうしたほうがいいんじゃないか」と
曲についてアドバイスをいただくときもあれば、
「なんか違うなあ」とだけ言われることもありました。
近藤さんのなかに
「『マリオ』の曲はこうだ」というイメージがあるので、
ダメなときは、ここを直せばよくなる、というよりは、
曲の方向性が根本的に違うときだったりするんです。

岩田

でも、「これはダメ」と言われたときは
最初から全部つくり直さなければいけないので、
音楽をつくる人にとっては、めちゃくちゃ辛いですよね。
ただ、自分がつくった曲に迷っているときは、
「ひと思いにやってください」
という気持ちもあるのかもしれませんね(笑)。

藤井

そうですね(笑)。

岩田

さて、そろそろ最後の質問になりますが、
みなさんがものごころついたときに『マリオ』がそばにいて、
その『マリオ』を夢中になって遊んで育ち、
いまは『マリオ』をつくる立場になったわけですけど、
『スーパーマリオ』の誕生から25年が経って、
変わらない部分はどんなところだと思いますか?
今度は逆順で訊きますね。藤井さんからお願いします。

藤井

はい。ええと・・・誰が見ても、
何をしているのかひと目でわかるのは、
ずっと変わらない魅力かなと思います。
ゲームのルールを知らなくても、いま何が起こっていて、
どうすればクリアできるのかというのが、
画面を見ているだけでも伝わってきますし、
だからこそ、コントローラを握っていない人も
いっしょに盛り上がれるのかなと思います。

岩田

それはギャラリーの藤井さんならではの視点ですね(笑)。

藤井

そうですね(笑)。
それに、「どうしてミスをしちゃったんだろう」と
理不尽に思うことが、あまりないのも変わらない部分だと思います。

岩田

「ああ、やられた」というときに、
「わたしは悪くないのに」ではなく、
「確かにわたしが失敗しました」と思わせられるんですよね。
だからこそ、「もう1回頑張ろう」と思うわけで。

藤井

そう思います。

松浦

僕が『マリオ』で変わらないなあと思うのは、
ミスをしたときに変な声が出ることなんです。

岩田

はい(笑)。

松浦

先日、Wiiの『マリオコレクション』で遊んだんですけど、
ミスをした瞬間「うげっ!」という変な声が出てしまったんです。
すると隣の部屋にいた奥さんが形相を変えながら
すっ飛んできて「どうしたん!?」と。

岩田

あははは(笑)。

松浦

「なんかあったん!?」と(笑)。
でもそのとき、「ノコノコがいるのがわかっているのに、
その上に跳んでしまってミスをしたから・・・」とは言えなくて。

一同

(笑)

松浦

でも、やっぱり声が出てしまうんですよね。

岩田

それは遊んでいる人だけでなく、
後ろで見ている人も声が出るんですよね。

松浦

そうですね(笑)。

吉田

僕が『マリオ』シリーズを通じて変わらないと思うのは、
ひとつのコースが短くて、気楽に遊べるところです。
それに、コインが必ず出てきて、どこをどう跳べばいいのか、
コインが隠されたメッセージになっていることですね。

岩田

コインがルートを教えてくれるんですね。

吉田

はい。それから大きなことでいうと、
その時代その時代の新しいことを取り入れて、
引っ張る力が『マリオ』にはあると思いますし、
それが『マリオ』の変わらない部分でもあると思います。

岩田

西村さんはどうですか?

西村

わたしは、いつ触っても安心して遊べるところだと思います。
たとえば、昔の敵が最新作に登場すると、
旧作を遊んだ人は「ああ、この敵、いたいた!」と思えますし、
初めての人にも新鮮に感じていただくことができて、
しかも特殊なワザを使わないと
先に進めないというところがないというのは、
ずっと変わらない部分じゃないでしょうか。

岩田

確かに、最初に出てくるクリボーは、
いつも踏んづけられて倒され続けていますからね(笑)。

西村

そうですよね(笑)。

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