『スーパーマリオ』が登場した１９８５年以降、
ゲームが変わった感じが、わたしはしているんです。
それまでは「アーケードで１００円を入れて遊べるものが、家庭でもできます」
ということで、任天堂の『ドンキーコング』もそうですし、
ナムコさんがつくられた『ゼビウス』もそうですし、
他社さんの商品もそういうものが多かったんです。
そうなんですけど、『スーパーマリオ』は明らかに、
最初から家庭用のためにデザインされていて、
この商品が出て、その後『ドラゴンクエスト』^（※16）が出たあたりから、
テレビゲームというものが本当に変わったなあと感じるんです。

うん、本当にそうでした。

それと、キャラクタービジネスが生まれてきたのも
大きかったんじゃないかと思いますね。
まさに『スーパーマリオ』がスタートでしたから。

マリオが国民的人気になって、
ゲームキャラクターをライセンスするビジネスが
はじまったんですね。

当時はライセンスを担当する部署がない時代で、
総務部が、そのすべてを引き受けていたんです。
ライセンスを求める、ものすごい数の会社が来られて、
担当をした人はその仕事しかしていないくらいでしたから。

そうだったんですか。

でも、当時、山内さんは『マリオ』はライセンスしてもいいけど、
その後に出てくる『ゼルダ』では、
絶対にライセンスはするなと言われたんです。

それは、どういうことですか？
総務部が仕事どころではなくなるから、ということではないですよね？

ええ、そうではなくて、
『ゼルダ』をライセンスしても、『マリオ』に勝てるわけがないと。
だから『ゼルダ』はライセンスすべきではないと言われたんです。

ああ、それはすごいですね・・・。

ですから、当時は『マリオ』しかライセンスしていないんです。

やっぱり山内さんの、
「娯楽というのは一極集中になるんだ」という価値観の、
すごく端的な表れ方です。
キャラクタービジネスで『マリオ』と『ゼルダ』が
競い合っても仕方がないということなんですね。

でも、そのくらいマリオは人気者でした。
そもそも僕が、最初に『スーパーマリオ』の話を聞いて感心したのが、
いかに少ないドットで表現するかということで、
髪の毛を表現するのは無理だから、帽子をかぶらせて、
口を隠すために団子っ鼻とヒゲをつくって、服はつなぎにしてと。

だから、どっちを向いているかわかるようにとか、
全部機能からのデザインなんですよね。

そういうことがまず最初にあって、
表現力が増してきても、その基本線はずっと変わらずに来ていると。
それが『スーパーマリオ』が２５年経っても
みなさんから愛されている理由なんじゃないかと思うんです。

僕はまさにその理由を、
２５年たっても『スーパーマリオ』が遊べる理由を、
いま解明しようとしているんです。

上村さんは立命館大学の教授として
学術的にゲームの面白さを解明しようとされているんですよね。

まだ研究途中なんですけど、
２００９年からはじめまして、調査対象の学生さんは
『スーパーマリオ』よりも年下だったりするんです。

いまの大学生のみなさんは
『スーパーマリオ』よりも後から生まれてきた人たちですから。

ですから、わたしの研究室の全員が
ファミコンの『スーパーマリオ』を一度も遊んだことがないんです。
それで、遊んでいる様子や遊んでいるゲームの内容など、
すべての映像記録を録っているんですけど、
『スーパーマリオ』を渡すと、一発で遊ぶんです。

自分が生まれるより前につくられたゲームなのに、
スッと『スーパーマリオ』の世界に入っていけるんですか。

そうなんです。だから、その映像記録を見ていると、
『スーパーマリオ』には何か特別な秘密があるような気がしています。
やっぱり周りでみんなが見ていても面白いし、
やっている本人も、のめり込んでいく様子がよくわかるんです。
で、３回遊んでもらうんですけど、みんなお礼を言って帰っていくんですよ。

お礼を言われるんですか（笑）。

「ありがとうございました！」と言われるんです（笑）。
そんなふうに、うれしそうな姿を見ていると、
このソフトには何か秘密があるように感じるんです。
これから先、５０年後も１００年後も
『スーパーマリオ』を遊んだ人たちは面白いと感じるだろうと、
僕は思っています。

そう思えるような何かが、このソフトには
あるんじゃないかということですね。

ええ。根本的な面白さというのは、
そんなかんたんには変わるものではありませんし、
だから、もう２５年後・・・もう僕は生きていませんけど、
１００年先にどんな遊ばれ方をするのかを見てみたいんです。

さすがにそんな先までは・・・（笑）。

それがとても残念で・・・。
でも、今後の研究成果によって、
『スーパーマリオ』の本質的な面白さを
もっとハッキリ言えるようになるんじゃないかと思います。

わかりました。
今日は、いま『スーパーマリオ』がこうしていられることに、
ひじょうに重要な役割を果たされたお２人の大先輩・・・

いい思い出ばかりじゃないけど（笑）。

そうやなあ（笑）。

（笑）。
ただ、もちろん当事者としては大変なご苦労があったと思うんですけど、
よくないことも含めて無駄がないというか、
それは何か別のことで、ちゃんと後で別のことを生み出す
キッカケになっていたりするわけですし、
いろんな偶然や幸運の積み重ねによって
ファミリーコンピュータが誕生し、
たくさんの、たくさんのことをくぐり抜けて
絶妙のタイミングで登場してきた『スーパーマリオ』が、
いまでも世界の人気者であるという奇跡を感じます。
いやあ・・・面白かったです（笑）。

うん、本当にそう思いますね。
２５年経ってもぜんぜん衰えていないですから。

あと、改めて思うのは、いかに偶然のご縁を活かせたかどうかで、
これほど運命って変わるのかっていう話ばかりでした。
これからも、時代を超えていけるよう努力していきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。

ありがとうございました。