Nintendo Switch Liteは、最初にターコイズ、グレー、イエローの3色で発売されたのですが、その約半年後の春に4色目を出すことになり、私がカラーデザインを担当することになりました。まだ発売して間もない時期だったため、シリーズらしさを後押しする色であること、また同時期に『あつまれ どうぶつの森』の発売が控えていたため、ゲームソフトとの相性が良い色であることも重要でした。
Nintendo Switch Liteは「小さく、軽く、持ち運びやすい」というコンセプトのパーソナルな商品ですので、町を歩き回り、財布や靴など外に持ち出すファッション小物をチェックしに行くこともありました。『どうぶつの森』シリーズをプレイして着想を得たりもしました。そうやって候補を出していく中で、シリーズにまだ無い暖色系であるピンクが良さそうだと方向性が見えてきました。
しかしひとことでピンクと言っても、ビビッドで濃いピンクから、淡いパステル調のピンクなどとても幅広いバリエーションがあります。好みが強く分かれる色でもありますし、Nintendo Switchのネオンピンクとの差別化も必要です。さらに、シリーズものの追加定番色であるため、世界中のいろいろな地域でのニーズを満たす1色を選び、各国の任天堂の関係者に理解してもらわなければいけません。
色を探し求めた結果、Nintendo Switch Liteのシリーズとしての4色のバランス、『どうぶつの森』シリーズとの相性、そして、春のわくわく感を感じさせる、少し黄色味のある「コーラル」にたどり着きました。
珊瑚の色を意味する「コーラル」というネーミングは化粧品などでよく使われる名称なのですが、近年デジタル機器にも浸透し始めている言葉であり、「ピンク」よりも新鮮さが感じられるため、関係者を説得しやすいと考え呼び方も統一して提案することにしました。
Nintendo Switch Liteは色面が広く、丸みを帯びたマットな質感でもあるため、カラーチップや印刷では実物と色の印象が大きく変わってしまいます。そこで、候補となる色の塗料をたくさん作り、実際に本体への塗装を行いました。
作ったプロトタイプは厳選して海外の関係者に送り、テレビ会議を通じてプレゼンテーションをしたり、関係者が来日するタイミングがあれば、直接見てもらったりして、意見を聞くようなことも行いました。
色の好みは人それぞれです。ましてや国が変われば、同じ色から受ける印象もさまざまです。北米、欧州、日本とで最初意見の違いはありましたが、実物の質感で細かいニュアンスまで意識を合わせられたこともあり、最終的には各地域で納得してもらえる1色を決めることができました。
任天堂でプロダクトデザインの仕事をする醍醐味のひとつは、自分が関わった商品やそれを買ってくださるお客様とお店で対面できることです。しかも、世界中のお店で同じ製品が置かれることも多くあります。たった一つの色で世界中のすべてのお客様に気に入っていただくことは難しいですが、Nintendo Switch Liteシリーズとして、より多くのお客様が「自分ならこの色」という1色を見つけられるラインナップになったのではないかと思います。
次に海外旅行に出かけたときに、どこかでNintendo Switch Liteのコーラルと対面できることを楽しみにしています。