ゲーム開発のなかで、背景に置かれている小物のことを私たちは「オブジェクト」と呼んでいます。
オブジェクトをデザインする仕事は、少し注目されにくいかもしれないのですが、「どうぶつの森」シリーズに登場する「家具」というオブジェクトは、プレイヤーがその家具に触れて遊ぶことができたり、手に入れた家具で自分好みの部屋をしつらえることができたりするなど、とても重要なアイテムになっています。
私は、家具を制作するデザイナーのリーダーとして、『あつまれ どうぶつの森』の開発に関わることになったのですが、Nintendo Switchで発売される新作ということもあって、高精細な画面に対応するため、数百種類近くの家具を一から作り上げることになりました。
HDに対応する家具を作るには、時間も手間もかかります。そこで、今までのシリーズよりも多くの人数で対応することになり、モデリングは協力会社さんにもお願いをしました。
HDになったことで細部まで見えるようになったため、その家具に詳しいお客様が違和感を覚えないような、細かなデザインが求められました。しかし、リアルにすれば良いということではありません。「どうぶつの森」の家具作りで重要なのは、家具ごとの個性を守りつつも、世界観に合った、全体でまとまりのあるデザインにすることです。そこで、アートの指針を言語化した資料を作成し、協力会社のスタッフの方も含めて、「どうぶつの森」の家具デザインにおける大事なポイントを共有できるようにしました。
「家具」として作られるものは机や家電に留まらず、ぬいぐるみや、電柱、宇宙船を作ることもあります。その多彩なアイテムをたくさんの人が関わり、デザインを揃えて作っていくには、資料だけでは補えない場面もありました。家具の制作スタッフの間ではたびたびひとつの家具デザインを囲って「その家具らしさをどう表現するか」を語り合って認識を合わせたり、協力会社さんと定期的にできあがった家具デザインを眺めて振り返る機会を設けたり、仕様書にも多くの参考イメージや情報を記載したりして、ていねいに「どうぶつの森の家具デザイン」をつくっていきました。作り手が「家具で表現したい魅力」を実感することがとても大切だと思っていたので、どうしたらそれを共有できるかということを考えながら日々制作をしていたのです。
そのようにして協力会社さんと密にコミュニケーションを取りながら認識を合わせて取り組んだことで、一つのチームとして取り組むことができました。
私が打ち合わせで協力会社さんに伺った際にも、机の上に家具のモデルになるものが、たくさん置かれている光景を目にしました。中には「ダイヤル式電話」のような、今や目にすることが少なくなったものもあり、真剣に向き合って、楽しんで家具作りに取り組んでくださっていることを実感しました。
家具アイテムは360度回転してみることができるので、裏側や側面もきちんと作る必要があります。高精細な画面に対応するため、高解像度のモデルを作る必要があり、いろいろなものを作るために多くの知識が必要になりました。最初は必要だから調べる、という感じだったのですが、だんだん現実にあるものすべてを家具モデルとして観察するようになりました。
もともと「どうぶつの森」のステージや部屋の床は、見えない正方形のマスで区切られています。そこに大きな家具を置くときは3マスが必要になったり、小さい家具は1マスで置くことができたりします。そのようなことを毎日意識しながら、家具作りに励んでいると、現実世界で家具に使えそうな物を見たとき、これは2マスでできそうだとか、それを家具にしたときに、どんなデザインにすれば、その魅力を引き出せるのか、といったことを考えるようになりました。日常生活の中で観察眼を育みながら家具作りをしてきたんですね。多くの人と共通認識をすり合わせながら作り上げていく、という大変さを感じながらも、この世のすべてのものを「どうぶつの森」シリーズの中で家具にしたいくらいです。