Nintendo Switchソフトの『リングフィット アドベンチャー』で、私は登場する敵キャラクターをデザインするセクションのリーダーとして、このプロジェクトに関わりました。
『リングフィット アドベンチャー』は通常のゲームとは異なり、運動しながらプレイしますので、頭が揺れて画面が見づらくなってしまうこともあるんですね。そこで、運動をしていても見やすい画面にすることが、いちばん最初に掲げられたテーマだったのです。しかも、「フィットネス」+「ゲーム」ということで、普段あまりゲームを遊ばない方がプレイすることも予想されたため、そういった方たちにできるだけ嫌われないような敵のデザインにすることを心がけるようにしました。
私は、入社してからずっとキャラクターデザインを担当してきたのですが、通常は遊びの機能をデザインとして落とし込み、かつ魅力的に感じられる造形、動きを作ることができれば、自分の役目が終わることが多かったんです。ところが今回は運動しながら冒険するという新しいゲームということもあり、事情が少し異なりました。
このゲームでは、いかに楽しく運動をしてもらうかということが重要で、しかも運動を長く続けていただくことが、とても大切なテーマでした。敵をデザインするうえではシナリオも必要でしたが、シナリオの決定をただ待つのではなく敵担当デザイナーの立場からさまざまな提案をし、コミュニケーションをはかり推し進めました。そもそも敵キャラクターはいろんな場所や、いろんな話の流れで登場します。そこで、シナリオ担当のプランナーに、このような敵を置けば、このような話ができるんじゃないかと提案することで、物語をふくらますことができれば、と考えたんですね。
たとえばドラゴというボスが登場しますが、はじめはストーリーに絡んだ細かな設定などなく、単に敵の親玉という感じだったのです。でも、開発スタッフたちと会話を続けていくなかで、ドラゴは世界を支配するために、トレーニングをしているという設定につながったのです。そしてたくさん出てくるザコ敵は、ドラゴのトレーニング器具ということにして、たとえばダンベルに似たカニを登場させるなど、話はどんどんふくらんでいったのです。
今までもコミュニケーションを取りながらのモノづくりは行っていましたが、『リングフィット アドベンチャー』の開発では、敵キャラクターをデザインするという仕事の枠を越えて、とにかくいろんな職種の人たちとコミュニケーションをとることをより一層意識してやるようにしていました。その結果、敵を作ることで物語づくりに役立ち、物語もまた敵づくりに役立つような好循環が生まれたように感じています。製品として良いデザインをすることは言うまでもなく大事ですが、良いキャラクターデザインというのは開発チームに良い循環を生むことができる、ということがわかりました。つまり、いいデザインを心がけていくということは、自然とチームがうまく回るということなんですね。