プログラマーとして任天堂に入社した私が、研修後に配属されたのはNintendo Switchソフトとして開発中だった『スプラトゥーン2』のチームです。その時点では、ゲームのベースの部分ができあがっていて、新しい遊びを作ろうとすれば、すぐに試作を作ることができて、検証できる状態だったんですね。私は、先輩のプランナーと2人でアイデアを出し合いながら、ゲームに登場する敵キャラクターを作っていくという仕事を、まずはじめることになりました。
『スプラトゥーン2』には、4対4で遊ぶバトルモードのほかに、ひとりで遊ぶことのできるヒーローモードが入っています。敵を仕上げる仕事が一段落したとき、そのヒーローモードに登場する5体のボスのうちの1体を「ひとりで自由に考えてみてよ」と言われたのです。私はチャンスだと思い、テンションをマックスにあげながら、ボスのことをひたすら考える日々が続くことになりました。
でも、まだ入社1年目です。当然のことですが、自分の出したアイデアがすんなり認められるはずはありませんでした。はじめの頃は、周辺にあるインクを燃やしたりという、このゲームではあり得ないような設定を考えてみたり、長い説明をしないとおもしろさが伝わらないような、すごくわかりにくい仕掛けを考えたりしていたのです。
つまり、自分の頭の中が散らかっていたんですね。ですから、ボスのアイデアを考えてはボツにされることが続いたのですが、そこで思い出したのが、任天堂のインターンシップで教わった「遊びの核をはっきりさせる」という言葉でした。そこでそのセオリーどおりにアイデアを整理することにし、「何を撃ち抜いたら気持ちいいか、撃ち抜いて何が起きたらうれしいか」という点に絞って企画を考えるようにして、その結果、「支えを失って重い物体がずしんと落ちる」というアイデアに辿り着いたのです。
そうして生まれたのが「タコツボビバノン」です。このボスの制作は、まず私がラフスケッチを描き、それを同期のデザイナーにきれいな絵コンテとグラフィックに仕上げてもらい、それを自分でプログラムして動かすという流れで進めました。ただ、複雑な動きをさせるという部分で、当時の私はプログラマーとしては未熟でしたので、行きづまったときはすぐに先輩プログラマーに相談して、なんとか完成させることができたのです。
一般的にプログラマーというと、プランナーやデザイナーが考えたアイデアをプログラムするという、いわゆる受注側のイメージを抱く方が多いと思うのですが、任天堂はちょっと違うんですね。まわりには企画から参加するプログラマーがとても多いですし、そもそも企画が出てくるのを待つのではなく、アイデアづくりの段階から積極的に参加できる機会があることが、この会社でゲームプログラムの仕事をする醍醐味だと感じています。