自分がバージョンアップするとき

「私には向いていないのかも」

私が任天堂で働くことになったのは、母のひと言がキッカケでした。「ちっちゃいときに、『マリオカート』を作りたいって言ってたよね」。就活中の私は「ああ、そうだったのか」と思い、第一志望を任天堂にして応募、晴れて入社することができました。しかも最初に配属されたのは、Wii U版『マリオカート8』の開発チーム……と言うと、順風満帆のように聞こえるかもしれませんが、実はそうではなかったのです。

大学で在籍していたのはデザイン科で、そこではプロダクト製品や広告ポスターを作ったり、イベントを企画したりと、幅広くいろんなことに手を出しすぎていて、予備校時代を除くと、絵をたくさん描くようなことはしてこなかったんですね。ですから、新入社員時代は絵を描く能力や物を作る能力に関して、同期や先輩と比べても、自分が劣っているように感じ、「私には向いていないのかも」と思うようなこともあったのです。

『マリオカート8』の仕事が終わったあと、『Splatoon(スプラトゥーン)』のチームに移りました。ただ、1作目の開発はほとんど終わっていて、続編の『スプラトゥーン2』では、「ハイカラスクエア」という広場の地形デザインを任せられることになりました。そこで、気合いを入れてその広場を作り、「完成だ!」と思うようになったタイミングで、ディレクターから「そろそろ仕上げてください」と言われたんです。自分としてはほとんど仕上げたつもりでいましたので、「これ以上、どうすればいいの?」と途方に暮れて、そこから作業が進まなくなってしまったんです。

入社5年目に覚醒して

ハイカラスクエア初期スケッチ

すると数週間後に、ディレクターが「ここはこうして」と絵を描いて説明してくれる機会を設けてくれたんです。たとえば電柱の色は黒っぽくして画面を引き締めたりとか、お店の看板は、私がデザインしたものだとあまりよく見えていなかったので、明度を調整してくっきり見えるようにしたり……。そのような指摘は、じつは私が予備校や大学で学んだデザイン理論だったんですね。そこで、どのようにデザインをすればいいのかを、自分でレポートにまとめると、それを見たディレクターから「覚醒しましたね」と言われたんです。そしてそのあと、地形セクションのリーダーを任せられるという、入社5年目にしてまったく予想していなかった展開が待っていたのです。

リーダーをやってみると、気づきがたくさんありました。それまでの自分は、担当した地形を仕上げることだけに固執していたのですが、チームにはそれぞれの得意なところを持った人がたくさんいますので、その人に任せたほうが、いいものが早くできるんですね。しかも自分のセクション外に目をやると、さまざまな得意なことを持った人の集まりだと気づいたんです。たとえばある人は学生時代にアニメを作っていたという話を聞いて、その人にハイカラスクエアで流すムービーを作ってもらったり、ひとつの地形を完成させるために、エフェクト担当の人に頼んでレーザーを入れてもらったり……。

対戦ステージ
一人用ステージ

そのような仕事を通じて、自分ひとりだけでは無理なことでも、みんなの得意なところを集めて作る楽しさを味わうことができましたし、リーダーをやる前とやったあとでは、自分自身がすごく変わったように思います。周りの人をよく観察して、「あの人は何が得意なんだろう」と考えるようになりましたし、はじめに「リーダーをやって」と言われたときは、私には無理だと思ったのですが、いざやってみると、自分がバージョンアップする機会になったのだと実感しています。

社員略歴

企画制作部/2012年 入社
2012年「デザイン系」入社。Wii U『マリオカート8』(2014年)、『Splatoon(スプラトゥーン)』(2015年)、Nintendo Switch『スプラトゥーン2』(2017年)では、地形の3DCGデザイナーとして関わる。
職種

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