私たちは普段、日本語のテキストによるゲームを開発していますが、日本語がわからない海外のお客様は読めないため内容が理解ができず、せっかくのゲームの魅力を感じていただくことはできません。そのため、日本語を元に、英語、フランス語、スペイン語などさまざまな言語に翻訳し、世界中のお客様へお届けしています。
ただ、最近のゲームは複雑で大規模になってきており、この翻訳作業にかかる時間も長期化していることが問題となっていました。この問題を解決するために、私は主に翻訳作業を効率化するツール開発の立場でゲーム制作に携わっています。
翻訳作業は、開発終盤の限られた期間の中で行うため、手戻りを少なく、効率的に進める必要があります。例えば、ゲームをプレイしながら出会ったテキストを1つずつ翻訳しようとすると、とても時間がかかってしまいます。しかし、テキストを一覧できる翻訳ツールを利用すると、一気に翻訳を行えるので作業を効率的に進めることができます。ただ、この方法にも課題があります。漢字混じりの短い日本語のテキストは海外の言葉に翻訳しようとすると、どうしても文字数が多くなってしまいます。そのため、ツールだけで一気に翻訳するとゲーム画面上にデザインされている「枠」に収まらず、翻訳のやり直しになることが多数発生してしまいます。翻訳者はこの「枠」に収まるように言葉を言い換えたり、改行を調整するなど、試行錯誤をする必要があるのですが、そもそも「枠」の大きさがわからなければ、翻訳のやり直しによる手戻りが増えてしまいます。
そこで私は、ゲーム画面を確認することなく実際の表示に近い状態で「枠」とテキストを確認できるようなシミュレーション機能を、翻訳ツール上に実装することにしました。
しかし、この機能を開発しはじめた当初はシミュレーションの精度が足りず、「ツール上では収まっているのに、ゲーム上では収まっていない」ケースがいくつも発生しました。これでは翻訳のやり直しを防ぐことができません。精度不足の原因を調査するために、ツールのシミュレーションと実際のゲームで見た目がずれている現象を細かく分析したところ、文字と文字の隙間の計算処理において、ツール側とゲーム側で違いがあることが判明しました。最終的に、ツール側の実装をゲームと同じような処理になるように実装し直すことで、見た目がずれている問題を解決し、シミュレーションの精度を上げることができました。
この改善により、翻訳者はツール上で調整の試行錯誤を簡単に行えるようになり、一気に翻訳しつつも手戻りを最小限に抑える効率的な作業環境が実現しました。
このような効率化によって、翻訳者は翻訳の品質向上のために、より時間をかけて考えることができるようになります。翻訳とは、日本語を各言語の言葉に当てはめるだけではありません。
例えば『あつまれ どうぶつの森』の中では、お弁当に入れるものとして「タコさんウィンナー」といったセリフが登場します。これをそのまま英語に翻訳すると「octopus sausages」になるのですが、英語圏の地域ではお弁当に入れるものとして一般的ではありません。そのため、遊んでいるお客様からするとゲームのキャラクターがたどたどしいセリフを話しているように感じられ、キャラクターの魅力が損なわれてしまいます。
実際のゲームでは「octopus sausages」の代わりに、英語圏でピクニックに定番の「apple」や「sandwiches」を使い、そのキャラクターらしさを損なわないセリフへ変えることで、文化の差を補いつつ日本語と同じお弁当の話題で会話をしています。その言語が使われている地域の文化に合わせた表現にすることで、より多くの人にとって馴染みやすい翻訳に仕上げることができるのです。
このように各言語の細やかな表現の考察に翻訳者が集中できる環境を整えることが、まさにツールを開発する私の役目だと考えています。もともとは日本で作られたゲームなのに、さまざまな国と地域のお客様が、まるではじめから自身の国で作られたゲームであるかのように感じていただけることがあれば、こんなに嬉しいことはないと、私は考えています。ツールで支援できることはまだまだたくさんあり、今日も私は翻訳ツールの改善に取り組んでいます。