任天堂では、世の中にはない新しい商品の開発にチャレンジすることが多く、プロダクトデザイナーとしてさまざまな制約の中でデザインすることが少なくありません。理想的なデザインを実現するために、軌道修正をしたり、ときには発想を転換することで問題を解決してきました。その一例が、『マリオカート ライブ ホームサーキット』のカートデザインです。
このゲームは、カメラが内蔵されたリアルなカートを、Nintendo Switchで操作して遊べるのですが、そのカートの開発を、我々ハードウェア開発チームだけではなく、グラフィック制作チームと共同で行うことになりました。やりとりしていく中で、最初にデザイン案として候補にあがったのが、スーパーファミコン用ソフト『スーパーマリオカート』にも登場した、パイプだけで構成されたスケルトンカートをベースにしたデザインでした。ただ、ゲーム画面の演出上、前輪をカメラに映す必要があったのですが、それを実現させようとすると、ボディの前方を長く伸ばさなければならず、カートというよりF1カーのようなテイストになってしまい、適切ではないという判断になりました。
改めてメンバーと相談し、ボディパーツで覆われた基本のカートをベースにデザインし直すことにしました。赤と白をベースにしたシンプルなデザインにしていくと、マリオカートのシリーズ作に出てきそうなものに仕上がってきました。しかし、長年『マリオカート』のカートデザインを監修している同僚に確認してもらったところ、「ちょっとカッコつけすぎている」と言われてしまいました。そもそも基本のカートは、赤と白だけでなく、青もうまく配色することでスタイリッシュになりすぎないようにしつつ、親しみやすさも演出しているのだと教えられました。ただ、この時点で、すでに大幅な設計変更ができない時期になっていました。
親しみやすさを演出するために必要な青という要素。しかし、発売まであまり時間がなく、大きな設計変更をせずに解決できるアイデアが求められました。家の中を走らせるものなので、塗装で青を表現すると家具などにぶつかって、塗料が色移りしてしまう可能性があります。また、青いパーツを貼り付ける方法だと、ぶつかった衝撃で外れたパーツを小さなお子様が拾って誤飲してしまう危険性もあり、「どのように解決しよう?」と悩みました。
パーツ構成を眺めながら考えを巡らせていると、ひとつのアイデアを思いつきました。もともとグレーだったカート底部のシャシーパーツを青くし、その上に覆いかぶさる底面カバーを大きくすることで、青くしたシャシーパーツの大部分を隠すという発想です。
底面カバー(グレー)がシャシーパーツ(青)を隠してる状態と底面カバーを外したところ
そうすることで、デザイン的に前後左右に配置させたい4か所の青いエリアを、たった1つのパーツで表現することができるため、塗装したりパーツを増やしたりせずに、青をうまく配色することができました。このアイデアを盛り込み、さらにディティールを調整したモックアップを急ぎ制作し、再度、カートデザインを監修している同僚に確認してもらうと「これです!」と言ってもらえました。ひとつのアイデアでうまく問題を解決することができ、心の中で思わずガッツポーズをした瞬間でした。
ディティールをつめ、よりモノとしてのクオリティをアップ