『あつまれ どうぶつの森』には、釣ったサカナや捕まえたムシ、地面から掘り出したかせきなどを展示することのできる「博物館」という施設があります。ステージデザイナーの私は、その前に担当していた雑草や花など植物の制作が一段落したあと、博物館の制作を任されることになりました。制作が始まり最初に考えたことは、今まであまり博物館に訪れたことがなかった人にとっても「何度も訪れたくなるような場所」にしたいということでした。
「何度も訪れたくなるような場所」にするためにどうすればいいのかを考え、生き物や展示物がより映える展示法を検討したり、豊かなライトで照らされた空間を心地よく移動できる動線の設計をしたりと、現実にある博物館さながらの体験が楽しめるように工夫をしています。また寄贈品が増えることで、ジオラマなどの博物館ならではの装飾もより充実するような仕組みにしました。博物館の魅力を体験できるような表現の工夫をすることで、これまでのシリーズの博物館以上に、より多くの人が「何度も訪れたい」と思える、飽きさせない施設にしたいと考えたのです。
博物館の制作リーダーを任されたのは、私ともうひとりのステージデザイナーでした。たまたま2人とも博物館や美術館めぐりを趣味にしていたため、自分たちの興味や知識を活かせたのは幸運だったと思います。ただ、制作段階に入り、関わるメンバーが増えるにつれて、それぞれが持っている博物館に対するイメージに差異が見られるようになりました。博物館にあまり詳しくないメンバーもいるなかで、インターネットや書籍から得られる資料などを参考にしながら制作を続けることに、限界を感じるようになったのです。
参考資料になる写真や映像は、当然展示物がメインでうつされているものがほとんどです。しかし、私たちが求めていたのは、展示物の外側の情報でした。「展示物の周辺にある空気感や建物などの細かい部分まで表現できなければ、魅力のある博物館の制作はできない!」と考えるようになり、会社を飛び出して実物を見ることにしたのです。ライティングやエフェクトを担当するデザイナーにも声をかけ、みんなで水族館を訪れたのですが、複数人の視点で見ることで、1人で行ったときには気づかなかったような発見がたくさんありました。
たとえば、水槽というと泡がぼこぼこと出ているイメージがあったのですが、取材で訪れた水族館では、泡は出ていないことに気が付きました。また、水槽の中の奥行き感を出すために、暖色のライトと寒色のライトが手前と奥で使い分けられていたのですが、そのような照明手法に気づいたのはライティング担当のデザイナーでした。そうやってみんなで一緒に体験し、"気づき"を得たことで意識の共有ができ、制作中のコミュニケーションもスムーズになり、スピード感をもって開発を進めることができるようになりました。
最近は、インターネットでさまざまな情報に触れることができるようになり、活用する機会も増えました。写真や映像を通じてその場に行かずともいろいろなものを見て、作れるようになったのではないでしょうか。しかし、今回の水族館の例のように明るさや色味など、写真や映像で得る情報と自分の目で見て得た情報が異なってくる場合があるのです。体感する温度や湿度など、その場でしか感じることのできないこともあり、その空気感をゲーム中に表現することもできます。可能な限り、みんなで「実際に見て、感じて、作ること」は、これからのゲーム開発でも大事にしていきたいですね。