『開発者に訊きました ファイアーエムブレム エンゲージ』

2023.1.17

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

本文内に掲載の画像は開発中の資料です。

新しいファイアーエムブレム

さきほどから「紋章士」の組み合わせ、という話がたびたび出ています。今作の軸となる「紋章士」の遊びである「エンゲージ」は、システムとしてどのようにつくられていったのでしょうか。

中西

システム的には組み立てるの、すごく大変でした。

横田

今回は3すくみ※8の遊びを採用していますしね。

※8じゃんけんのように3つのものが互いに得意と苦手をひとつずつ持つシステム。今作では、剣は斧に、斧は槍に、槍は剣に強く、この3すくみシステムは「ファイアーエムブレム」シリーズの特長として受け継がれている。

中西

3すくみのバランスだけじゃないんですよ。
今回、「エンゲージ」はわかりやすく派手な演出を目指していたんですが、
最初から強くしすぎてしまったらゲームが大味になってしまうのでは、
という心配がありました。

それに、マス目で戦術的にキャラクターを動かすというこのゲームの特性上、
「紋章士」だといってもあまり派手すぎる能力はつけにくかったんです。

ゲームの特性上? それはどういうことですか。

いろんな能力を考えてみたのはいいけど、
ゲームのレベルデザイナー※9
「シグルド※10とエンゲージして5マスも追加で移動できるようになると
戦術が破綻してバトルになりません!」
と言われてしまいました。

こちらとしてはもっと遠くまで動かしてくれないと
移動力が増えたことがわかりにくいし、見た目が映えないぞ、
と思っていたくらいなのに(笑)。

※9ゲームのステージなどの地形やキャラクターの配置などを設計し、ゲームのバランスをとる役割。

※101996年5月発売のスーパーファミコン用ソフト『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』に登場する主人公の一人。今作では「紋章士」として登場。今作のキャラクターと「エンゲージ」すると、移動距離が常に5マス追加され、通常より遠くまで移動できるようになる。

中西

移動距離も延ばしたいし、ワープもさせたいし、
全員回復、みたいな派手な技もやってのけたい。
考えたら無茶な依頼ばかりでしたよね(笑)。

でも「紋章士」ごとに尖った能力を使えるようにならないと、
見た目も能力も魅力が伝わらないので、
途中からプランニングディレクターの石井さん※11に入ってもらって、
バーンと移動するのも、ワープするのも両立できるように
なんとかまとめてくれってお願いして。

※11石井佑弥。株式会社インテリジェントシステムズ・企画開発部所属。今作のプランニングディレクター。ニンテンドー3DS用ソフト『ファイアーエムブレム 覚醒』『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』のUI、サウンドプログラムなどを担当。同じくニンテンドー3DS用ソフト『Code Name: S.T.E.A.M. リンカーンVSエイリアン』ではゲームプランニングに深く関わる。

「なんとかまとめて」ってすごいお願いですね(笑)。 石井さんはきっと大変だったでしょう・・・。

樋口

散々議論してゲームの最初から「エンゲージ」できるようにしようと決めたのに、
今度は肝心の「エンゲージ」のシステムがなかなか実装できなくて・・・
「本当に完成するのか!?」と心配になりました。

確かに、「ファイアーエムブレム」の戦闘って詰将棋みたいな緻密な組み立てがされていますよね。「最初にこいつを動かして、その間にこいつで攻撃して・・・」みたいな。そこに「エンゲージ」のような大きな要素が追加されると、システム側はかなり大変になりますね。

石井さんがレベルデザイン班とともに
破綻しないギリギリのラインを模索して、
なんとか完成形にまとめ上げてくれました。

それででき上がったものをマリオクラブさん※12
モニターテストしてもらったんですけど、
シリーズ経験者からも「思ったほど簡単じゃない!」
という声が挙がってきて(笑)。

※12マリオクラブ株式会社。ゲームソフトのデバッグやモニターテストを手がける任天堂のグループ会社。

えっ、思ったほど簡単じゃない?

もちろん「エンゲージ」は非常に強力なんですが、
シミュレーションゲームの特性上、
後先考えずに使用すると、しっぺ返しを食らう場合もあるんですよね。
ひとりだけで突っ走って敵に囲まれてしまったりとか。

難易度の低いノーマルモード※13だと、
ある程度「エンゲージ」でゴリ押しして進められるようにしているんですが、
難易度の高いルナティックモードではちゃんと考えて使わないといけない。
間口を広げつつも、シリーズ経験者の方には
遊びごたえのあるものとなるように設計しているんです。

※13今作の難易度設定は「ノーマルモード」「ハードモード」「ルナティックモード」の3種類。

横田

「紋章士」の動画シグルド動画セリカ※14のおかげで、
移動は劇的に変わりますよね。
新しい戦術を考える楽しみも生まれました。

※141992年3月発売ファミリーコンピュータ用ソフト『ファイアーエムブレム 外伝』、および2017年4月発売のニンテンドー3DS用ソフト『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』に登場する主人公の一人。今作ではキャラクターと「エンゲージ」すると、地形を無視して離れた敵のもとへワープ移動し、強力な魔法攻撃を放つことができる。

そういえば過去作では移動速度が遅すぎて、戦場に到達したころには他のキャラが戦闘を終わらせている、みたいなキャラクターもいたような・・・。

中西

そうそう、そういう意味では
今回はアーマーナイト※15でも、
移動距離が増える「紋章士」シグルドと一緒になれば前線を張れると思いますよ。

※15「ファイアーエムブレム」シリーズのクラスのひとつ。重装歩兵のため攻撃力や守備力が高く、拠点を守るのに向いているが、その反面移動速度が遅い。

なるほど。指輪で気軽に「エンゲージ」の組み合わせを変えられて、能力が変化することで、いろんな戦術を試せる、というのはまったく新しい楽しみ方ですね。

あの、一点補足しておきたいのですが、
「紋章士」って、指輪をつけるだけで今作のキャラクターを強化できるから
一見アイテムのように見えてしまうかもしれないんですけど、
モノとしては扱いたくなくて・・・

いずれもこれまで私たちが大切に育ててきたキャラクターたちなので、
これからもキャラクターとして
ちゃんと活躍していってほしいという思いがありました。

だから、ちゃんと愛着を持ってもらえるように、
一緒に戦えば信頼関係も強くなっていきますし、
バトルの外でも、「紋章士」専用のイベントや会話を用意しています。

会話といえば、登場するキャラクター同士が仲良くなって会話イベントが起こるシステムがあるのですよね。今回はどのようなイベントが起こるのでしょうか。

これまでのシリーズ作ではキャラクター同士の関係性を深める
支援会話というシステムがありましたが、
今作ではキャラクター同士の支援会話はもちろん
「紋章士」とキャラクター間にも絆会話というものが発生します。

中西

また絆会話などを重ねて絆を深めていくと
仲良くなった「紋章士」のスキルを継承して、
その「紋章士」の指輪をつけなくても、そのスキルを使用できるようになります。

また、それだけではなく、「紋章士」と絆を深めていくと、
武器の素質を継承して、
本来そのキャラクターがなれない兵種になることもできます。

例えば、弓しか使えないキャラクターが
剣士の「紋章士」マルスと絆を深めていくと、
マルスのもつ剣の素質を継承して、
そのキャラクターが剣を使える兵種にクラスチェンジできるようになります。

キャラクターのバックグラウンドを知って
ストーリーの理解が深まるだけでなく、
そんなゲーム性も楽しんでいただけたらと思います。

キャラクター同士だけでなく、「紋章士」とキャラクターも、となると、組み合わせの種類としてはかなりの数になるのでは?

すべてのキャラクター同士という訳ではないですが、
キャラクター同士の会話は約650通り。
それから絆会話はすべての「紋章士」で用意していますので、
約1,300通りあります。
全部聞こうと思えば、かなりのボリュームです(笑)。

えっ、その数がフルボイスなのですか?

はい。
声優さんも豪華なので、必聴です。

そう聞くとコンプリートしたくなりますね。

今回はストーリーを分岐させていない分、
自分の選んだ組み合わせで
思う存分キャラクターを強化することを
楽しんでいただければと思っています。

「紋章士」の遊びの楽しみ方として、もう一つ。
「紋章士」と「エンゲージ」すると「エンゲージ武器」
というものを持てるんですけど、
今作の世界でいろんな素材を集めて、
その武器を強化することができます。

中西

育て方や強化でプレイヤーによって個性がかなり出そうですよね。
12人の「紋章士」がすべてのキャラクターと組み合わせられるようにした結果、
いろんな技や武器が使えるようになったので、
今までにない戦い方ができるようになりました。

例えば、
守備スキルが高く前線で壁となって戦うことが多いアーマー系の兵種に、
回復の杖を持たせて、仲間を守りながら回復する、
という戦い方もできてしまいます。

横田

今回は通信での遊び※16も用意していますので、
自分が育てたキャラクターを自慢する場所としても、
楽しんでいただきたいと思います。

※16オンライン機能のご利用には「Nintendo Switch Online」(有料)への加入が必要です。

中西

こんな面白い組み合わせがあるぞ! ってね。

樋口

「エンゲージ」すれば見た目も決め台詞も変わりますし、
いろいろな組み合わせを試してほしいですね。

これだけのバリエーションを、ひとつずつ作り続けるのは大変な工程ですね。

樋口

とっても大変でしたよ。
最近ではなかなかないくらい、長い時間をかけて作ったタイトルですね。

新しいチャレンジも多かったので、
いろんな企画を考えては、検証して、なくなって・・・
やっとひとつ実装できたと思ったら、また別のハードルが現れて。
3歩進んでは2歩下がる、みたいな日々でした。

それは、無事に完成して本当に良かったです(笑)。
ここまでたくさんお話を伺いましたが、最後にみなさんが、「ファイアーエムブレム」シリーズの開発で大切にされていることをお聞かせください。

冒頭でもお話ししたんですけど、
僕自身シミュレーションゲームはあまり得意ではないので、
そんな方でも「やってみたい」「面白い」と感じていただけるように、
という思いを大切にこのゲームをつくってきました。

また、本当にたくさんのキャラクターが出てくるのですが、
多くのお客様に、ストーリーに共感しながら、
一緒に泣いたり笑ったりしてもらえたらと思います。
そして、今作でもし「推しキャラクター」が見つかったら、
今後も末永く応援していただけたらとても嬉しいです。

ゲームプレイを通してキャラクターに愛着を持っていただき、
キャラクター自身がゲームの枠を超えて育っていくこと、
それが「ファイアーエムブレム」というゲームの魅力だと思っています。

樋口

私はシリーズ初期から守り続けている
「手強いシミュレーション」というのをこれからも守り抜きたい。
キャラクターが倒されると「二度と帰ってこない」という
クラシックモード※17に慣れている方は
引き続きシビアなモードを楽しんでいただきたいです。

同時に、いろいろな方にこのゲームに触れてもらいやすくするため、
カジュアルモードや今作の「エンゲージ」、また時間を戻すアイテムといった
遊びやすい要素を、新しくどんどん開発していきたいと思います。

※17「ファイアーエムブレム」シリーズの初期作は、キャラクターが倒されると二度とそのキャラクターが帰ってくることがなかった。日本国内では、2010年7月発売のニンテンドー DS用ソフト『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』以降、そのシビアな戦術性に富んだモードをクラシックモードと呼び、倒されても戦闘後にキャラクターが帰ってくるモードをカジュアルモードと呼んで選択できるようになった。海外版では2012年4月発売『ファイアーエムブレム 覚醒』より本モードの選択を搭載。

シリーズとしての伝統を守りつつも、新しい要素やキャラクターで間口を広げていきたいということですね。

横田

このゲームの面白いところって、やっぱり「選択」だと思うんです。
それはストーリー分岐のような大きな局面での選択だけでなく、
キャラクターにどの武器を持たせるのか、
バトルでキャラクターをどのように動かすか、
その一手一手も含みます。

更に今回は「紋章士」の組み合わせの選択もあって、
そこにプレイヤーの個性も出ます。
今後もこの「選択」が開発における重要なキーワードになっていくと思っています。

それから、過去の英雄である「紋章士」が気になった方がいらっしゃったら、
ぜひスマホアプリの『ファイアーエムブレム ヒーローズ』を
プレイしてみていただきたいです。
今作の「紋章士」を筆頭とする英雄たちがたくさん出てきますし、
今作と連携することでゲットできる武器やアイテム※18もあります。

そして『ファイアーエムブレム エンゲージ』が
『ヒーローズ』や、過去に発売したシリーズも含めて
興味をもってもらえるきっかけの一つになればと思います。

※18本特典は配布期間を終了いたしました。

中西

僕は「ファイアーエムブレム」シリーズの魅力は、
仲間同士で信頼しあって戦う「絆」だと思っています。
これはシリーズ通して昔から変わらないのですが、
キャラクターごとに所属している国は異なっていても、
最終的にはみんな命を預けられる仲間同士として
信頼関係を築いていきます。
この部分は今後も変えたくないと思っています。

それから、今作はシリーズを初めて遊ばれる方にも、
過去シリーズ作の経験者の方にも、
どちらにも楽しんでいただけるようにつくったつもりです。

何も知らないリュールが過去の英雄である「紋章士」に導かれるように、
シリーズ作を遊ばれた経験のある方が初めての方に攻略法を教えたりして、
お客様同士で交流していただけるきっかけになれたら嬉しいです。
それに、シリーズ1作目の発売からすでに30年以上経っているので、
親子で遊んでもらえたりしたら素敵だなあと思っています。

そういえば追加コンテンツも用意されているんですよね。

中西

エキスパンション・パス形式で第1弾~第4弾が順次配信となります。
その内容としては主に「神竜の章」と「邪竜の章」のふたつに分かれます。

「神竜の章」ではさらにいろんな「紋章士」が仲間に入ります。
例えば、第1弾では経験値が得られやすい『風花雪月』の三級長と、
成長率がアップする『暗黒竜と光の剣』※19のチキが追加されますので、
キャラクターの育成がはかどると思います。
「邪竜の章」では新しいサイドストーリーが遊べます。

また、無料アップデートでも拠点となるソラネルの施設が増えるので
楽しみにお待ちいただければと思います。

※19『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』。1990年4月にファミリーコンピュータ用ソフトとして発売。

ありがとうございます。
ではもう一つだけ鄭さんに。初のディレクターはいかがでしたか?

やりたいことをみんなで詰め込んでいくうちに、
見た目も遊びもストーリーも盛りだくさんな
豪華なゲームになりました。

30年以上続くシリーズで初めてディレクターを務めることには、
もちろんプレッシャーや不安もありましたが、
僕自身も旅に出るリュールのような気持ちで、
開発メンバーに支えられて乗り切れたように思います。

そして、リュールがマルスやシグルドのような
過去のシリーズを支えた英雄たちに助けられるように、
僕自身も「ファイアーエムブレムの先輩たち」に助けてもらいながら、
新しい「ファイアーエムブレム」を生み出すことができました。

新しい「ファイアーエムブレム」、楽しみです。
本日はありがとうございました。