岩田
そうやって、ポケモンがすべて新しくなるとともに、
今作では“つながる”というコミュニケーション系に関して
すごく強化された印象があるんですが、まず、
どうしてパソコンにつなごうと思ったんですか?
増田
DSで遊んでいないときでも
『ポケモンブラック・ホワイト』で楽しんでほしいと思ったんです。
その意味で、パソコンというツールは
コミュニケーションをするのに最適だと思いましたし、
『ポケモン』の次のステージとしてもアリだと考えたんです。
岩田
石原さんは「パソコンとつなぐ」という話を聞いて、
どう思われましたか?
石原
もともと、株式会社ポケモンでやってることは
パソコンに関わるものが多いわけです。
プロモーションにしても、「ポケモンだいすきクラブ」(※11)にしても。
そういうものと、ゲーム本体がつながることの可能性に関しては
ずっと前から考えてはいたんです。
でも「これはかんたんなことではない」とは思いましたね。
※11
「ポケモンだいすきクラブ」=株式会社ポケモンが運営するウェブサイト。ポケモンの公式ファンクラブとして200万人を超える会員がメンバーに加入している。
岩田
増田さん、実際にやってみて、
想像以上に大変だったりしましたか?
増田
はい、本当に想像以上に大変でした。
最初はDSのカードをパソコンに
ガチャーンと挿すくらいの勢いで考えていたんですけど(笑)。
岩田
(笑)
増田
でも、さすがに「それは無理です」と言われてしまって(笑)。
それでWi-Fiで接続する方法にしたんですけど、
それよりもパソコンの世界の設定をどうするかで、すごく悩みました。
それに「夢の世界」という設定にいきつくまでに、
けっこう時間がかかりました。
最初、パソコンの世界に登場するのは、
プレイヤー自身じゃないとマズイんじゃないかと思ったんです。
ポケモンがしゃべると変な話になってしまうので。
岩田
ポケモンはしゃべらない設定ですからね。
増田
なので、Miiのようなアバターをつくって、
ひとつの世界に住まわせるイメージだったんです。
でも、「ちょっと待てよ」と。
パソコンのなかにいるアバターの自分はDSのなかの主人公とは違うし、
もちろん現実の自分とも違う・・・なんかつながってないぞと。
岩田
つまり、主人公が3人いるようなものなんですね。
増田
そうなんです。なんだか気持ちの悪いものになってしまったんです。
岩田
増田さんは、その問題をどうやって解決したのですか?
増田
そこで考えたのは、ポケモンたちが
主人公である自分のことをわかる世界にしたいと。
もし、“夢の世界”という設定にすれば
ポケモンたちが自分のことを
「うちの主人公はこんなことを言ってるよ」と言って
ほかの人たちに知らせることができると考えました。
岩田
つまりパソコンの世界では、アバターではなく、
ポケモンだけを登場させることにしたんですね。
増田
そのとおりです。そのほうが圧倒的にかわいいですし(笑)。
で、その「“夢の世界”をどうするのか」と考えたときに、
ちょうど杉森さんのチームで考えていた、
ムンナという夢を見るポケモンがいたので、
それと結びつけて、いろんな人の夢がリンクする世界を
パソコン内に構築しようということで、
最終的に「ポケモンドリームワールド(※12)」というかたちにまとめました。
※12
「ポケモンドリームワールド」=インターネットを通じてパソコンからアクセスできる『ポケモンブラック・ホワイト』と連動するウェブサイト「ポケモングローバルリンク」内のコンテンツのひとつ。
岩田
具体的にどんなことができるんですか?
増田
まず、DSでWi-Fi通信ができる環境と、パソコンが必要になりますが、
夢の世界で遊んでいて、そこで手に入れた「どうぐ」や「きのみ」などを
DSの『ポケモンブラック・ホワイト』に持ってくることができるだけでなく、
いろんな人とコミュニケーションをとることができるようになります。
岩田
国内だけでなく、
『ポケモンブラック・ホワイト』を遊んでいる世界中の人とつながり、
コミュニケーションができるようになるんですね。
増田
はい。ですから、パソコンにつなげることによって、
グローバルな部分だけでなく、
世代的な枠を越えたジェネレーションの部分でも
幅広いつながりが期待できます。
DSを触っているとき以外でも
『ポケモンブラック・ホワイト』の世界を楽しめるようになりますので、
『ポケモン』が次のステップに来られたかなと感じています。
岩田
そのような手ごたえを感じるまでに、
どれくらいの試行錯誤があったんですか?
増田
2年くらいはかかっていると思います。
岩田
2年もののアイデアが多いですね、今回は(笑)。
増田
はい(笑)。
今回は、地道にひとりでずっと考えていることが多かったんです。
通勤の電車に乗っているときもずーっと考えていて、
「あっ」と、何か思いついたら、その場で携帯メールで
自分のアドレスに送って、それを会社についたら
チェックするようなことをしていました。
岩田
今回、パソコンとつながる一方で、
DS同士がつながることに関しては赤外線通信を採用しましたよね。
増田
もともと赤外線を採用する予定はありませんでした。
ただ、「つねに通信をしていたい」と思っていたので、
最初はその実験をずっとしていたんです。
そこで無線をバンバン飛ばして、バンバン受信させていると、
電池が本来もつべき時間の
半分くらいしかもたないということがわかったんです。
岩田
フルパワーで無線を使い続けると、
すぐに切れてしまうということですね。
増田
これでは絶対にお客さんに怒られると(笑)。
それで使い方をちょっと変えてみることにしました。
もともと、パソコンとつなぐためにどんな方法があるのか
任天堂さんと相談させていただいたときに、
「赤外線なら」と紹介されたことがあったんです。
岩田
(※13)のときにつくった
赤外線通信のできるDSカードですね。
※13
『生活リズムDS』=『歩いてわかる 生活リズムDS』。赤外線通信を使って、セットの「生活リズム計」とデータ交換を行い、1分ごとの歩数を記録するソフト。2008年11月発売。『生活リズムDS』の開発が株式会社クリーチャーズで行われていたため、『ポケモン』シリーズと赤外線通信とのゆかりは深い。詳しくは、社長が訊く『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』をご覧ください。
増田
はい。そこで、そばにいる人とバトルや交換をするときは
まず向かい合ってから赤外線でつないで、
そのあとにワイヤレス通信に切り換えるようにすれば、
バッテリーの消耗がかなり防げることがわかったんです。
岩田
あれ、面白いんですよね。
赤外線でゲーム機同士が通信するというのは、
まるでゲームボーイカラー時代に戻ったみたいなんですけど、
先に赤外線でお互いに向き合った相手を認識すると、
その後はワイヤレス通信に切り替わって、
ちょっと離れてもちゃんとお互いを認識してつながるようになっていますからね。
増田
それを説明するのがけっこう大変なんですけど、
実際にやってみると、「こういうことなんだ」ということが
ご理解いただけると思います。
あと、これまではポケモンの交換をするときは、
まずポケモンセンターのユニオンルームに入って
親か子を決める必要がありましたし、
しかも手持ちのポケモンだけしか交換できなかったんです。
でも今回は、ようになりました。
岩田
あれも、超便利ですよね(笑)。
ボックス内のものがあれほどシームレスに
ホイホイ出てくる『ポケモン』は初めてじゃないですか。
増田
はい、超便利になりました(笑)。
岩田
ユニオンルームに入って、
手持ちのポケモンだけを交換するという、いままでの作法を
今回はバーンと変えてもいいと思ったのはどうしてだったんですか?
増田
やっぱり『ポケモン』にとって
「交換」こそは便利なほうがいいだろうなと思ったんです。
岩田
もっと手軽にたくさん交換してもらいたかったんですね。
増田
そうです。それに、最初にお話ししましたように、
「『ポケモン』とはこうあるべきだ」という固定観念を
自分自身がすべての面でいったん壊してみようと考えていましたので、
「もしそうしたらどうなる?」という検証をかなりしてみたんです。
今回はワイヤレスや赤外線通信のできる
「Cギア」というデバイスが使えるようになるのですが、
これまでのシリーズで登場したギアというと、
ゲーム内の主人公が身につけているものという設定だったんです。
でも、今回はそこから切り離して
ゲームのプレイヤーのものであるという設定にすることで、
ボックス内のポケモン交換も
フィールドでの交換もOKということになりました。
岩田
実際に遊ぶ人のデバイスなので、
好きなときに、好きなだけ交換できるんですね。
その「Cギア」にはいろんな機能がついていて、
そのひとつに「ライブキャスター」(※14)というのがありますよね。
※14
「ライブキャスター」=ニンテンドーDSiやニンテンドーDSi LLのカメラとマイクを使って、「ともだちコード」を交換した友だちと、顔を見ながら会話ができる機能(DS Liteの場合は音声のみの通信になります)。通信中は、落書きや声の高さを変えて遊ぶことができる。ワイヤレス通信では最大4人、Wi-Fi通信の場合は最大2人まで会話が可能。
増田
もともと「ライブキャスター」のアイデアは
ゲーム中で博士たちと会話するために生まれた機能なんです。
それを、現実でも使えるようになったら面白いなと思って、
いろいろ実験をはじめてみたんです。
顔を見ながらの会話はカメラが必要になりますので
DSiとDSi LL限定の遊びになるのですが、
たとえばいまここにいる4人がワイヤレス通信でつながって、
「画面に顔が映って、それで会話をして面白いの?」
という意見もなくはなかったんです。
岩田
同じ部屋にいれば
直接、増田さんたちの顔が見られるわけですからね。
増田
そこで、ようにしたら
ひとつの遊びとして成立するのではないかと考えました。
落書きするためのペンの色はスポイトでつくるのですが、
色はカメラで写してつくるんです。
岩田
ああ、なるほど。
増田
パレットから色を選べるようにするのはかんたんなんですが、
「どうやったらその色がつくれるか」ということも
遊びのひとつにしてほしかったんですね。
たとえばカメラのレンズのところを指で押さえたりすると、
意外な色が出たりするんです。
そういうのを見つける楽しさもあったりします。
あと、あえて写真の間に境界線を何も付けなかったんです。
そこで、たとえば自分の顔を半分、友だちの顔を半分映して
ひとりの顔をつくってみたり、
そういう遊びもしてもらえればいいなと思っています。
岩田
2人用になりますけど、
Wi-Fi通信を使えば、遠くの人ともつながるんですよね。
実は「ライブキャスター」のデモは
ずいぶん前に石原さんのところを訪れたときに
突然見せられてビックリしたんですけど、
あとからよく考えてみると、ハッキリ言ってあれは
「ただ自慢したかっただけ」だったんじゃないかと(笑)。
石原
そのとおりです(笑)。
岩田
そう思ってしまうくらい、
わたしも「おおっ」と思ってしまったんです。
あのようなものが、自分の子ども時代にあったら、
どんなにあれで遊んだだろうかと思いました。
増田
(笑)
岩田
わたしや石原さんの世代だと、
子どもの頃にトランシーバーを手に入れた人は一躍ヒーローになり、
みんなでいっしょに遊んだという記憶を持っていると思うんですが、
あのようなものが大幅にパワーアップして、
世界中の子どもたちがテレビ電話のような道具で
かんたんに遊べる時代がきたんだと思ったくらい
“夢の道具”だと思いました。