5. 「♪チロリロリロリン」が鳴るとき

岩田

ちなみに、「社長が訊くWiiプロジェクト」の
→『トワイライトプリンセス』のときのインタビューでは、
“ゼルダらしさ”という言葉が頻繁に出たんですが、
DSの『ゼルダ』チームは“ゼルダらしさ論”について
どれくらい語ったんですか?

岩本

いや、正直に言って、そんなに語ってないです。

岩田

でも、すごくゼルダらしいんですよ。印象が。
だからすごく語ってつくってるときも、
そんなに語らないでつくってるときも、
どっちもできるものがゼルダらしいのはなぜなんでしょうか。

青沼

なぜなんでしょうね。

岩本

でも、あまり“ゼルダらしさ”というものに
囚われないようにはしたいなあとは思っていました。
そもそも汽車というのも、『ゼルダ』に合っていないんじゃないか、
という議論も起こったりしましたし。

岩田

ああ、その話はちょっと聞きました。
「『ゼルダ』に汽車が出ていいのか?」と
論争があったという話ですよね。

岩本

そこで、汽車じゃないモノにするかとか、
そんな話も出たんですけど、
デザイナーさんとかいろんな人の話を聞いて
最終的に「汽車で行こう」ということになったんです。
そもそも「『ゼルダ』ってこういうもんだよね」というのは
人それぞれで違うものだと思いますし。

岩田

岩本さん、無理やりにでも
「『ゼルダ』とはこういうもんだ」と
言葉で言うとしたらどういうものですか?

岩本

何でしょう・・・。

青沼

難しいですね。

岩本

難しいんですよね。

岩田

まあ、そんなにカンタンに言葉になるようなら、
みんなが“ゼルダらしさ”について
延々と語る必要がないですからね。

岩本

ええ。それにあまり定格化してしまうと
逆にいい意味で逸れたものができないかなと思いますし。

青沼

じゃあ、いいですか、プロデューサーから(笑)。

岩田

はい。プロデューサーさん、どうぞ(笑)。

青沼

受け売りなんですけど・・・。

岩田

受け売りなんですか? 正直ですね(笑)。

青沼

10年も前なんですけど、
「ほぼ日刊イトイ新聞」に
『時のオカリナ』をつくったときの
宮本さんのインタビューが載ってるんです。
そのなかに、僕が「ああ、そういうことだったんだ」
という話が掲載されてまして。

岩田

最初に記事が出たときはわからなかったんですか?

青沼

たぶん読んでるんですけど、
そのときは「ふ〜ん」という感じで(笑)。
たぶん、僕が当事者じゃなかったからなんでしょうね。
『時のオカリナ』の仕事が終わって、
そのあとずっと『ゼルダ』をつくり続けることになるとは
思っていない頃に読んでますので。
ただ、『時のオカリナ』をつくった頃の話を
インタビューで聞かれたことがありまして、
昔のことなのでいろいろ忘れてるし、
復習をかねてもう1回読んでみたんです。
そしたら宮本さんが言ったことのなかに
すごく印象的な言葉があったんです。

岩田

それはどんな?

青沼

→比較するゲームが他にないというところを見てほしい」と。
他がやろうと思わないことをやるのが
『時のオカリナ』だったんです。

岩田

確かに、『時のオカリナ』は他に比較するゲームがないくらい
圧倒的な存在をめざして、それをやりきったというのは
すごく説得力がありますね。

青沼

だから、とても細かいところまでつくってあって。
そこまでやらないと、圧倒的なもの、
人がやらないものはできてこないのかなあと。
今回もさっき話に出た、線路についても、
最初の頃にいろんな実験を繰り返して、
言ってみれば、「そんなことは面倒だから、やめといたら」
みたいなことが最初にあってもいいと思うんですけど、
「やってみないとわかんないよね」
ということをやってるということ自体が・・・。

岩田

「他がそこまでやろうと思わないことまで徹底してやる」
ということなんですね。

青沼

そうです。
「汽車をこんなふうに扱ったゲームはなかったでしょう」
というところを今回はめざしたんです。
だから、先ほど岩本さんが言ったように、
「『ゼルダ』に汽車ってどうなんだろう?」
という意見も途中で出てきたりしたんです。
でも僕は、汽車はOKなんです。
「汽車が他では描けないものになっていれば、
それは『ゼルダ』なんだ」という気持ちだったんです。

岩田

なるほど。

青沼

ちなみに岩田さんから見ると
『ゼルダ』とは一体どんなものですか?

岩田

わたしにとっての『ゼルダ』らしさとは
やってるときは「これって本当に解けるの?」と
ものすごく悩んでいたのに、
何かのキッカケで解けたときに
と鳴って(笑)、
その謎解き音を聞くと、あれほど苦労したのに、
次もすぐやりたいと思わせられるところですね。

青沼

それはたぶん、つくってる側もいっしょです。

岩本

ああ、いっしょですね。

岩田

なるほど(笑)。
開発で苦労して苦労して、
悩んだすえに落としどころを見つけたときに、
アタマのなかであの音が鳴ってるんですね。

青沼

鳴るんです(笑)。

岩本

鳴りますね(笑)。

青沼

本当にしんどくて、ギリギリで出した答えとかで、
「意外といいじゃん、コレ!」となったときに、
みんなのアタマのなかには・・・。

岩田

あれが鳴ってる(笑)。

一同

(笑)

岩田

あれ、ゲーム史に残る効果音じゃないですかね。

青沼

耳から離れないですし。

岩田

離れないです、アレ。

青沼

実はちょっとずつ変えたりしてるんですけど、
大きく変えることはできないんですね。
変えたらぜんぜん違うものになってしまいますので。

岩田

絶対に変えてもらっちゃあ困ります(笑)。
あの音と、だけは。

青沼

やっぱり変えられないんですよね。
老舗にある秘伝のタレみたいなもので(笑)
僕たちはそれを引き継いでるようなもんですから。

岩本

その伝統はちゃんと守ってますね、みんな。
そこを変えようと言う人は誰もいないですし。
やっぱりそこが『ゼルダ』だと、
みんなわかってるんでしょうね。

岩田

それにしても『ゼルダ』をつくる行為自体が
『ゼルダ』の謎解きと同じだというのは面白いですね。

青沼

自分で言いながら、ちょっといいかなと思ってしまいました(笑)。

岩本

アタマのなかで、あの音が鳴りました?

青沼

はい(笑)。